ノリスケ |
昔バイトした先でさ、
僕は、まだ、飲みにも出たことがなかったし、
世間知らずの状態だったんだけど、
なんか、それっぽかったんだろうね、
バイト仲間の男の子たちの間で、
僕がそうじゃないかって
噂になってたらしいんだよね。
で、世間話の中で、何気なく、
「こないだカレーいっぱい
作り過ぎちゃってー」
って言っただけなんだよ。そしたらさ、
「それは、俺らに食いに来てほしいわん、
って、言いたいのー? うえー」
みたいに、イヤーな言い方された……。
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つねさん |
それ、イヤだ。
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ノリスケ |
その時ね、あ、これは、世間ってやつは、
注意しないとめんどくさいぞって、
そんとき思った。
大学1年のときだった。
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ジョージ |
めんどうだよね。
僕は、自分が窮屈だからっていうのより、
これ以上隠しとくと
周りの人に色々迷惑を
かけるんじゃないかなと思って
言っちゃったの、大きいね。
お客さんと視察の旅行に行く、
なんてときに、ほかの人が、
「僕がそうかもしれないから、
一緒に行くあの人もそうじゃないか」
って、思うかもしれないとか。
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ノリスケ |
そうか、あなたは、
会社で、経営者でありながら、
カミングアウトした人なのよね。
それも、すごいことだわ。
たしかに、噂が流れて
あなた以外の人が迷惑するかもしれない。
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ジョージ |
ね? そしたら、やっぱり、
僕はそうなんですよ、そうなんだけど……
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ノリスケ |
“でも、この人は違うんですよ”。と。
自分のことをはっきりさせないと、
相手が気の毒だ、と。
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つねさん |
それで、あなたの会社の、
お得意様相手に、
みんなに集まってもらった前で、
カミングアウトをしたのよね。
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ノリスケ |
すごい……
でも、そういうことが理由だったの?
それだけでは、ないと、思うんだけど。
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ジョージ |
どうして僕が会社のお客さんにたいして
カミングアウトしようと思ったか、と言うと
それは僕はゲイであることによって、
そこに集まっている人の役に立てる、
と言うことを確信したからなの。
僕の会社には性格上、
現場を運営する人も必要であれば
無責任に企画する人も必要なのね。
で、僕たちって、
男でもなく女でもないと同時に、
男でもあり女でもある存在でしょう?
だから普通の人達とはまったく違った感覚で
いろいろなことを考えることが出来る。
そんな奴と知り合いである、と言うことは
彼等にとって得なことだし
僕は僕でそうした部分を活かして、
彼等の役に立つことが出来るだろう、
と確信したわけ。
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ノリスケ |
うん。
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ジョージ |
で、当時、一生懸命だったしね。
みんなの役に立とうとして。
一生懸命だった分、みんなの役にもたったしね。
でも人間て不思議なもんで、
そうした都合のいい部分では、人を評価するの。
あの人のモノの見方は凄いって。
あなたのような人がいないと駄目だって。
面と向かってはいいように評価してくれる。
でも僕のいないところでは、
結婚もしないで変だよネ、って言う。
たまに女みたいな発想をするよね、
あやしいね、って言う。
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ノリスケ |
うん、うん。
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ジョージ |
僕のいい部分と悪い部分、
僕の役に立つ部分と変な部分、
は、表裏一体でしょ?
だけどいい部分だけになれ、
変な部分は棄ててしまえって
殆どの人は言うんだよね。
みんなと同じじゃないと駄目って言うんだよ。
みんなと違うから、いい仕事が出来ているのに、
みんなと同じになった上で、
それでもいい仕事をしろって要求してくる。
僕は本当に悩んだよ。
もうこんな仕事なんか止めてしまおうか……
って思うくらい悩んだの。
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ノリスケ |
みんながみんな、そう思ってるわけじゃ、
ないんでしょう?
ていうか、ないと思いたい。
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ジョージ |
そうね、みんながみんなそうか、というと
そうじゃない人もいるよ。
例えばパーティーなんかで、
……カミングアウトする前だったんだけどね、
沢山の人と握手するでしょ?
そうするとその中の何人かが、
ギュッと手を握りしめて、
「ありのままのジョージさんが好きだから、
今のままで頑張って下さいね」
って言ってくれるんだよね。
それは僕のことがどこまで
わかっているかは別として、
ほんとに、うれしかった。
だから勇気を出してみんなの前で言ったの。
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ノリスケ |
うん。
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ジョージ |
世の中には人とは違う人がいるんです。
そしてその人とは違う部分を
ただただ無駄に浪費している人もいれば、
一生懸命、他人の役に立てようと
思っている人もいる。
それはゲイとかどうとかと言う問題でなく、
例えば物凄く計算が上手、とかと言うことでもいいの、
そうした他の人にない部分を
一生懸命、役立てようとしている人もいる。
でも、そうした人を見て
あいつは変だ、
みんなと一緒じゃないと駄目だ、
と言って潰していく人が、いっぱい、いる。
だから僕は今日、この瞬間から、
小さな違いを大切にしながら
一生懸命、役立とうと思って生きていきます。
全ての人達の為に
カミングアウトしつつも頑張ります。
──って言うようなことを言ったの。
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ノリスケ |
うん。
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ジョージ |
ほんとはこの10倍ぐらい
いろんなこと、言ったような気がするけど、
だいたいこんな感じだったよ。
でも、それから最後に
言っちゃいけないな、と思ったけど
棄て台詞も言っちゃった。
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つねさん |
なになに?
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ジョージ |
「これから皆さん、
オンナみたいなオトコである僕から、
あの人はオンナの腐ったみたいなオトコだ、って
言われないように頑張って下さいねっ」
って。
こういう棄て台詞しなきゃ男が上がったのに
……(笑)オカマだから、んもう。
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ノリスケ |
ね、そのあとどんな反応だった?
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ジョージ |
色んなお手紙を頂戴した。
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ノリスケ |
クライアントさんから?
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ジョージ |
そうー。
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ノリスケ |
え、どんな?
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ジョージ |
んーとね、んーと、
ある人はね、詩人ぽい人でね。
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ノリスケ |
詩を書いてくれたの?(笑)
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ジョージ |
いや、詩をというかね、……こういうの。
その話を聞いて家へ帰って、
庭を掃除していたら、
庭の木から、葉っぱが落ちてきた、と。
枯れ葉というのは、
それが枯れ葉だと考えると悲しいけれど、
それまでずーっと自分を支配していた
木の枝から離れて、
風に自由に舞うことができるようになった
幸せな葉っぱ1枚だと思ってみると、
ものすごく羨ましく思った──。
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つねさん |
あ〜。
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ジョージ |
それで、その葉っぱがね、
1枚、入ってて。
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ノリスケ |
なーんて詩人。ていうか、
まるで、ラブレター。素敵。
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つねさん |
ね〜。
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ジョージ |
んで、ジョージさんも、やっと、その……
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つねさん |
“肩の荷が降りましたね”?
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ジョージ |
そう。自分として生きることが
できるようになったんですね、
っていうふうに書いてくれたの。
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ノリスケ |
ひゃ〜、すごいいい。
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つねさん |
その人、立派な人だねー。
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ノリスケ |
なかなかいないよ〜。
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ジョージ |
あるいはね、もっと単刀直入にね、
僕の話を聞いていると、
自分がいかに女々しく、
自分に正直に真剣に生きてなかったのかと
いうことが分かって勇気づけられたって。
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ノリスケ |
わ〜、その人もいい人だー。
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ジョージ |
で、男の中の男が、
オカマだったということに、
僕は感動した、て書いてくれてて。
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ノリスケ |
ウハハハハハハ!
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ジョージ |
もう、それは僕の座右の銘だよ。
「男の中の男のオカマ」っていう。
いいぞーって。
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ノリスケ |
格好いい。
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つねさん |
あ〜。
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ジョージ |
で、僕は明日からオカマに負けない男になる、
って書いてあって。
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ノリスケ |
おおおおお。
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つねさん |
ほ〜、いいね〜。
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ジョージ |
も、すーっごい嬉しいな、って。
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ノリスケ |
格好いい。
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つねさん |
フフッ。
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ジョージ |
でも、言ったら言ったでまたね、
じゃまくさいことが起こるんだけどね。
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ノリスケ |
どちらにしても、完ぺきにめんどうが
なくなるわけじゃ、ないからね。
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つねさん |
俺、言わなかったけど、
そういうふうに会社では見られてた、
っていうのは、やっぱりめんどうだった。
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ノリスケ |
仕事上で、かあ。あのさ、仕事って、
役割さえこなしてればいい、というものでは、
ないわけでしょう。
人間が集まっているわけだから、
まったくのディスコミュニケーションという
わけにはいかない。
そういうなかでね、まったく隠していると、
もう一個別の人格をつくって
それを演じなくちゃいけなくなるよね。
隠してたらざっくばらんな世間話ができないから、
「ざっくばらんに見える別人格」を。
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つねさん |
あ〜、女の話とか?
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ノリスケ |
そう、好きな女のタイプは?
なんて話が、振られると……
立場がややこしいことになんだよね。
正直ったってさ、
「昔の岸恵子って綺麗よねえ」
とか、言うわけにはいかないでしょ。
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つねさん |
うん。
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ノリスケ |
じゃあ「モーニング娘。だったら……」
とか、すぐに言える別キャラをつくっとくか、
なんて。そういうことが、めんどう。
隠してると。
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つねさん |
だってー、それだけならまだいいけど、
おねえちゃんのいる飲み屋に行くとか……、
ジョージは、お客さんと一緒に
風俗店にも行ったことがあるって?
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ジョージ |
うん、あるよ。
だけど、それはエチケットみたいなもんだよね。
仕事の。
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ノリスケ |
覚悟できてるんだね。すごい。
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つねさん |
あ、俺も行ったことある、お触りパブ。
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ジョージ |
ん〜、そういうのはもう、しょっちゅうだし。
でもさ、たとえば、
200人ぐらい人が集まると、
必ずその中に、ゲイって何人かいるんだよね。
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ノリスケ |
そうね。
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ジョージ |
絶対いるんだよね。
そんときに、みんなとこうやって握手してて、
ビビビッとくることあるもん。
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ノリスケ |
ハハハハハハ。ビビビッ。
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ジョージ |
あ、この人もそうなんだと思いつつ。
ただ、そんときにね、
僕が嘘をついてなくて
向こうが嘘をついてなければ、
それでいいわけであって。
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ノリスケ |
うん、うん。
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ジョージ |
べつにお互いがそうだって言い合わなくっても、
それぞれが真剣に生きている、
っていうことでね。OKかなと思うよ。
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つねさん |
うん。だから、言う言わないにかかわらず、
自分に恥じてなかったらいんじゃないの?
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ジョージ |
そうだよね。
|
(つづきます)