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新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

涙。その2
幸せの洪水の前で。

つねさん 悲しさの対処のしかた?
ジョージ 泣いても解決できないもんね。
涙は何の解決にもなんないから。
あのね、僕の上を過ぎ去って行った人が、
けっこう死んでるのね。
そん時はもう、大変だもん。
泣くどころの騒ぎではないから。
ノリスケ うん。
つねさん そういう時って、どうなんの?
ジョージ うーん、そういう時はね、どうなんだろうな〜、
泣くよ。泣くんだけど、
そうね、悲しい瞬間には涙は出てこないんだよね。
つねさん あ〜。
ジョージ 悲しい瞬間は色んなことを考えたり
色んなことをしなきゃいけないから、
グズグズ泣いてたら前に進んで行けないから
絶対泣かないよね。で、ある程度、
んー、なんか、整理ができたりすると、
ほのぼの幸せだった頃のことを
思い出してね、涙が出るの。
だから、悲しいから泣くっていうのとは、違う。
んー、わかんないや。
映画なんか観て、いちばん泣いた映画ってなぁに?
僕、すごい恥ずかしいんだよ、
言うと笑われるんだよ。
ノリスケ いちばん泣いた映画……
つねさん あ、俺も笑われるわ、たぶん(笑)。
ジョージ なに、なに?
つねさん おたくって言わないでね、
ぼくは、だって、ガキの頃に……
うちの人生を変えて下さった、
「さらば宇宙戦艦ヤマト」っていう、あの……
ジョージ どのシーンでどういうふうに泣いたの?
つねさん あ〜、やっぱりなんかね、
すごい演歌とか苦手で嫌いなのに、
あの演歌チックなラストで……
なんか泣いちゃった。
ジョージ ふ〜ん、何で?
つねさん 周りの親しい連中が死んでって、
亡霊じゃないけど、みんながこう、
見守ったりとかするじゃない?
ああいうのってね、ちょっと、
琴線に触れちゃうの。
ジョージ ん〜。
つねさん だから、生きてるの、
自分1人じゃなくって、
みんなの、なんか、気持ちに守られてて、
そういうの感じる瞬間みたいなのって、
あるじゃない?
ジョージ ああ。
つねさん うん、そういうの、弱いのー。
ノリスケ ぼくは「ガープの世界」、泣いたな。
突然、とっても大事な人が突然いなくなる、
みたいな時に、
残された人の気持ちになっちゃうんだよね。
その時にもう切なくて切なくて。
事件が悲しいんじゃないんだけど。
で、ジョージさんは、何なの?
ジョージ いやっ、はずかしいっ。
つねさん 自分でふっといて、言いなさいっ。
ジョージ 「愛と悲しみのボレロ」。
ノリスケ う、わー……
ジョージ もう、最低の映画なんだよ。観た?
つねさん いや、観たけど。最低じゃないけど……?
ノリスケ なんか、長い人生の映画よね。
つねさん もう、だいぶ忘れちゃった。
ジョージ 何組かのカップルが、
第二次世界大戦をはさんで、
壮麗なる愛の行進曲のような
ドラマなわけよ。ね?
つねさん は〜。
ジョージ で、いちばん最初のオープニングのシーンが、
戦争の前に、幾組かの男と女が結婚をしたり、
あるいは婚約をしたりするっていうのが、
同時進行でスタートするの。
で、みんな幸せそうなの。
幸せそうでカメラがグルグルグルグル回って、
幸せ幸せ、ってなってるんだけど、
どう考えたってこの人たちは、
次の瞬間に不幸のどん底に
落とされるんだろうな、って。
じゃないと映画にならないわけじゃない?
だけど幸せそうなんだよね。
それで、そうね、あ〜、幸せそうなのに〜、
って思ってビェーって泣いたの。
ノリスケ いきなり? オープニングで!?
つねさん あ〜。
ジョージ んでね、確かにその通りに
不幸せになっていくの。たとえばね、
戦争で離れ離れになっていく夫婦とかね。
それでも新婚生活の、
たった2週間くらいの幸せな思い出を
抱き続けながら、耐えるのよ。
あ〜、幸せって、これほど幸せなんだ〜、
って思うとね、涙が出たりとかね。
再会するとね、また涙が出たりとかね。
ずーーーっっと泣いてたの。
そしたらね、後ろのババアが
「具合悪いの?」ですって!
つねさん ハハハッ!
ジョージ って言うから、
「いいえ、なんか涙が出てくるんです〜」
っつったら、ババア4人が
1枚ずつハンカチくれたの。
ノリスケ 素敵。
ジョージ ほんと〜。
つねさん あんた、それ、作ってない?
ジョージ つくってないわよ。
それは、すっごい泣いた。
ノリスケ それは、その映画を観たときの
気持ちが、関係してるんじゃないの?
つねさん あるんじゃないの? なんか、どっかに。
ジョージ そう、あれは、捨てられた後だった……。
ノリスケ 捨てられた……
ジョージ 捨てられたっていうかね、
ほら、僕、かわいかったじゃない?
ノリスケ (笑)もう、前提になってるんだけどさー。
ジョージ ずーっと、自分は捨てる立場で、
ぜったい捨てられないと思ってたんだよ。
そしたらね、そしたらよ、
ある人と知りあって、
その人の家に行ったのよ。ね?
そしたら、すーごいいい具合に、
いい雰囲気になって。
で、じゃあ、っていうんで……
こ、ちょっと脱ぎました。とたんに、
「君って毛深いんだね」って言われたの。
「えっ?」っつって。
「僕、毛深い子ダメなんだ」
って言われて!
ノリスケ ガーン。
ジョージ ほうり出されたんだよ。
夜中にほうりだされたんだよ。
どこにも行くとこがないのに!
つねさん よっぽどイヤだったんじゃない?
ジョージ それで、一夜をさまよい歩いて
なんかわけのわかんないところで過ごして、
辿り着いたところが
「愛と悲しみのボレロ」だったんだよ。
つねさん それはもう、ぜんぶ自分に重ねて?
ジョージ いや、自分に重ね合わせたわけじゃないんだよ。
幸せなイメージの洪水っていうのに、弱いの。
すーごい弱い。
ノリスケ 幸せの洪水ねー。それは、わかる。
わかる、わかる。よくわかる。
ジョージ わかるでしょう? まばゆいほどなんだよ。
なのに間違いをおかしてしまうから
映画になるわけじゃん?
で、間違いをおかす人っていうのは、
自分の幸せがどれほどかけがえがないか、
っていうのを忘れてしまって、
幸せを捨てるんだよね。
で、あーっ、捨てちゃだめ、捨てちゃだめ、
と思うんだけど捨てるんだよね。
で、捨てた瞬間って、
すっごい幸せそうな顔してるんだけど、
もう涙出ちゃうんだよ。
ああっ、あっ、何が恥ずかしいって、
僕、あれなんだもん、「橋」。
ノリスケ はし? まさか、「マディソン郡の橋」?
ジョージ そう! 「マディソン郡の橋」で泣いたのよ!
ノリスケ ヒヒヒヒヒヒッ。
つねさん 恥ずかしいー。
ジョージ あれはね……恥ずかしいでしょう?
ノリスケ それは、恥ずかしいと言って
いいんじゃないの?
ジョージ すっごい泣いたんだよ。
ノリスケ そんときも、そういう……?
ジョージ 消防士さんのとき。
つねさん あーっ。
ジョージ それで、海外出張行くとき、
「マディソン郡の橋」を買って、
飛行機で読んでいたの。
ペンダントの中に、
女の写真入れてるっていうとこで、
もう、びぃえぇーーーっっ、て泣いたんだよ。
そんときもスチュワーデスが来て、
どうしたんですか? って言われて。
「マディソン郡の橋」読んで泣いてるー、
って言ったら、肩すくめながら、
オゥッ、って。それ読んで泣くのは
おネエさんぐらいよ、って!
ノリスケ ハハハハハッ! あたたたた!
ジョージ あっちゃーーっ! て思って。
そしたら、あとからパーサー(男)がやって来て、
お前かっ、「マディソン郡の橋」を
読んで泣いてるのはっ! って。
ノリスケ 噂になってた? キャビンで?(笑)
ジョージ お前かーっ、って。
はいっ、て言ったら、
「俺も泣いたぞーっ」って。
降りるときにシャンパン1本くれた。
つねさん アッハハ。素敵。
ノリスケ 麗しいおかまの友情ね。
ジョージ それはね、すっごい幸せなイメージに
包まれた自分がいて、泣いたんだけど……
ノリスケ それは別れた後?
ジョージ んー、つき合い絶好調のとき!
ノリスケ ああ……ああ、そうか、そういうこともあるよね。
幸せの絶頂って不安定だもんね。
(つづきます)

2001-08-21-TUE
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