ジョージ |
エルメスっていうと、
女の人はだいたいケリー・バックとか
バーキンとかを買いたいっていうでしょう?
だけど、ほとんどのエルメスには、
ケリー・バックとかバーキンを置いてないんだよ。
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ノリスケ |
そなの?
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ジョージ |
そうすると、予約しないと
いけないことになるの。
で、予約しないといけないっていうことは、
予約しさえすればいんじゃないか?
って、思うでしょう?
これ、大きな間違いなんだよね。
あの、ハッキリ言って、
エルメスの人にとって、
ケリー・バックしか欲しくない
日本の女の子は、いいお客さんじゃないの。
だって、ケリー・バック1個買ったら
終わりだから。
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ノリスケ |
エルメスにはもっといろんな
商品があるのにね。
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ジョージ |
うん。で、例えば、そうだな、
男の人だったとしたらば、
銀座のクラブのおねえちゃんでもいいし、
奥さんでもいいよ。あるいは娘から、
ケリー・バックが欲しいの、って言われて、
買いに行ったとします。
で、今のルイ・ヴィトンのような方法で、
売り子さんと目と目を合わせてニコッとして、
近づいてって、
「こんにちは、ケリー・バックが
欲しいんですけど」って言うと、
向こうの人はもう、戸惑うしかないんだよね。
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ノリスケ |
うん。ないから。
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ジョージ |
「すいません、ケリー・バックはございません」
「あー、じゃあ、オーダーします」
「あ、今、オーダーしていただいても、
多分3年後くらいになるんですけど、
よろしいですか?」って言うしかないんだよ。
で、そういうときに、どうしたらいいか。
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つねさん |
え? 何か、方法があるの?
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ジョージ |
確実とは言えないけれど、あるの。
僕の経験からなので、
男性が買いに行く、というケースで話すわね。
エルメスのなかには、
男の人が日常使いで持ってて
恰好いいものがいっぱいあるよね。
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ノリスケ |
あー、あるねー。
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ジョージ |
例えば、ナイフだとか、
名刺入れだとかね。
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ノリスケ |
灰皿とかもある。
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ジョージ |
あるいは、庭いじりの道具とかも
あるじゃない?
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ノリスケ |
あるねー。
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ジョージ |
双眼鏡も売ってたりとかするの。
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ノリスケ |
へー、こんなもの出してるんだ、
っていうもの、エルメスにはいっぱいあるよね。
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ジョージ |
そう。だから、まず、
そういうものだけを置いてる
ショー・ケースの方に行って、
「ああ、長いあいだ探していたナイフがあった!」
とか、
「見せて頂けますか? エルメスって
カバンもいいですけど、やっぱ男は
こういうナイフが好きだからね」
とかって言いながら、見せてもらうの。
そうすると売り子さんは、
「あ、この人は、エルメスっていう
文化が好きなんだ」
と思ってくれるんだよね。
で、大切にしなきゃいけないお客さんだ、
ということになるでしょう?
エルメスのナイフって、高いけど、
2、3万円であるんだよ。
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ノリスケ |
高いったってね。
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ジョージ |
うん。で、ペーパー・ナイフかなんかを、
「これをまず頂こう」。
ね? 2万円の投資をします。
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ノリスケ |
ふむむむむ。
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ジョージ |
そう。で、包んでもらいながらね、
売り子さんが、
「他に何か、お入り用なものはありますか?」
って聞くんだよ、絶対ね。そしたら、
「ん〜、女房からね、
前々からケリー・バックが欲しい、
って言われてたんだ。ないですよねぇ?」
って言うの。
売り子さんは、やっぱり、
ちょっと困った表情はするね。だけど、
「予約して頂けますか?」と来るはず。
「特別に、半年後ぐらいに、わたしが
御用意させて頂きますから」。
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ノリスケ |
お〜っ!?
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ジョージ |
3年が、半年後に変わるんだよ。
2年6ヶ月を短縮させることが、できるの。
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ノリスケ |
それって、店員さんに、
自由な権限があるのかな?
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ジョージ |
必ず出来るっていうわけではないんだけれども、
ケリー・バックとかバーキンとかには、
かなりのキャンセルが出るの。
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ノリスケ |
あー、なるほどね。
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ジョージ |
うちにあるバーキンとかっていうのは、
ほとんどキャンセルのだもん。
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つねさん |
そやって取ったの?(笑)
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ノリスケ |
ていうか、持ってるんかい(笑)。
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ジョージ |
ふふふ。でね、うまくいくと
その場でいろんなとこ電話かけてくれてね。
「あー、今シンガポールに1個だけ、
ケリーのキャンセルが出てるんで、
内縫いがどうとかこうとかで、
生地はこういう感じのもんですけども、
それでよろしければ
船便で積んできますけれども」
ということだって、あったよ。
そうしたら2ヶ月で手に入るよ。
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つねさん |
あ〜。
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ジョージ |
で、すべては、
ケリー・バックだけが好きな人じゃなくって、
うちのブランドすべてのことが好きな人に
便宜を図りたという気持ちだから、
そういう行動が取れるか取れないかだね。
で、女の人だったらば、
スカーフでもなくってカバンでもなくって、
エルメスにはとっても上質な
食器だとかがあるんだよ。
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ノリスケ |
あるあるある。そういうところで投資をして、
次の一手を引きだすのね。
……あそこの食器、
僕はあんまり好きじゃないけど(笑)。
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ジョージ |
ワンコロの絵が描いたような
わけの分かんない食器があったりするもんね。
じゃ、んーと、女の子っぽーい可愛い、
あの、西瓜のかたちした小銭入れだとか、
バナナのかたちした名刺入れとか、
そういうのでもいいと思うよ。
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つねさん |
そうなんだ。
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ジョージ |
これもね、3万円から4万円ぐらいだよ。
ここで、ちゃんと振る舞うのよ。
「あー、可愛いー!
わたし西瓜大好きだったから!
ここで初めて見ました!」とかって、
驚いてみせると、あー、この人は、
うちのお店に来て、いろんなところを
隈無く見てくれてるお客さんなんだ、って。
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ノリスケ |
いいお客さんだってことね。
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ジョージ |
そう。で、いいお客さんっていうのは、
いっぱい買ってくれるお客さんでも、
毎週毎週来てくれるお客さんでもなくって、
うちのお店のことを心から愛してくれていて、
すべてのことを好きになってくれる
お客さんだと思うんだよね。
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ノリスケ |
おおおお。すべてのサービス業に言える。
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つねさん |
あ〜。
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ジョージ |
だから、私はそういうお客さんなんですよ、
っていうことを、どやってプレゼンするか。
ブランド・ショップのドアっていうのは、
心理的に、すごい重たいでしょう?
でも、心理的なドアっていうのは重いんだけども、
いっかいパカーンと開くと、
普通の人は見ることが出来ない世界が
目の前に広がるからね。
下手すると、倉庫の奥の方に眠ってるやつを、
ゴソゴソゴソって出してくれて、
いかがですか? って言ってくれたりとかするの。
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ノリスケ |
そうかー。そこまでいけたらなぁ。
みんな普段から、海外旅行に行ったときに
ブランド物を買うっていう人でも、
日本にいるときに普段から
しょっちゅうそんなとこ
行ってるわけじゃないでしょう?
そうするとさ、普段の生活の中でさ、
程度の差こそあれ、そういう練習は
出来る筈なんだけどね。
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(つづきます)