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APPLE
新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

お買い物のエチケット その2
シャロン・ストーンじゃない私たちは?

ノリスケ どうやって「私は人間です」って
宣言するの?
つねさん それ、さっきノリスケ君がやったような、
ちゃんと会話をする、みたいな……?
ノリスケ 言葉があまり得意じゃない国だったら?
でも、旅行者って、言葉ができないからって
卑屈になることはないよね。
ジョージ だからね、
いきなりね、いきなりカウンターとか、
もの置いてあるとことか、
ショー・ケースに歩いて行くんじゃなくって、
なんか手持ちぶさたそうにしている
売り子さんを1人、見つけるの。
で、目と目が合ったら、
ニコーッてすればいいのよ。
つねさん んー。
ジョージ そういうふうにニコーッてすると、
向こうもニコーッてしてくれるから、
そしたらこっちから近づいて行くんだよね。
んで、近づいてって、
で、んーと、ここでは、
いくつかの言葉が、必要です。
ノリスケ うん。
ジョージ 現地の言葉でもいいし、
世界標準の英語でもいいや。
できればパリに行くときは
フランス語がいちばんいいんだろうけど、
ご挨拶。“こんにちは”。
これがいちばん最初の言葉だよね。
で、売り子さんに向かって、
「こんにちは」って言うと、
向こうが、「こんにちは」って
言ってくれるからね。
そしたら、ここで、
私とあなたは人間同士ってことが
確認できるのよ。
「よろしくお願いねー」って気持ちが
伝わるの。
ノリスケ 人間同士か。たしかに、向こうを、ただの
誰でもいい売り子さんだっていうふうに
扱っているお客さんを見ると、
あまりいい気分がしないものね。
それをやっちゃいけないのね。
ジョージ そそそそ。
そう扱っているから、
向こうもそのつもりで、
うん、ま、しょうがないわね、
っていうことになっちゃうわけで。
ユニクロのTシャツなんかと違って、
たとえばルイ・ヴィトンの
カバンなんていうのは、
数に限りがあるわけなの。
別にねぇ? お店側としてみたらば、
こんな黄色い猿に売らなくてもいいわけ。
ノリスケ そうだね。
ジョージ 置いとけば、明日もっと素敵なね、
シャロン・ストーンかなんかがやってきて、
「ここにあるルイ・ヴィトンぜんぶ頂くわ」
って言うかも知れないの。
ノリスケ うん。
ジョージ だから、別に売らなきゃいけない、
義理はないのよ。だけど、ニコッてされて、
こんにちは、って言ってくれたら、
あー、この人には売ってあげようかな?
と思うんだよね。
つねさん は〜。
ジョージ で、売ってあげようかなー?
と思ってくれて、
こんにちは、って言い返してくれたらば、
お客さんの方も、
「この人から僕は買えばいいんだ、
 よろしくお願いしますね」
っていうことになるわけじゃない?
ノリスケ うん。
ジョージ で、ほんとにとびきりの笑顔で、
素敵な発音で、こんにちは、って言えたらば、
「椅子にお座りになりますか?」
って言ってくれるから。
ノリスケ おぉ〜。
つねさん ほぉ〜。
ジョージ でも、ここまできたら、
買わなきゃダメでーす。
ノリスケ そうですね、買わなきゃ(笑)。
つねさん 椅子に座っちゃってから、
ジャスト・ルッキングは、
ダメなのね?(笑)
ジョージ そう。ジャスト・ルッキングは、許されない。
だけど、もしね、椅子にお座り下さい、
って言われて、まだ買うかどうか
分からなかったとしたら、
先に「ジャスト・ルッキング」って言えばいい。
ノリスケ うん。
ジョージ でもね、そんときに
ジャスト・ルッキングって言っても、
その人がずっとついてきてくれてる筈だから。
つねさん ふんふんふん。
ジョージ で、お店のなか見ながら、
あ、あれが良さそうだなー、と思ったら、
それを、そっと指を差すの。
ノリスケ ここは例の「背筋を伸ばして」よね。
ジョージ そしたらもう、言葉なんか掛けなくったって、
売り子さんは、それを持ってきてくれるよ。
ノリスケ そうだよね。ニッコリして、毅然としてるのが
大事なんだろうね。
それで、品物が手もとに届きました。
ジョージ で、見るでしょ? 見ながら、
うーん、ダメだな、
これを買うわけにはいかないな、と思ったら、
サンキューって言いながら、
それを手渡せばいいんだよ。
で、悲しそうな顔をして、首を左右に振れば、
あ、この人はこれを買いたかったわけでは
ないんだ、ってわかる。
ここでは「サンキュー」が大事よ。
そして、指さしたときに、
プリーズの一言がいえれば、最高だよね。
つねさん あ〜。
ノリスケ そうね。っていうことは、
言葉が出来ないことを、
バカにされることは、決して、ない?
ジョージ ないよ。そこは毅然としてていい。
だって、向こうも言葉しゃべれないんだもん。
僕たちの言葉が。
ノリスケ お互い様だよね。
ジョージ うん。だけど、
人が人と接するときに大切な言葉は、
挨拶の「こんにちは」と、
何かお願いしたときの「プリーズ」と、
で、それに対してお礼を言うときの
「サンキュー」でしょ。それから、
じゃあ失礼しますのときの「グッド・バイ」。
この四つさえ言えれば、オッケーなのよ。
ノリスケ うん。
ジョージ で、それを、笑顔と、優雅な仕草で
繰り返せばね、絶対バカにされることはないよ。
つねさん ……そっか。ハウ・マッチしか言わないもんね。
ジョージ それはダメよ。
ノリスケ ディスカウントっ!
ジョージ そう。で、最悪のシナリオはね(笑)、
日本の雑誌から切り抜いてきた、
ルイ・ヴィトンのカバンかなんかの
写真を手に握りしめて、店に入るなり、
デェーーーッと売り場の真ん中まで行って、
接客している従業員つかまえて、
「これっ !これっ! これっ!」て、
その写真だけ見せる女?
も、これはね、多分ね、
もう警備員呼んでね(笑)、
出てけ、と言いたくなるはずなのよ。
ノリスケ 出入り禁止(笑)。
ジョージ もし、それでもその彼女が買えるとしても、
多分そこのお店のなかにその瞬間いる、
60人くらいのお客さんの接客が終わって、
いちばん最後だよね。
誰よりもいちばん最初に、
誰よりも大切に扱ってもらおうと思ったら、
いちばん最初に「こんにちは」。
つねさん 気持ち良くしてもらいたかったら、
気持ち良く接することなわけね。
ジョージ うん、そうだよ。
ジョージ だから、とくにね、
ルイ・ヴィトンみたいなとこだと、
わりと開放的にお店、作ってあって、
みんなもう、商品のこと知ってるし、
置いてあるのって、ほとんどがカバンでしょ?
最近でこそ靴とか洋服売ってるように
なったけど、でも、ほとんどの人は
カバン買いに行くわけじゃない?
そうすると、人の顔を見る前に、
物を見に行っちゃう。これは、絶対ダメ。
つねさん あ〜。
ジョージ まずは人の顔。
ノリスケ うん。
ジョージ うんと、ルイ・ヴィトン的なお店というと、
あとには、プラダだとかグッチだとかも、
そうかな?
これはー、物がハッキリしてるから。
物がハッキリしてるからこそ、
人の心をまずゲット、っていうやつだね。
ノリスケ うん、うん。でもさ、
欲しい商品が決まってるっていうことも
あるじゃない? その場合は?
ジョージ 「絶対これが欲しいんだ!」って?
ノリスケ うん。欲しい、っていうときがあるとする。
だけど、買い物ってさ、
特にブランド物ってさ、
その商品を売ってる場所を含めて
ぜんぶ買い物だとするならば、
そこに行って楽しく迷ったりすることが
とっても素敵なことだと思うの。
なのに、「これだけが欲しい」っていうことって、
格好悪いような気もするんだけど、
でも、お目当ての品だってあるわよね。
そのかねあいが、難しい……。
お目当ての品がないとき、
というときの、身の処し方?
困っちゃうような気がする。
ジョージ あー、それはね、エルメスでよく言えること。
エルメスっていうとね……、
(つづきます)

2001-06-19-TUE

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