ノリスケ |
「ガープの世界」、映画じゃないな、
本読んだとき泣いたな。
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つねさん |
あ、そうなんだ。
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ノリスケ |
映画になった、あの後のことね、
ガープが死んじゃった後のこと、
延々書いてあるの。
エピローグで。この人はこうなった、
この人はこうなった、っていうことが
ずーっと書いてあるの。
ロバータ・マルドゥーンって覚えてる?
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つねさん |
覚えてる!
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ノリスケ |
映画はジョン・リスゴーがやった、
元フットボール選手の
オカマっていうのがいて。
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つねさん |
性転換しちゃって、女性の権利のために
活動するガープのお母さんの
手伝いしてるのよね。
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ノリスケ |
その人が死ぬシーンがあるの。
すごく綺麗なメイン州の海辺の家の
おっきなベランダに、揺り椅子があるの。
その揺り椅子に腰かけながら、
レモネードを飲んでるの、ロバータが。
で、飲み終えて、しみじみと、
ああ、美味しいな、
人生がこんなに美味しい
レモネードのようだったらいいのにね。
そうつぶやくの。
で、もう一杯、作ってきてもらうまでに、
ひっそり死んじゃうの。ぽっくりと。
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つねさん |
いいね〜。泣ける、泣ける。
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ノリスケ |
そこはねー、そこはねー、泣いたよ(笑)。
僕の中ではね、「ガープの世界」の人はね、
みんな生きてる。なんか、そういうふうな、
変なかんじがあってね。
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つねさん |
あ〜、でもね、わかる、わかる。
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ジョージ |
うん、わかるな。でもね、あれだよ、
たとえば飛行場でね、
恋人同士が泣いているシーンを見て、
2人はどっち? 旅立ちなのか、到着なのか。
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つねさん |
僕、旅立ちだなー。
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ジョージ |
そっかー。
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ノリスケ |
旅立ち、っていうふうに、まず思っちゃうなー。
何か理由があって、離れ離れになるんだな、って。
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ジョージ |
そっかー。
旅立ちでは、僕、泣かないからなー。
頑張らなくっちゃ、って思う。
帰ってこなきゃいけないし。
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つねさん |
帰ってきたときには安堵で泣けるってこと?
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ジョージ |
帰ってきたときはもう、
もう、さめざめ、さめざめじゃない、
しみじみ泣けるね。
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ノリスケ |
安心して。
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ジョージ |
安心して。
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ノリスケ |
それはね、そうだと思うんだ。
ただ、そういう経験、ぜんぜんないんで。
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つねさん |
僕もないから、わかんないや。
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ノリスケ |
きっとね、あの、今、だから、
とっても大事な人を、どうしても置いて、
自分がどっか行かなきゃいけなくて、
それも、とてもハードなことで、
帰ってこれるかわかんないような状況で、
で、帰ってきたときに
その人が迎えに来てくれたら、
そりゃあ、泣くよ。
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ジョージ |
うちは、あれだもん、
遠距離恋愛があるから。
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ノリスケ |
あ、そっか。
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つねさん |
いや、俺も遠距離はあるよ。
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ノリスケ |
遠距離の距離が違うんじゃない?
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つねさん |
あ、違うか。
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ジョージ |
僕は太平洋を挟んでたから。
7年間つき合ってた人の、
最後の2年間は遠距離だから。
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つねさん |
ロス・アンジェルスの人か。
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ジョージ |
ロス・アンジェルス。
そうするとね、もう、涙なんか出ないんだよ。
明日、ロス・アンジェルスに行きます、って。
でも、たとえば、
半年後にロス・アンジェルスに
行っちゃうからって、言われたときはね、
けっこうね、泣けたりとかするんだよね。
もう二度と会えないかも知れないとかって
泣くんだけど。でも、半年目が近づいてくると、
忙しいんだよ、しなきゃいけないことが
いっぱいあって。もう、すごいんだよね。
んで、んーと、
成田でバイバイってするときには、
次にどこで会いましょう、
っていうことを決めてから別れていくから、
もう、そこに向けて一生懸命なの。
だから泣かないの。
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ノリスケ |
そうだよね、泣きゃしないよね。
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ジョージ |
そのかわりね、たとえば3ヶ月ぶりとかに、
そう、ハワイとかで、2人が落ち合うのね。
そうすると、もう、もう、あれだよ、
通関して表に出て、そこにいたら、
びゃ〜〜〜って走って行って、
ぎゃ〜〜って抱きついて、
ブチュブチュブチュとかってやりながら、
もうどうでもいいや、みたいな。
で、泣いてんの。
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ノリスケ |
2人で。
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ジョージ |
そう。2人で。バカ。キ●●イ。
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ノリスケ |
(笑)。
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ジョージ |
で、離れ離れになってるときに、
たまに、安ーいテレビのドラマとかで、
似たようなシチュエーションで、
それでも2人が支え合って生きてるわ、
みたいなん観ると、泣けてくるんだよね。
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つねさん |
あ、それは泣けてくる。
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ノリスケ |
なんか、自分だったら泣けないのに、
人だったら泣けるシチュエーションって
多くない? そういうの。
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ジョージ |
んー……そう。それで、
何か、自分の幸せを……
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つねさん |
再確認するの?
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ジョージ |
そう、再確認するの。
そうすると、泣けちゃう。ぎゃ〜って。
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つねさん |
幸せだったのね。
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ジョージ |
あんときは。あんときはね〜。
でも、すーごい7年間もったいなかったな、
と思いながら別れたんだけどね。
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ノリスケ |
別れるときは(笑)。
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ジョージ |
フガッ(笑)。うお〜〜っ、
遠回りしたわーっ、とかって(笑)。
特に最後の遠距離恋愛の2年間。
あーっ、遠回りだったーっとかって。
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ノリスケ |
とっとと別れればよかった?
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ジョージ |
そう、私がいちばんかわいかったときの、
この2年間をだいなしにしてーっ、て。
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つねさん |
でーも、遊んでたんでしょ?
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ジョージ |
うん。でも、
今の方がもっとかわいいかな? って。
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つねさん |
ハハハハハハッ。
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ノリスケ |
だから、いいのね(笑)。
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ジョージ |
んー、でもねー。ほんっとにね、
不幸のどん底では、人は泣けないよ。
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つねさん |
あ、それはそうだと思うよ。
あーの、何とかしなくちゃいけないと思うから。
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ノリスケ |
泣いてる場合じゃないもんね。
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つねさん |
うん。
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ジョージ |
家、ね、父が会社を潰したときなんて、
もう、親子5人、泣けないんだもん。
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つねさん |
泣いてちゃだめだもんね。
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ジョージ |
そう。
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つねさん |
生きてけないよね。
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ジョージ |
お父さんとお母さんは、
1回別れることになるけど、
あんたたちはどっちつくんかいっ? とかって。
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ノリスケ |
もう、実務的な通達が……(笑)。
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ジョージ |
そう。ほんっとだよ、ほんっとだよ。
それで、母はいちおう実家に戻ったの。
対外的には「母さんは家族を捨てて家を出た」
ということにして、迷惑かからないようにしたのね。
僕は父のとこついてって。
で、もう、父は必死なわけじゃない?
子供たちもとりあえず、
お父さんに迷惑かけらんないから一生懸命で。
んー、そのうち妹たち2人は、
母の里のほうに預けられて、
僕、ばあやさんのとこにいて、
お父さんは東京のほうで事業を
やらなきゃなんないからって。
もう、ほんとに一生懸命だったよ。
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ノリスケ |
うん。戦後の日本みたいな感じね?
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ジョージ |
そう。そんな感じ、そんな感じ。
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ノリスケ |
泣いてないよね、みんな。たぶん、
ものすごいエネルギーがあって、元気で。
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つねさん |
逆にね。
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ジョージ |
そうなんだよ。それで、1年ぐらいして、
お父さんの仕事がめどがついたからって、
東京に呼ばれて。
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ノリスケ |
早かったね。
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ジョージ |
そう。で、そんとき、母も来てたんだよ。
んで、母も必死なわけよね。
建前上は母は家族を捨たことになってるから、
人前では「戻ってこれた」というふうには
言えないの。どの面下げて、って思われるから。
だからね、母は、みんなの前で羽田に降りてきて
「一生無休で働けるお手伝いさんが
一人欲しかったら、私を雇いませんか?」
って言ってたんだもん!
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ノリスケ |
すっごい。はーっ!
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ジョージ |
も、そんときはね、けっこう泣けたよ。
だけど、そこで泣くと格好良くないから、
みんな我慢するんだよ。
それで、車に乗ったときにみんな、
びぇーーーっっ!! て泣いたの。
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ノリスケ |
再会して。
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ジョージ |
ほんで、びぇーーーっっ!! て泣いて。
バロンちゃんもいたんだけど。
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ノリスケ |
バロンちゃんて、ブルドックね?
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ジョージ |
それがねえ、ブルブルが屁たれるんだ。
臭いの! 人が泣いてるのに!
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ノリスケ |
もう、ほんと、アーヴィングの小説みたいな家っ。
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ジョージ |
そうそうそう。そんな。
だから、ほんっとに悲しいときには、
泣けないものなのよー。
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(つづきます)