ジョージ |
ぼくたちって、お買い物、好きよねえ。
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つねさん |
好き好き。
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ノリスケ |
だぁい好き。
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ジョージ |
いま、何がほしい?
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ノリスケ |
うーん、そうだなあ、
品がよくて質のいい半ズボンがほしいなあ。
上にジャケット着れるみたいなのね。
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つねさん |
「ええとこのボン」みたいな格好ね。
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ノリスケ |
好きなの、そういうの。
でも、いつも行くお店には、
半ズボン、いいのがなかったの。
新規開拓しようかとも思うんだけど
高そうなブランドショップは
どうも気後れしちゃうの。
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ジョージ |
ブランドショップで
バカにされたことって、ある?
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ノリスケ |
えーとねー、
あんまりブランド・ショップで
買い物したことないんで、
そういう経験もないんだけど、
外国のブランド・ショップで
バカにされている日本人を見て、
それを反面教師にして振る舞ったら、
バカにされずに済んだ経験はある。
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ジョージ |
どこ?
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ノリスケ |
ベルギーのブリュッセル。
洋服じゃなくて、チョコレート屋さんなんだけど、
その世界では一流の名店がいっぱいあるのね。
ノイハウス、ゴディバ、レオニダス、
ウィッタメール、……何件も
「名店」といわれるお店の本店があるの。
で、ノイハウスの本店に入ったら、
日本人のおばちゃんがワーッといて、
日本語で買い物してるのね。
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つねさん |
うん。
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ノリスケ |
「これっ、1個ーっ!」
ってやってるの(笑)。
で、店員さんは、……ブリュッセルは、
いいお店だとフランス語なんだけど
英語もちゃんと通じるのね。
チョコだと、いちばん高いウィッタメールが
フランス語だったかな?
あとのお店は、英語を話してくれるのよ。
でもねえ、おばちゃんたちはみんな日本語。
それを、店員のお姉さんたちは、
「しょうがないなあ……」て顔しながら
冷たそうに対応しているわけ。
もう無表情でハイ、ハイ、ハイ、って。
で、これは、こういう対応のお店なのか、
人種差別的にこうなのか、
この人たちだからこうなのか、
よくわかんなかったもんだから、
ためしてみようと思って。
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つねさん |
どやって?
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ノリスケ |
胸を張って奥へ進んで、
英語で「申し訳ないけれど、迷っているので、
相談に乗ってもらえますか?」
って言ったのね。そしたら、突然、
中の1人が二コーッとして、
「こちらへどうぞ」って言って。
他のお客さんを無視するように
なんだか特別に扱ってくれたの。
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ジョージ |
ふうむ。どんな相談したの?
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ノリスケ |
当時の僕の上司、みんな女性だったの。
「5人の女性の、上司というか、
年上の女性におみやげを買いたいんですが、
どうしたらいいでしょうか?
選んでもらえますか?」って。
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ジョージ |
そしたら?
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ノリスケ |
「あなたは、どう思いますか?」
って訊かれたの、僕。だから
「ぜんぶ違う種類だけど、
値段が同じようなところで、
5種類買ったらいいんじゃないかと
思うんです」って。でも、
「それは違いますよ」っていわれて。
「その5人の女性は、もしかしたら
仲がとてもいいのかも知れないけれども、
でも女性というのは、絶対
『あの人の貰ったものの方がいいわ』
って思うものですよ。ですから、
同じものを5つ買って、
それぞれにさしあげたらいかがですか?」
っていわれたの。
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つねさん |
なるほどねえ。
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ノリスケ |
で、別に高くもなく安くもなくって
いうのを選んでくれて、買ってきた。
ああ、相談して、良かったなー、
と思ったよ。
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つねさん |
あ〜、僕もブランドって、
ほとんど買わないけど……。
初めて入ったのがパリの
ヴィトンの支店で、
本店より大っきいいっていうんで、
一緒にいたツアーの人が
買いものに行くからって、
ついていったんだよ。
そしたら……確かにバカにされるわな、
って思ったよ。
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ノリスケ |
どういうところで?
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つねさん |
なんか、ノートに
欲しいものリストを書いててさ。
それこそ、知りあいから、
「サイフ何個か買ってきて」みたいなの。
それを日本語で言ってるのね。
向こうの店員さんも、
日本語で応対するわけよ。
「あしらう」みたいな感じだったよ。
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ノリスケ |
店員さんが日本人なの?
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つねさん |
日本人はいなかったな。
向こうの人で、日本語喋れたの。
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ノリスケ |
あ、そうなんだ。
なんか……買うほうに、敬意がない感じね。
そういう買い物、ちっとも楽しくないと
思うんだけどな。
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つねさん |
で、その中で喧嘩が起きたの。
「おつりの額が違う」って。
そのうちマネジャーさんみたいな女の人に
「うちは絶対そんなことありません」
って日本語で言われてて。
なめられてんのか、なめられてないのか、
よく分からなかったけど。
関西のオバチャンだったけど、
負けて帰ってたよ。
で、あわ〜、ブランドはちょっと、
オジサン怖いわー、
っていうふうになっちゃった。
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ジョージ |
んー、でも、仕方がないかな?
と思うことが多いよね。
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つねさん |
あ、そのバカにされちゃうのが?
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ジョージ |
っていうのがね、
ブランドのお店っていうのは、
他の物販のお店と違うっていうことを、
いちばん最初に知っとかなきゃ、
ダメだよ。
僕ね、世の中でね、いちばん、
いちばん日本人が見苦しく
見える場所っていうのが、
ハワイのルイ・ヴィトンだと思うんだ。
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ノリスケ |
それは……?
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ジョージ |
んーとね、まず、
海外のブランドのお店なのに、
お客さんのほとんどは日本人。
それで、その日本人が、我勝手に、
商品を手に持って、
あれじゃないこれじゃない、って
ギャーギャー、日本語で叫びながらね。
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ノリスケ |
……興奮しちゃってるんだね。
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ジョージ |
で、なんか欲しいのが見つかると、
ガサッてつかんで、店員さんに、
私、これが欲しーのーっ、
ていうことをわめき散らすでしょう?
これって、スーパー・マーケットの
特売売り場で買い物してるみたいなんだよね。
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ノリスケ |
同じだ!
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つねさん |
同じ感じ、するよね。
だから、それこそ、ほら、
メモってきてさ。
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ジョージ |
そうそう。
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ノリスケ |
海外旅行のガイド・ブックの
基本情報の欄には、
商品を手に取ってはいけません、
というの、書いてあるけどね。
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つねさん |
僕、行ったときはね、
触らせてもらえなかったよ。
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ジョージ |
うん、それが普通だよ。
物を買うときに、
いちばん簡単に物が買える場所が
スーパー・マーケットでしょ?
で、スーパー・マーケットっていうのは、
お客さんが自分で商品を取って、
レジまで持ってってお金を払う、
セルフ・サービスなわけじゃん。
レストランでいうと、
マクドナルドみたいなもんだよね。
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ノリスケ |
そうだよね。
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ジョージ |
で、その次に簡単なのがデパートなの。
セルフ・サービスじゃないけど、
自分で商品を手に取って確かめながら、
決まったら売り子さんを呼んで、
これ包んで下さい、
っていうのがデパートだよね。
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ノリスケ |
うん。
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ジョージ |
で、この2つはね、お店なんだよ。
だけど、ブランドの直営店っていうのは、
お店じゃなくって、
例えばルイ・ヴィトンだったら
ルイ・ヴィトンっていう商品を売っている
“お家”に入って行くわけだよ。
で、物を買うんじゃなくって、
そこの売り子さんから物を売ってもらうのが
ブランドのお店だから、だから、
絶対スーパー・マーケットみたいな
振る舞いはしちゃいけないんだよね。
だけど、そういうふうにするの。
しちゃうの。
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つねさん |
特に海外なんか、それっぽいよね。
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ジョージ |
言葉が通じない、とかって
コンプレックスがあってね。
「金は持ってるんだから!
買ってやろうって言ってんだから、
あんた、四の五の言わずに売りなさいっ」
みたいな、感じだよね。
これじゃあねー、尊敬はされないです。
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ノリスケ |
そうだよね。
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つねさん |
ん、でも、やりようみたいなんが、
あるような気が……。
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ジョージ |
ブランドのお店で尊敬される
お客様になるのって、
けっこう簡単なんだよ。
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ノリスケ |
簡単なの?
その、何でも買うからいいお客さん、
ていう意味じゃなくて?
一見さんでも?
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ジョージ |
うん、そういうんじゃなくってね。簡単だよ。
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ノリスケ |
えっ? テクニックなの?
これを守れば大丈夫、ってことなの?
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ジョージ |
エチケット。
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ノリスケ |
エチケット!
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ジョージ |
お買い物する際のエチケット。
要は、人が人から買うのが、
ブランドのお店のエチケットなの。
だから、まず「私は人間ですよ」
っていうことを言わなきゃいけないの。
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ノリスケ |
うん。
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ジョージ |
で、言うと同時に、宣言だよね。
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ノリスケ |
うん、うん。
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ジョージ |
例えば、ルイ・ヴィトンの
お店のドアを一歩入ったときに、
私はこんな他の日本人みたいに、
動物みたいな存在じゃなくって、
人間なのよ、と。
だから、どうか私を人間扱いして下さい、
っていうことをいちばん最初に宣言するの。
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ノリスケ |
うん。わかるけど、
……それは、どうしたらいいの?(笑) |
(つづきます)