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新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

生きていく私。その4
甘やかな膜のようなもの。

つねさん 仕事で僕、よく言われるけど、
好きなことができていいですよね、って。
ノリスケ 冗談じゃないよね(笑)。
つねさん じゃあ、あんた、やったらいいじゃん、って。
あなた、好きなこと、ひとつはあるでしょう?
それやろうとしないで、人のとこだけ、
上っ面見て、「いいですよね」。
それ、ぜーったいおかしいもん。
ノリスケ それ、時々突きつけられるんだけどさ。
ほんとに俺はそれが好きでやってるんだろうか?
とかさ(笑)。考えるよ。
ジョージ でも、その自問自答は、絶えずないとだめだよね。
ノリスケ 絶えずあるよ。言われると気がつくんだよ。
いいねー、好きなことがやれて、ってー。
ムカッと腹が立つんだよね、そういう意味で。
なんだけど、もう1回かえってきて、
ほんとに好きかー? 俺? っていうね、
気分も常に、同時に半分ぐらいあるよ。
つねさん だって、好きなだけで仕事できないじゃん。
どっかでいろんなことを、
自分の気持ちとかも
犠牲にしないといけないわけだし。
仕事としてするときには。
だから、それは好きなものをアレンジすることで、
流すこともあるわけだし?
ノリスケ 好きな人と仕事をしたいと思うけどね。
つねさん ああ、それはいいね。
ノリスケ うん。
ジョージ あと、それじゃあ、嫌になる、
自分が自分で嫌になることとかって、ある?
ノリスケ あるよ、いっぱい。
つねさん ああ。
ノリスケ いちばん、ずーっと、ずーっとあるのは、
あの、何だろうなー? たとえば、
自分がその器じゃないから、まだ、
出来ないことがいっぱいあること。
ジョージ うん。今の自分には出来ないこと?
ノリスケ うん、とても好きな人と、
物理的に一緒に仕事をすることがあっても、
それが、僕が向こうを必要なだけで
向こうは僕を必要としているわけじゃない、
っていう意味で、対等な仕事ではない、
ということって、あるの。
そういうときって、自分の器を、
つきつけられる思いがするの。
ジョージ それって、自己嫌悪なの?
ノリスケ 自己嫌悪じゃないよ。
自己嫌悪? 自己嫌悪って、ただ嫌いなだけ?
それがなれるようになることが、
目標でもあるから。
ジョージ うん、僕がたまに思うのは、
んー、ほんっとにたまにね、
んーと、どうせ自分はゲイだから、って
甘える自分がいることがあるよ。
つねさん あ〜。
ジョージ たとえば、一生結婚もしないで、
子供もつくらないんだから、
気楽で生きていける、って思うと
色んなことが甘ーくなるんだよ。
すーんごい。
ノリスケ あるねー。
ジョージ で、そうするとね、んーと、その時に、
ふつうに結婚してふつうに子供をつくって、
子供を一生育ててめんどうを見るという
責任を持ってる、ふつうの子たちに対して、
ものすごい罪悪感を感じるの。
ノリスケ それはね、ある。
ジョージ それとか、んとー、経営者やってるとね、
定年退職がないから、って思うんだよ。
ノリスケ あ〜。
ジョージ そうするとね、一生うちの会社から
給料もらえるかも知れない、って思うんだよ。
ノリスケ それは、僕は、ぜんぜんないけど。
つねさん 僕も、フリーランスだから、ない。
ノリスケ ないことの怖さは、かかえているけど。
ジョージ ほとんどの人たちって、
たとえばサラリーマンだったら、
経営者は経営者でね、
お前らは経営者じゃなくって
サラリーマンだから気楽だな、って言うの。
だけど、サラリーマンの人は、
いつか定年退職があるから、
定年退職した後の蓄えをしなきゃいけないんだよ。
で、そういうサラリーマンから経営者見ると、
あんたたちは一生金がもらえるつもりで気楽だねー、
って言われるの。で、そういうのですっごい
自己嫌悪に陥ることもあるよ。
ノリスケ そっか、経営者のことは、
具体的に「わかる」とは言えないけど……
僕なりの、そういう不安はあるよ。
ジョージ これはね、いろんな人が持ってるの。
女の子は女の子で、私は女の子だから、
っていうのがあるんだよね。
つねさん 逃げ口にしたいんだろうね。
ノリスケ とくにゲイ、カミングアウトして
仕事してるでしょう?
つねさん ああ、ある意味ね。楽だからって?
ノリスケ でね、それってね、自分の中にも、
ジョージさんと同じものがあるし、
周りから見る目に、甘い膜(まく)がいっこ、
かかるんだよね。
フィルターって意味だけど。
つねさん ああ、あの人は、そうだからって?
ノリスケ うん、だからいいよね、っていう。
それは、いいこともあるし、
でも、ちょっと待て、ちょっと待て、
って思うことも、よくあるよ。
つねさん あ〜。
ジョージ でもね、みんなに膜かかってるんだよ。
ノリスケ そっか。
ジョージ 独身の女の子には独身の女の子の、
甘やかな膜がかかってて。
ノリスケ 今、女の子たちと僕たちって、
共通だなと思ったけど。
ジョージ 男にも、男の膜がかかってるんだよ。
ノリスケ あるんだ。
つねさん 若い男だから、とか?
ジョージ うん。人それぞれ。
ノリスケ そうだね。
ジョージ そういう、他人が勝手にかけた膜を、
なんとか自分で剥がなきゃ、って、
それだけ考えて仕事する人いるんだよね。
それ、辛いなー、と思うね。
ノリスケ そうね。
ジョージ たとえば、あらゆるリブの運動は、
そうだね。
「どうせあなたは、私のこと○○だからって
 思ってるでしょう?」っていうのがある。
ゲイでいうと、
「どうせあんたたちは、
 私たちのことオカマだから、
 って思ってるでしょう?」てことね。
そんなの、いろんな立場の人が、
みんながそう言いたいんだよ。
どうせお前は俺のことを、
ノンケの男だと思ってるんだろう?
言い始めたら、何も始まらないよね。
(つづきます)

2001-07-12-THU

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