ジョージ |
涙を出すきっかけとかキーワードは、
必ずどこかに存在してるね。
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つねさん |
うん。
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ジョージ |
たとえば、音楽であったりね。
あるいは、一時期、僕の中で、
「一生」っていうのが、
すーっごいキーワードだったことがある。
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ノリスケ |
一生が?
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つねさん |
そう。一生、一緒にいたい、とか。
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ノリスケ |
あのいまいましい流行り歌のせいで
その言葉のよさを忘れそうだわっ。
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ジョージ |
なんかね、んー、誰かと付き合ってて、
あ〜、僕はこの人と、もしかしたら
一生一緒にいるのかも知れない、と思ったら、
じわじわじわーって涙が出たことがあるよ。
幸せだよ、すっごい幸せだったの。
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つねさん |
だから、可能性に対する、なんか、希望?
ビジョンが見えちゃうの?
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ジョージ |
イメージが広がるんだよ。ダーーーッ、て。
「一生」という言葉のなかで。ダーーーッ……
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つねさん |
やっぱり、一緒に住んで、ブルブル飼って。
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ジョージ |
そうそうそうそう。だけど、そんな
「一生」なんてことを突き詰めていくと、
そこに向かうまでのあんな障害とか
こんな障害とか、下手したら、ねえ?
その、下の世話とかしないと
いけないのかしら? とか、
そういうことはとりあえず棚上げにしといて、
「一生」って言うと、その、幸せなイメージがドェーーーーッ、て広がって、
涙が、ブェーーーーッと。
……んー、でもなー、最近はあんまりないの。
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ノリスケ |
ハハハハハハッ。
それは、なんなの?
つねさんとつきあってから?
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つねさん |
それ、なんか、喜んでいいの?
悲しんでいいの? 俺。
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ジョージ |
より現実的になったから、
いんじゃない? フッ。
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つねさん |
あ、そっか。
……吐き捨てるように言ったな? 今。
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ジョージ |
フフンッ、フン、フン。
……でも、まだ20代ってさ、
ほんっとにもう、子供みたいなもんだったもん。
子供の流す涙って、ほんとにたわいもないな、
って思うよ、今になって思えば。
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つねさん |
でも、ほんと、そういうの、
きっかけっていうの、
何かあるかも知れないよ。ね?
普通で見ても泣けないことが、
泣けるときあるじゃない?
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ジョージ |
あるね。たとえばね、知り合いの作曲家が、
映像のなかで泣かそうと思ったら簡単だよって、
むかし言ってた。
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つねさん |
うん。
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ジョージ |
どんなに、緻密に積み重ねたストーリーがあって、
どんなに悲しげな映像があっても、
人は泣かないんだって。
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ノリスケ |
んん?
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ジョージ |
そこに、ほんわかした幸せを
換気するような音楽を流すことによって、
涙腺はぶわーっと緩むの。
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ノリスケ |
ああ〜。
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つねさん |
悲しげな音楽じゃなくって。
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ジョージ |
で、特によく使うのが、
そのストーリーのなかで、
若い男の子と女の子が
幸せに過ごしていた時代に
ずっと流れていた音楽を、
スローテンポでアコースティックで
ピアノ1本かなんかで、
悲しいシーンにバカーンとかぶせると、
ぶぎゃーって泣くんだよね。
で、これって、涙の本質かも知れない。
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つねさん |
ふん、そっか。
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ジョージ |
今おかれている苦しい状況とか悲しい状況とかと、
たとえば昔の幸せだったイメージとを
照らし合わせて泣くか、
あるいは将来の、自分が求めている
幸せなイメージと照らし合わせて泣くか?
悔しいっていうのは、
本来自分が実現すべき幸せのイメージと
今おかれているところが、
ギャップがあるから涙が出るわけじゃん?
で、悲しいとか寂しいとかっていうのは、
昔、つい最近まで味わっていた
幸せのイメージと
今おかれているイメージとが違うから、
涙出るんだろうね。
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つねさん |
ああ、要するに、
気持ちがアンバランスになるのね?
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ジョージ |
そう。そんな感じはする。だとしたら、
幸せを一度も味わったことがない人は、
ぜったいに泣けないっていうことだね。ねっ?
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ノリスケ |
ふんっ、ふんっ、ふんっ(頷く)。
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ジョージ |
あるいは、心から幸せになりたいと
思ってない人は、ぜったい泣けないんだよね。
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ノリスケ |
そうか。
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ジョージ |
そう。
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つねさん |
こいつ、ほんとに泣けるんか?
っていうやつ、たまにいるよね。
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ジョージ |
うん、僕、泣けない子とは、
絶対つき合えないと思うし、
泣けない子と仕事もしたくないし、
友だちにもなりたくないと思うよ。
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つねさん |
気持ちの共有ができないじゃない? そういう子と。
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ジョージ |
ね。だって、ねえ?
幸せになろうと思って生きて……
人間は幸せになろうと思って
生きているんだと思いたいじゃん。
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ノリスケ |
相手が死んじゃったら、って思うと泣く?
自分が死んじゃったら、と思うと泣く?
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つねさん |
そういうことで泣かないな。
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ジョージ |
僕はね、もしおふくろが死んだらと思うとね、
泣けるよ。泣けるっていうか、
もう、心臓がつかみ出されるような感じがする。
だけど、うちのおやじが死んだらって思うと、
いやー、あれもしなけりゃいけない、
これもしなけりゃいけない、
めんどくさいなー、大変だなー、
ってしか思わないよ。
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つねさん |
そうなんだ。
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ノリスケ |
僕は、親のことはあんまり
リアルに想像できないんだけど、
恋人が死んで、その後の自分を想像するよりも、
自分が死んじゃった後の、
恋人を想像するのが辛いな。
平気で生きていくのかも知んないけど(笑)。
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ジョージ |
平気だよ、多分ね。
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ノリスケ |
そう、案外、平気で生きていくとは思うんだ。
でもね……
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つねさん |
それだったら、死ぬっていうよりは、
別れることのほうがリアルじゃない?
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ノリスケ |
別れたときはさ、別れるっていうのは、
お互いに何かがあってさ、
納得ずくじゃないかも知れないけどさ、
何かがあって別れるわけじゃない?
でも、何かの事故とかで、とつぜん自分が
いなくなっちゃったりしたときにね。
いま自分が、彼にあげることができる、
ちょっとした幸せみたいなものが絶対あって、
それをこの人からぜんぶ奪うことになるんだな、
と思うと、
彼は、きっとどうしていいか
わかんなくなるんじゃないかと思うのね。
って思うと、僕はいなくならないからね、
っていう気持ちになるよ。
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つねさん |
でも、それ突き詰めってったら、
つきあえないとかってことに
なってくわけじゃない、そういうのって?
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ノリスケ |
なんないよ!
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つねさん |
そんなことないの?
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ノリスケ |
そういう気持ちを抱えながら、
愛していくのが、いいのっ。
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ジョージ |
まあ、張り合いだからね、それはね。
んー、たとえそれが勘違いだったとしても。
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ノリスケ |
きつ……そう、そのとおりよ、
勘違いだったりするんだけどさ(笑)。
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ジョージ |
そういうふうに思いながら、
つき合うのは幸せだと思うんだ。
だって、んー、
誰からも必要とされてない人生だったら、
つまんないもん。
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つねさん |
それは、生きていく甲斐はないね。
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ジョージ |
最近の若い子では、
必要とされたくない子たちが、
けっこういっぱいいるじゃない?
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ノリスケ |
人から必要とされたくない?
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ジョージ |
そう。必要にならせてあげようとすると、
重たい、とかって。
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つねさん |
いるね、そういうの、いっぱいね。
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ジョージ |
そういうのが泣けない子なんだと思うよね。
泣けない子に限って、
武器としての涙を使うのよ。
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ノリスケ |
かーっ……
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ジョージ |
泣き上手さん。……いるよねー。
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ノリスケ |
思い出した? なんか(笑)。
どゆの、どゆの? 教えてっ!
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(つづきます)