APPLE
新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

涙。その1
涙のスイッチ。

ジョージ 悔し涙って、流したことある?
つねさん 悔し涙……あんまりない。
ノリスケ 高校に落ちたときに泣いたけど。
ジョージ それは? 悔しかったから?
ノリスケ 悔しかった。
っていうかね、なんかね、
ろくに勉強しないで受けたから。
でも、絶対合格圏内って言われてて。
甘く見てたのね。
つねさん あ、そういう子、いたいた。
ノリスケ で、やっぱり落ちちゃったの。
そんときにね、もってき場がないじゃない?
自分を責めるしかないじゃない?
つねさん うん。
ノリスケ で、困っちゃってね。
つねさん 泣いた?
ノリスケ 泣いて、すっきりした。
つねさん あ〜。
ジョージ そういう時って、どういう泣き方なの?
ノリスケ そん時は号泣。
ジョージ うぉ〜〜〜っ! って?
ノリスケ そうそう、嗚咽だった。
ジョージ 僕ねー、留学試験に1回落ちたことあるんだよ。
つねさん あ、そうなんだ。
ジョージ うん、公費留学の試験落ちて。
成績的には良かったんだよ。
でも、横やりが入ってね、
学校関係者がその枠を取ってっちゃった。
ていうんで、落ちたことがあるんだよ。
つねさん あ、そうなんだ。
ジョージ うん。そん時はね、
鎌倉に住んでたんだよ。
ノリスケ なんの関係があんのよ!
つねさん ちょっと素敵かな?
ジョージ いいでしょう?
鎌倉住んでるっていうのが。
で、悲しくて、江ノ電に乗って。
ノリスケ シチュエーションがね。
ジョージ 富士山と江の島と太平洋が
一度に見える場所があるの。
そこに行って泣きましょう、って思って。
つねさん それ、また(笑)。酔ってるわね、自分に。
ジョージ だって、悔しかったんだもん。
つねさん 家で泣けばいいじゃない!
ジョージ 違うのよ、自然と涙が出てくるんじゃないの。
悔しい気持ちを何とか収めるために、
泣かなきゃいけない、と思って、
そういう気分になれそうな場所を探して
行ったのよ。
つねさん いや〜。
ジョージ それがね、ぜっんぜん、泣けないの!
つねさん ハッハッハッハ。
ジョージ それで、なんか、ウーッ! て言ったら
泣けるかな? と思って、
ウーッ! って言っても、泣けないの。
んで、ちょっと痛いことすると泣けるかな?
と思ってつねったりとかするんだけど、
涙なんか出やしないの!
ノリスケ つまり、涙のきっかけが、
何かスイッチがあるんじゃないかと思って、
その、場所の演出もして……
ジョージ そう。
つねさん ウーとか(笑)。
ノリスケ つねったりウーって言ったりしたんだけど、
涙のスイッチが入らないわけね?
ジョージ ぜんぜん泣けないのよお。
つねさん あー、でも、あるよね、なんか……
ノリスケ 女優じゃないからね(笑)。
ジョージ でね、そん時ね、泣けないくらい悔しい、
っていうことはないと思ったよ(笑)。
落ちちゃった悔しさよりも、
ここで泣けば格好いいのに
泣けない自分の悔しさ?
つねさん は〜。
ノリスケ つまり涙のほうから、
これ、涙、出るほどのことじゃないっス、
って言ってたのかな?
ジョージ たぶんね。
つねさん うん、そうかもね。
ジョージ あんた、ほんとは泣きたいんじゃないんでしょう、
って言われたんだと思う。
つねさん 酔いたいだけでしょ、って?(笑)
ノリスケ そう。そんなんで使わないで下さいよ、って。
まいったなー、っつって。
つねさん もったいないからって。
他に使って下さいって。
ジョージ 時間帯的には、
すっごいいい時間帯だったんだよ。
つねさん 演出し過ぎたんだよ、きっと。
ノリスケ 不意打ちの涙のほうが、キツイよ。
ジョージ やられた、っていう感じね。
ノリスケ こないだ、心ならずも
泣いてしまったんだけど
友だちが大きな病気ににかかったって
言いに来てくれたの。
一度手術して、再発しなければ
大丈夫ですよって言われてたのが、
再発しちゃったのね。そのことを、僕に、
わざわざ言いに来てくれたの、遠くから。
で、原宿かなんかのご飯屋さんで
それを言われて……すごく仲いい友だちなんで、
何て言うのかな? こう、軽く受け止める、
「ふり」をするつもりだったんだけど、
この人は確実に僕より先にいなくなってしまう
可能性があるんだと思ったら
泣けてきちゃって、急に。
それは、その人にとって、
良くないことなのかも知れないんだけど。
つねさん えー、なんで?
ノリスケ だってさー、そのことが
すごくリアルになっちゃうじゃない。
つねさん そうかー。
ノリスケ 自分がひょっとして
いなくなっちゃうかもしれないってことが
僕が泣いたりしたら、
ものすごい現実になっちゃうじゃない。
っていうふうに思ったんだけど、
なんかね、ハニー・トースト食べながら
ぽろぽろぽろぽろ、泣いちゃってね(笑)。
なんか、あのハニー・トーストの味は
ぜったい忘れないと思う。
……ねえ、眠りながら泣いたことある?
つねさん 泣きながら泣き疲れて眠るってこと?
ノリスケ 違うの。知らないうちに、
泣いてるっていう経験。
つねさん なーい。あるの?
ノリスケ うん。祖母が亡くなったときに、
僕は仕事で外国に
行かなきゃいけない日だったの。
実家に戻ったら朝の飛行機に間に合わない。
その仕事は、ぜんぶフィックスしてあって、
僕が一人でわがままの言える
状況ではなかったし。
何日から何日までどこにいますっていう
ビザがぜんぶ降りてて、
1日でもずらせないわけ。
1ヶ月行く予定だったから、
死に目に会えないうえに
死んだ顔も見れなくて、
通夜も葬式も出れなくって、
っていう状態で行ったの。
ジョージ うんうん。
ノリスケ で、別にもう、死ぬことは
わかってたんだよ、
寝たきりで意識不明のまんま
何ヶ月もいたから。
死んだって聞いたときはね、
ああそうか、死んじゃったんだって思って。
それだけでね、ショックでもなかったの。
で、外国の仕事は忙しくて
それなりにぜんぜん平気でいたのに、
2週間ぐらいして、仕事がだいぶ、
順調になってきて慣れてきてから、
真夜中に、号泣している自分に気がついたの。
寝てるときなんだけど。
つねさん へ〜。
ノリスケ で、ガバッて起きて。
しゃくり上げて泣いてんのね。
ぐぁーって。
でもね、祖母の夢を見たとかじゃないんだよ。
つねさん ああ、そう。
ノリスケ ただ泣いてんの。とめどもなく。
つねさん へ〜。無意識に?
ノリスケ 無意識に泣いてんの。
つねさん 無自覚、無意識なんだ。
ノリスケ 無自覚、無意識。
とにかく涙が出て、いわゆる号泣。
つねさん へ〜。そ〜。
ノリスケ それは、だから、さっきの逆かもしんない。
泣いたほうがいいんじゃないの? って
スイッチが勝手に入ったのかもしんない。
ねえ、みんなは、悲しさって
どう対処するの?
(つづきます)

2001-08-20-MON
BACK
戻る