ノリスケ |
ちっちゃいことでね、僕、
カマボコを焼いて泣いたことある。
ていうか、今でもうっかりすると泣くよ。
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ジョージ |
焼いたカマボコってっ!? なに、それ?
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ノリスケ |
それはねえ、また、おばあちゃんなんだけどね。
僕が小学生のときなんだけど、
父と母がとっても仲が悪い時期があってね、
で、家も借金があったらしくて、
とても大変だった時代があるの。
借金があることは、
小っちゃいから聞いてないんだけど、
とにかく大変そうなわけ。
いつもケンカしてるし、
父は呑めば酒乱になっちゃうし(笑)。
で、なんか、家ん中がいつも
しっちゃかめっちゃかなの。
で、けっこう子ども、冷静に見てんのね。
母がどんなに泣いてわめこうが、
何やってるんだろうな、
ぐらいに思ってるんだけど……。
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つねさん |
で、カマボコは?
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ノリスケ |
そうそう、母は働いていたから
祖母が全部ご飯を作ってくれてたの。
その定番メニューていうのがあって、
フライパンで焼いたカマボコと
バターで炒めたホウレンソウと、
それから、甘辛ーく煮た鶏の、
けっこうクズ肉だと思うんだ、安ーい、
モモのクズ肉を甘辛く炒めたのと、
えーと、スクランブルエッグが
付くことがあるかな?
それに、えーと、串に刺して揚げた、
あの、ウズラが、買ってきたやつが付くことも、
っていうのが、かなりの頻度で出てきたのね。
それ、よく食べてたの。
で、そのことは、祖母が死んでからも、
ずーっと忘れてたのね。
それが、つい、わりと最近に、
カマボコがあまって、ちょっと古いかな?
みたいになったときに、
焼いたの、フライパンで。
で、食べたとたんに、たーっ、て泣いた(笑)。
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ジョージ |
あ〜、そういうの、あるかもねー。
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ノリスケ |
あれっ? って思って。
なんで泣いてんだろう? って思って。
あ、そうか、これつくってくれた
ばあちゃんは、もういないんだ。
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つねさん |
は〜、いいなあ。
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ノリスケ |
言いながら泣けてくる(笑)。
なんか、おセンチねー。
幸せな涙かもしれないけれど。
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ジョージ |
不幸せは、経験しないほうがいいよ。
あのね、すっごい不幸を経験するとね、
小さい幸せに感動するようになるの。
そうすると、涙はいっぱい出るよね。
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つねさん |
うん。
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ジョージ |
父の会社が潰れてね、その年の大みそかってね、
すごいんだよ、会社潰れてね、
家差し押さえになるとね、
借金取りに来る人が、
目ぼしいものはみんな持ってくんだよ。
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ノリスケ |
はーっ、恐ろしい。
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ジョージ |
僕たち生活してるのに、
目ぼしいものなくなるの。
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ノリスケ |
目の前で持ってくの?
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ジョージ |
そう。ピアノだとか食卓だとか箪笥だとか、
そういうのはみんななくなるわけ。
だけど、食器は持ってっても、
仕方がないじゃない? そうするとね、
食器が入ってた食器棚持ってかれて、
食器が地べたに積んであるんだよ。
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つねさん |
はぁ〜、すごい。
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ジョージ |
んで、畳持ってくでしょ。
絨毯とか持ってくでしょ。
でね、最後のほうはね、
フローリングの床を、剥いでくの。
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ノリスケ |
えーっ!?
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つねさん |
すごいねー。
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ノリスケ |
……材木にすんのかしら?
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ジョージ |
そうするとね、あーの、
足場組んであるじゃない? 床載せる。
そこしか残らないんだよ。
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ノリスケ |
すごいね。
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ジョージ |
で、その上にね、
段ボールとかねベニア板とかをね、
色んなとこから貰ってきて……、
すっごい大っきい家なんだよ? なんだけど、
その中で、なんか、
ホームレスみたいな生活をするのね。
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ノリスケ |
家は、持ってかれなかったの?
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ジョージ |
家は、差し押さえで
抵当権が付いてるから、
誰も手を出せないの。
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ノリスケ |
ああ、そういう状態なんだ。
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ジョージ |
そう。
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ノリスケ |
で、住む場所はある、と。
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ジョージ |
そう。住む場所はあるんだけど、すごいんだよ。
ほんでね、なのに、なんか知んないけど、
年越し蕎麦を食べたくなっちゃうんだよね。
そんな状態じゃないのに。
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ノリスケ |
「一杯のかけそば」
みたいになっちゃうのね(笑)。
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ジョージ |
カップ麺かなんか、買ってきちゃうの。
んでね、食べるとね、すごいね、情けないよ。
も、これはね、情けなくて、
情けなすぎると、涙、出る。
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ノリスケ |
それは、出る。
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ジョージ |
も、悔しいとか悲しいはないけど、
情けないのは涙出るね。けっこうね。
でもう、翌年からはぜったい、
年越し蕎麦食べなくなった。
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ノリスケ |
今でも食べないの(笑)?
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ジョージ |
東京出てきて、んーと、なんとかなって、
その思いをひきずって10周年記念で、
解禁になったけどね、年越し蕎麦。
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ノリスケ |
ふ〜ん。もう、今は笑って食えると。
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ジョージ |
今は笑って食える。
茹でるの間違ってみんなが怒鳴り散らしながら。
「誰が茹でたのっ!? こんなのーっ!!」
とかって言いながら。もう、どゆの?
のど元過ぎれば熱さ忘れる。
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つねさん |
人ってそういうものなのね。
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ジョージ |
そんなもんよ。
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ノリスケ |
情けなくて涙が出るかー。
それは、あるだろうな(笑)。
一時、恋愛の相談みたいな電話を
かけてくる友だちがいて。僕に。僕なんかに。
相談じゃない、聞いて欲しいだけなんだろうけどね。
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つねさん |
うん、そうね。
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ジョージ |
相談じゃなくってね(笑)。
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ノリスケ |
相談なんかしないよ。相談したって、
何も返ってこないんだから(笑)。
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つねさん |
めんどくさがるしね(笑)。
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ノリスケ |
そ。でも、聞くんだよ、僕。
他人の話って面白いからさ(笑)。
で、情けなくて涙、っていう話なんだけど、
ずっとつき合ってた人と別れたのに、
すごくその人が良くしてくれるんだって。
遠慮なしにすぐ泊まりに行っちゃったりできる、
いい人、らしいの。
でも、もう、ちゃんと別れなくちゃいけない、
一人でちがう人生見つけなくちゃいけない、
その人に迷惑かけちゃいけない、
と思いながらも、つい、
ずーっと甘えてしまっていたんだって。
で、なんか、ある日やっぱり
他の男とゴタゴタして、
惚れたはれたで大げんかして、
その男の家を出てきて。
で、夜中で行く場所がないからって、
またその人んちに、
甘えて行こうと思ったんだって。
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つねさん |
ついつい、なのよね。
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ノリスケ |
でも、そんとき、はじめて、
彼を都合よく使ってる自分が情けないっ、
と思って、涙出てきたんだって。
で、涙出てきたんだけど、腹も減って(笑)、
コンビニで、泣きながらおいなりさん3つ買って、
がしがし歩きながら
わんわん泣きながら
むしゃむしゃ食べながら、
その人んちに行ったって(笑)。
いい話だな、と思って(笑)。
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ジョージ |
いいね。いい話かも、それは。
いい話だと思う。
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つねさん |
そうなんだよね。お腹空いたら、
やっぱり、そうだと思うよ。
情けないけどね。
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ノリスケ |
親が死んでも腹は減る、って(笑)?
でも、怖いわよねえ、夜道に向こうから
泣きながらおいなりさん食べて歩いてくる
ひげ面の大男がいたら。
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つねさん |
ふふ、かわいいかも!
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(かわいいのか。つづきます)