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新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

カミングアウト。その5
真剣に生きてれば、ね。

ノリスケ 昔バイトした先でさ、
僕は、まだ、飲みにも出たことがなかったし、
世間知らずの状態だったんだけど、
なんか、それっぽかったんだろうね、
バイト仲間の男の子たちの間で、
僕がそうじゃないかって
噂になってたらしいんだよね。
で、世間話の中で、何気なく、
「こないだカレーいっぱい
 作り過ぎちゃってー」
って言っただけなんだよ。そしたらさ、
「それは、俺らに食いに来てほしいわん、
 って、言いたいのー? うえー」
みたいに、イヤーな言い方された……。
つねさん それ、イヤだ。
ノリスケ その時ね、あ、これは、世間ってやつは、
注意しないとめんどくさいぞって、
そんとき思った。
大学1年のときだった。
ジョージ めんどうだよね。
僕は、自分が窮屈だからっていうのより、
これ以上隠しとくと
周りの人に色々迷惑を
かけるんじゃないかなと思って
言っちゃったの、大きいね。
お客さんと視察の旅行に行く、
なんてときに、ほかの人が、
「僕がそうかもしれないから、
 一緒に行くあの人もそうじゃないか」
って、思うかもしれないとか。
ノリスケ そうか、あなたは、
会社で、経営者でありながら、
カミングアウトした人なのよね。
それも、すごいことだわ。
たしかに、噂が流れて
あなた以外の人が迷惑するかもしれない。
ジョージ ね? そしたら、やっぱり、
僕はそうなんですよ、そうなんだけど……
ノリスケ “でも、この人は違うんですよ”。と。
自分のことをはっきりさせないと、
相手が気の毒だ、と。
つねさん それで、あなたの会社の、
お得意様相手に、
みんなに集まってもらった前で、
カミングアウトをしたのよね。
ノリスケ すごい……
でも、そういうことが理由だったの?
それだけでは、ないと、思うんだけど。
ジョージ どうして僕が会社のお客さんにたいして
カミングアウトしようと思ったか、と言うと
それは僕はゲイであることによって、
そこに集まっている人の役に立てる、
と言うことを確信したからなの。
僕の会社には性格上、
現場を運営する人も必要であれば
無責任に企画する人も必要なのね。
で、僕たちって、
男でもなく女でもないと同時に、
男でもあり女でもある存在でしょう?
だから普通の人達とはまったく違った感覚で
いろいろなことを考えることが出来る。
そんな奴と知り合いである、と言うことは
彼等にとって得なことだし
僕は僕でそうした部分を活かして、
彼等の役に立つことが出来るだろう、
と確信したわけ。
ノリスケ うん。
ジョージ で、当時、一生懸命だったしね。
みんなの役に立とうとして。
一生懸命だった分、みんなの役にもたったしね。
でも人間て不思議なもんで、
そうした都合のいい部分では、人を評価するの。
あの人のモノの見方は凄いって。
あなたのような人がいないと駄目だって。
面と向かってはいいように評価してくれる。
でも僕のいないところでは、
結婚もしないで変だよネ、って言う。
たまに女みたいな発想をするよね、
あやしいね、って言う。
ノリスケ うん、うん。
ジョージ 僕のいい部分と悪い部分、
僕の役に立つ部分と変な部分、
は、表裏一体でしょ?
だけどいい部分だけになれ、
変な部分は棄ててしまえって
殆どの人は言うんだよね。
みんなと同じじゃないと駄目って言うんだよ。
みんなと違うから、いい仕事が出来ているのに、
みんなと同じになった上で、
それでもいい仕事をしろって要求してくる。
僕は本当に悩んだよ。
もうこんな仕事なんか止めてしまおうか……
って思うくらい悩んだの。
ノリスケ みんながみんな、そう思ってるわけじゃ、
ないんでしょう?
ていうか、ないと思いたい。
ジョージ そうね、みんながみんなそうか、というと
そうじゃない人もいるよ。
例えばパーティーなんかで、
……カミングアウトする前だったんだけどね、
沢山の人と握手するでしょ?
そうするとその中の何人かが、
ギュッと手を握りしめて、
「ありのままのジョージさんが好きだから、
 今のままで頑張って下さいね」
って言ってくれるんだよね。
それは僕のことがどこまで
わかっているかは別として、
ほんとに、うれしかった。
だから勇気を出してみんなの前で言ったの。
ノリスケ うん。
ジョージ 世の中には人とは違う人がいるんです。
そしてその人とは違う部分を
ただただ無駄に浪費している人もいれば、
一生懸命、他人の役に立てようと
思っている人もいる。
それはゲイとかどうとかと言う問題でなく、
例えば物凄く計算が上手、とかと言うことでもいいの、
そうした他の人にない部分を
一生懸命、役立てようとしている人もいる。
でも、そうした人を見て
あいつは変だ、
みんなと一緒じゃないと駄目だ、
と言って潰していく人が、いっぱい、いる。
だから僕は今日、この瞬間から、
小さな違いを大切にしながら
一生懸命、役立とうと思って生きていきます。
全ての人達の為に
カミングアウトしつつも頑張ります。
──って言うようなことを言ったの。
ノリスケ うん。
ジョージ ほんとはこの10倍ぐらい
いろんなこと、言ったような気がするけど、
だいたいこんな感じだったよ。
でも、それから最後に
言っちゃいけないな、と思ったけど
棄て台詞も言っちゃった。
つねさん なになに?
ジョージ 「これから皆さん、
 オンナみたいなオトコである僕から、
 あの人はオンナの腐ったみたいなオトコだ、って
 言われないように頑張って下さいねっ」
って。
こういう棄て台詞しなきゃ男が上がったのに
……(笑)オカマだから、んもう。
ノリスケ ね、そのあとどんな反応だった?
ジョージ 色んなお手紙を頂戴した。
ノリスケ クライアントさんから?
ジョージ そうー。
ノリスケ え、どんな?
ジョージ んーとね、んーと、
ある人はね、詩人ぽい人でね。
ノリスケ 詩を書いてくれたの?(笑)
ジョージ いや、詩をというかね、……こういうの。
その話を聞いて家へ帰って、
庭を掃除していたら、
庭の木から、葉っぱが落ちてきた、と。
枯れ葉というのは、
それが枯れ葉だと考えると悲しいけれど、
それまでずーっと自分を支配していた
木の枝から離れて、
風に自由に舞うことができるようになった
幸せな葉っぱ1枚だと思ってみると、
ものすごく羨ましく思った──。
つねさん あ〜。
ジョージ それで、その葉っぱがね、
1枚、入ってて。
ノリスケ なーんて詩人。ていうか、
まるで、ラブレター。素敵。
つねさん ね〜。
ジョージ んで、ジョージさんも、やっと、その……
つねさん “肩の荷が降りましたね”?
ジョージ そう。自分として生きることが
できるようになったんですね、
っていうふうに書いてくれたの。
ノリスケ ひゃ〜、すごいいい。
つねさん その人、立派な人だねー。
ノリスケ なかなかいないよ〜。
ジョージ あるいはね、もっと単刀直入にね、
僕の話を聞いていると、
自分がいかに女々しく、
自分に正直に真剣に生きてなかったのかと
いうことが分かって勇気づけられたって。
ノリスケ わ〜、その人もいい人だー。
ジョージ で、男の中の男が、
オカマだったということに、
僕は感動した、て書いてくれてて。
ノリスケ ウハハハハハハ!
ジョージ もう、それは僕の座右の銘だよ。
「男の中の男のオカマ」っていう。
いいぞーって。
ノリスケ 格好いい。
つねさん あ〜。
ジョージ で、僕は明日からオカマに負けない男になる、
って書いてあって。
ノリスケ おおおおお。
つねさん ほ〜、いいね〜。
ジョージ も、すーっごい嬉しいな、って。
ノリスケ 格好いい。
つねさん フフッ。
ジョージ でも、言ったら言ったでまたね、
じゃまくさいことが起こるんだけどね。
ノリスケ どちらにしても、完ぺきにめんどうが
なくなるわけじゃ、ないからね。
つねさん 俺、言わなかったけど、
そういうふうに会社では見られてた、
っていうのは、やっぱりめんどうだった。
ノリスケ 仕事上で、かあ。あのさ、仕事って、
役割さえこなしてればいい、というものでは、
ないわけでしょう。
人間が集まっているわけだから、
まったくのディスコミュニケーションという
わけにはいかない。
そういうなかでね、まったく隠していると、
もう一個別の人格をつくって
それを演じなくちゃいけなくなるよね。
隠してたらざっくばらんな世間話ができないから、
「ざっくばらんに見える別人格」を。
つねさん あ〜、女の話とか?
ノリスケ そう、好きな女のタイプは?
なんて話が、振られると……
立場がややこしいことになんだよね。
正直ったってさ、
「昔の岸恵子って綺麗よねえ」
とか、言うわけにはいかないでしょ。
つねさん うん。
ノリスケ じゃあ「モーニング娘。だったら……」
とか、すぐに言える別キャラをつくっとくか、
なんて。そういうことが、めんどう。
隠してると。
つねさん だってー、それだけならまだいいけど、
おねえちゃんのいる飲み屋に行くとか……、
ジョージは、お客さんと一緒に
風俗店にも行ったことがあるって?
ジョージ うん、あるよ。
だけど、それはエチケットみたいなもんだよね。
仕事の。
ノリスケ 覚悟できてるんだね。すごい。
つねさん あ、俺も行ったことある、お触りパブ。
ジョージ ん〜、そういうのはもう、しょっちゅうだし。
でもさ、たとえば、
200人ぐらい人が集まると、
必ずその中に、ゲイって何人かいるんだよね。
ノリスケ そうね。
ジョージ 絶対いるんだよね。
そんときに、みんなとこうやって握手してて、
ビビビッとくることあるもん。
ノリスケ ハハハハハハ。ビビビッ。
ジョージ あ、この人もそうなんだと思いつつ。
ただ、そんときにね、
僕が嘘をついてなくて
向こうが嘘をついてなければ、
それでいいわけであって。
ノリスケ うん、うん。
ジョージ べつにお互いがそうだって言い合わなくっても、
それぞれが真剣に生きている、
っていうことでね。OKかなと思うよ。
つねさん うん。だから、言う言わないにかかわらず、
自分に恥じてなかったらいんじゃないの?
ジョージ そうだよね。
(つづきます)

2001-08-08-WED

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