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みなさんは、学生時代のアルバイトもふくめると、 仕事を何種類くらい経験しましたか? わたし、オガワは、接客業5種類くらいと、印刷業2種類、 それから事務系をあまた。 おんな30にして、数だけは多いほうかな、 と思うのですが、 せっかく女にうまれていながら、 「女」をウリにする水商売を経験していません。 そもそもわたしは、 「キャバクラ」がなんであるのかすら、分かっていない。 「へるすとちがうの?」と聞いて、 「そりゃ、風俗!」と怒られるくらいの無知っぷり。 でも、周りのひとたちに聞いてみたら、 ほとんどの女性は、くわしいことを知りませんでした。 とうとうと説明を始めるのは、たいてい男性のほう。 でも、きまって言うんですよね、 「まぁ、オレはああいうとこ、好きじゃないけどね」。 そうかい、そうかい。 ならば聞いてみよう。 都合のいいことに、わたしには、 新宿で「ナンバー・ツー」の座につく 友だちがいるのです。 せっかくだから、この機会にじっくりと、 男性諸氏の、 キャバクラ嬢の気をひくための一所懸命っぷりと、 サービス業としての「キャバクラ嬢」について、 話を聞いてみることにしました。 ●キャバクラってなに? キャバクラ嬢は、店に出るときの名前として、 「源氏名」というものを持っています。 「げんじな」。つまり芸名ですね。 「昔の名前で出ています」なんて古い歌がありました。 古いか、そうか、さすがにな。 今回、話を聞いた女性の源氏名を 仮にレイナちゃんとしましょう。 源氏名(仮)レイナちゃん、27才。 キャバクラ業界5年目のベテランです。 勤めた店は、これまでに5軒。 キャバクラというのは、 かんたんに言うと、時間で女の子のココロを買う場所。 その店舗数の多さゆえ、店ごとのキャラも多彩で、 当然のことながら、待遇も店によってまちまちです。 だから、そこで働くキャバクラ嬢たちは、 「じぶんにとって、よりよい環境の店があるかも」 と、つねに思い、ほんの数ヶ月でその店を辞めて、 ほかの店に移ることが多いんだそうです。 そんななか、レイナちゃんは、ひとつの店に長く勤め、 地道に構築した常連客群をフイにしないよう、 努力するんだとか。 わたしは、レイナちゃんがキャバクラ嬢になる前に、 いっしょに昼間の事務の仕事をしたことがあるので、 このエピソードを聞いて、 彼女の性格がとてもよく出ているなと思いました。 レイナちゃんは、 仕事が二度手間になることを極端にきらうのです。 おなじ特徴をもつわたしと、 そんなことで気が合ったのでした。 めんどうくさがりゆえに、築いたものを守る、 かといって、執着するのではなく、 じぶんにとって必要がなくなったら あっさりと離れることができる、 レイナちゃんはそんなタイプの女性なんです。 じつは、レイナちゃんも、じぶんが働き始めるまでは、 キャバクラがどんなサービスをする場所なのか、 正確には分かっていませんでした。 「キャバクラ嬢は、給仕する人だと思ってた」とか。 給仕、つまり、お酒をつくってあげたり、 たばこに火をつけてあげたり、 はたまたテーブルをふいたりする人だと。 もちろん、こういったこともするのですが、 これだけじゃぁ、足りなかったのです。 そう。オレのココロは満たされないぜ、ベイベー。
キャバクラは、基本的に「時間制」だそうです。 店によって、1コマが20分だったり、 60分だったりしますが、 そうやってあらかじめ設定された時間があり、 その女の子を気に入った場合、 コマの区切りのタイミングで、「指名」ができます。 もちろん、女の子をチェンジするのは自由。 設定時間や金額は、店によって異なるそうな。 お酒は「ハウスボトル」といって、 テーブルにあらかじめ用意されたお酒を 自由に飲むことができます。コミコミ料金。 その料金はピンキリで、 かなり安いところは、1コマで2,000円から、 お高い店では 1コマ、1万円以上ってところもあるそうです。 いわゆる「ボトル・キープ」もあり、 レイナちゃんが働いていたある店では、 高いボトルを入れてくれたお客さんに、 「ほっぺにチュウ」をするサービスがあったそうです。 うーん、オトナの世界。 そして、キャバクラ嬢は、 「クラブ」にいる「プロのホステス」よりは 「キャバクラ」にいるややシロウトっぽい女の子のほうが、 なんとなくほっとするってことで好まれる傾向にあります。 ●擬似恋愛をする場所!? レイナちゃんは業界に入ってみてはじめて、 お客さんのなかには、高いお金を払って、 お酒を飲みにくるだけじゃないひとがいる、 ということを知りました。 そう。 彼らのなかには「非日常空間」を求め、 そこへ「擬似恋愛」をしにくるひとがいるのです。 なんだか重たいぞ。 キャバクラは本来、お客さんと話をして、 たのしい時間を提供する場所なのですが、 お客さんによっては、 ココロの満足をも求めてしまう場合があるのです。 というか、たいがいのお客さんは求めるのかしら。 そんな殿方のきもちを象徴するかのように、 キャバクラ業界には、 「色恋営業」ということばがあるそうです。 ウデっぷしのいいキャバクラ嬢は、 じぶんを指名してくれるお客さんにたいし、 その人へ「好意」をもっている雰囲気をかもし出しつつ、 「好きよ」とか、「つき合って」ということばを使わずに つかず離れずで、その人から指名をとり続けます。 指名をとることで、キャバクラ嬢の収入は増えるわけで、 このあたりの駆け引きが 彼女たちの生活を左右しているのです。 レイナちゃんは、この色恋営業のほんのとっかかりとして、 「店を出たんだから、本名の由美子って呼んで」 と言うことがあるそうです。 こう言われたお客さんは、 「オレはレイナちゃんにとっての特別な存在なんだ」と 思うことができ、シヤワセな気分を味わえるんだそうな。 …でも、レイナちゃんの本名は由美子ではないんだな。 ●ナンバー・ワンになるということ キャバクラ嬢っていうのは、サービス業のなかでも、 なかなかたいへんな職業のようです。 お客さんを必要以上に「本気」にさせてはいけないし、 かといって、「シラケ」させては商売にならない。 モノを仕入れてきて売る、ということとは まるでちがう仕事ですから、言うまでもなく、 通りいっぺんの接客スタイルでは、まったく通用しません。 お客さんの求める話題をさがして、 お客さんの求めるリアクションをさぐる。 キャバクラ嬢のもつ個性と、職業的なカンが ひとつになってはじめて収入につながるんですね。 レイナちゃんは言いました、 「それはそうなんだけど、 若くて、かわいくて、 ワガママな女の子が ナンバー・ワンになるのが世の常なのよ」 あれー? 頭のキレる女性よりも? でもこれも、なんとなく分かる気がしますよね。 クラスに、かならずひとりはいたもんです、 よくしゃべり、“的確に”ワガママな女の子。 それで顔がお人形さんみたいにかわいいの。 わたしは十代のころ、そういう子を横目で見ては、 「あのしゃべり方と態度は、 男ゴコロを分かってやってるんだろうな」って、 思っていたもんですが、どうやらそれは、 そのまんま商売にできる才能だったんですねぇ。 あっぱれ。 それから、もうひとつ、 こういうパターンもあるそうです。 レイナちゃんの同僚に、顔立ちはパッとしない(失礼)し、 年齢も30才を過ぎているのですが、たったの3ヶ月で、 ナンバー・ワンの座をゲットした女性がいました。 その女性の大きな特長は「母である」ということ。 ふむ、なるほど。 わたしの持論のひとつに、 世の殿方の大半はマザコンである、というのがありまして、 これは、けして悪口ではありません。 おかあちゃんのことは、 いくつになっても大切にしたいもんですよね。 ココロを癒しに来た場所で、 知らず知らずのうちに母性を求めてしまうというのは 当たり前のことなのかもしれません。 キャバクラ嬢たちは、 いつかじぶんもナンバー・ワンの座をつかもうと、 日々奮闘しています。 どうやら水面下では、けっこうし烈なお客さんの争奪戦を くり広げることがあるみたいです。 ありがちなのは、「派閥」をつくって 売れっ子の女の子をみんなで追い出す作戦。 こわいですね、女の世界! でもこの業界では、お客さんにむかって、 彼がいつも指名をするキャバクラ嬢の悪口を聞かせたり、 「からだ」をつかってそのお客さんを奪うといった行為は ご法度とされています。 ルール違反をしていることが店に知れると、 そのキャバクラ嬢はクビを切られてしまうんだそうです。 ●なぜキャバ嬢になったの? ところで、わたしの知るかぎり、レイナちゃんは、 昼間の仕事もじゅうぶんにこなせるひとでした。 ではなぜ、 キャバクラという業界に足を踏み入れたのでしょう? 彼女は、にっこり笑って答えてくれました。 「そりゃ、やっぱりゼニよ」 明快! 「もともとは、借金を返すために働き始めたんだけど、 それをぜんぶ返したところなんだ。 で、来年の3月までに、 ちょっとまとまったお金を稼ぎたいのよね。 ネイルの学校に行こうと思ってるの。 じぶんでケツ決めてやるぶんには、 キャバ嬢って、いい仕事だと思うな」 と、レイナちゃんは言います。 彼女のように、目的を持って働いているひともいますし、 「遊ぶお金がほしい」とか 「結婚資金♪」っていうひともたくさんいます。 また、「親がつくった借金を返す」とか、 「コドモの養育費」というパターンも多いんだそうです。 おなじ仕事でも、働く目的は十人十色。 この目的によっても、 そのひとそれぞれの接客パターンがあるのかもしれません。 それにしても、結婚資金を稼ごうというひとが展開する 「擬似恋愛」って、ちょっとこわい気がしますね。 のぞいてみたいような、みたくないような…。 ●ぶっちゃけ、歓迎される客って? キャバクラが、擬似恋愛もふくめ、 殿方がココロを癒しに来る場所であり、 お客さんはその時間と、サービスにたいしてお金を払う、 ということは分かりました。 そして、キャバクラ嬢たちにとっては、 あくまでもにこにこ笑顔でお話しするのが「商売」である、 というのは、言わずもがなであります。 でも、いるでしょ? 分かってない客って。 「そりゃーいるよ。いまくり。 店の中で本名聞いてくるのとか、ダメな客の典型。 ぜんぜんイキじゃないっての!」 粋か、粋じゃないか。 これ、2003年のわたしのテーマにしたいわ。 キャバクラ嬢にとって、 まじで口説いてくる客は、いいカモであるのと同時に、 危険な客でもあるわけです。 店の外で、朝方までキャバクラ嬢の帰りを待ったりしちゃ、 ダメですぞ。無粋。…てゆうか不毛。 キャバクラ嬢は仕事として、 お客さんには最大限たのしんでもらいたいと 日々努力しているのです。 それなのに、気をひこうとするあまり、 「そのことばも“営業”でしょ? 仕事だから言うんでしょ?」 って、しつこく言われたら、 キャバクラ嬢のきもちを踏みにじることになりますよね。 じぶんだけが、 レイナちゃんにとっての「特別な存在」なんだと 思いこみたいのは分かりますが、 それは逆効果ということですね。せつないことに。 ん? でもふつうの恋愛でも、あんまりしつこく 「ねぇ、わたしのこと好き? ほんとうにほんとうに好き?」って、 聞いたら引かれますもんね。…聞いたことないけど。 擬似恋愛だからどうこうっていう前に、 ひととの関わり方のモンダイなのかもしれません。 それが証拠にレイナちゃんは言います。 「キャバクラ嬢たちから素ぅでモテるのは、 ここが擬似恋愛の場だということを わきまえているひとなの。 ここでは店と女の子が協力して、 最大限のサービスを提供しようとしてるわけでしょ。 こちらが提供した『場』に うまいことノッて来てくれれば、 わたしたちもその時間をたのしめて、 お客さんにも、よりたのしんでもらえるはずよ」 そうか、空気だ。空気を読めばうまくいく。 これすべてに通ずる道なり…かもしれない。 ●副都心キャバクラ道。 レイナちゃんいわく、 「キャバクラ嬢を仕事に選んだからには、 お客さんのグチや自慢話、じっくり聞くわ。 お客さんの目を見て、 望んでいるリアクションを 返してみせるわ!」 とのこと。 たとえ、タネの分かる手品を長々と見させられても、 キャバクラ嬢は、 にこにこ笑って、「すご〜い」って言い続けるし、 「出張帰りなんだ」って、 笹かまぼこ差し出されても 「うれし〜ぃ」って、受け取ってくれます。 「おんなはアタマが悪いくらいのほうがかわいい。 近頃のOLは、何かっちゃ、理屈で返しやがる。 その点、レイナちゃんは、かわいいねぇ」って 言われても、してやったりな顔、 ぜったいにしません。 それから、こんなことするキャバクラ嬢は、 たぶんほかにはいないと思いますが、 「オレってダメ人間だからさ〜」と メソメソするひとには、 “レイナ・スペシャル”をサービスしてくれるそうです。 ついたての陰に隠れて、胸ぐらをつかんでくれるって…。 『あまったれてんじゃないよ! ぜんぶうまくいってる人間なんて、 この世の中にいるわけないだろ!』 ってさ。 お好きな方にはたまらない叱咤激励ですわね。 キャバクラ嬢は、いつも脳みそフル回転で接客しています。 冒頭でもふれましたが、 キャバクラでは、 シロウトっぽい女の子がウケると言われています。 でもどうやら、この道のベテランさんこそ、 「それっぽい演技」をしているということですよね。 はっはぁん。たいしたもんだ。 今回、レイナちゃんに話を聞いてみて、 お客さんとしてキャバクラに行ってみたくなりました。 そしてそのときは、 ぜひイキに過ごしたいものであります。 (おしまい) |
留守番番長オガワへの激励や感想などは、 2002-12-29-SUN |
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