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新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

涙。その5
泣かない人。

ジョージ 涙を出すきっかけとかキーワードは、
必ずどこかに存在してるね。
つねさん うん。
ジョージ たとえば、音楽であったりね。
あるいは、一時期、僕の中で、
「一生」っていうのが、
すーっごいキーワードだったことがある。
ノリスケ 一生が?
つねさん そう。一生、一緒にいたい、とか。
ノリスケ あのいまいましい流行り歌のせいで
その言葉のよさを忘れそうだわっ。
ジョージ なんかね、んー、誰かと付き合ってて、
あ〜、僕はこの人と、もしかしたら
一生一緒にいるのかも知れない、と思ったら、
じわじわじわーって涙が出たことがあるよ。
幸せだよ、すっごい幸せだったの。
つねさん だから、可能性に対する、なんか、希望?
ビジョンが見えちゃうの?
ジョージ イメージが広がるんだよ。ダーーーッ、て。
「一生」という言葉のなかで。ダーーーッ……
つねさん やっぱり、一緒に住んで、ブルブル飼って。
ジョージ そうそうそうそう。だけど、そんな
「一生」なんてことを突き詰めていくと、
そこに向かうまでのあんな障害とか
こんな障害とか、下手したら、ねえ?
その、下の世話とかしないと
いけないのかしら? とか、
そういうことはとりあえず棚上げにしといて、
「一生」って言うと、その、幸せなイメージがドェーーーーッ、て広がって、
涙が、ブェーーーーッと。
……んー、でもなー、最近はあんまりないの。
ノリスケ ハハハハハハッ。
それは、なんなの?
つねさんとつきあってから?
つねさん それ、なんか、喜んでいいの?
悲しんでいいの? 俺。
ジョージ より現実的になったから、
いんじゃない? フッ。
つねさん あ、そっか。
……吐き捨てるように言ったな? 今。
ジョージ フフンッ、フン、フン。
……でも、まだ20代ってさ、
ほんっとにもう、子供みたいなもんだったもん。
子供の流す涙って、ほんとにたわいもないな、
って思うよ、今になって思えば。
つねさん でも、ほんと、そういうの、
きっかけっていうの、
何かあるかも知れないよ。ね?
普通で見ても泣けないことが、
泣けるときあるじゃない?
ジョージ あるね。たとえばね、知り合いの作曲家が、
映像のなかで泣かそうと思ったら簡単だよって、
むかし言ってた。
つねさん うん。
ジョージ どんなに、緻密に積み重ねたストーリーがあって、
どんなに悲しげな映像があっても、
人は泣かないんだって。
ノリスケ んん?
ジョージ そこに、ほんわかした幸せを
換気するような音楽を流すことによって、
涙腺はぶわーっと緩むの。
ノリスケ ああ〜。
つねさん 悲しげな音楽じゃなくって。
ジョージ で、特によく使うのが、
そのストーリーのなかで、
若い男の子と女の子が
幸せに過ごしていた時代に
ずっと流れていた音楽を、
スローテンポでアコースティックで
ピアノ1本かなんかで、
悲しいシーンにバカーンとかぶせると、
ぶぎゃーって泣くんだよね。
で、これって、涙の本質かも知れない。
つねさん ふん、そっか。
ジョージ 今おかれている苦しい状況とか悲しい状況とかと、
たとえば昔の幸せだったイメージとを
照らし合わせて泣くか、
あるいは将来の、自分が求めている
幸せなイメージと照らし合わせて泣くか?
悔しいっていうのは、
本来自分が実現すべき幸せのイメージと
今おかれているところが、
ギャップがあるから涙が出るわけじゃん?
で、悲しいとか寂しいとかっていうのは、
昔、つい最近まで味わっていた
幸せのイメージと
今おかれているイメージとが違うから、
涙出るんだろうね。
つねさん ああ、要するに、
気持ちがアンバランスになるのね?
ジョージ そう。そんな感じはする。だとしたら、
幸せを一度も味わったことがない人は、
ぜったいに泣けないっていうことだね。ねっ?
ノリスケ ふんっ、ふんっ、ふんっ(頷く)。
ジョージ あるいは、心から幸せになりたいと
思ってない人は、ぜったい泣けないんだよね。
ノリスケ そうか。
ジョージ そう。
つねさん こいつ、ほんとに泣けるんか?
っていうやつ、たまにいるよね。
ジョージ うん、僕、泣けない子とは、
絶対つき合えないと思うし、
泣けない子と仕事もしたくないし、
友だちにもなりたくないと思うよ。
つねさん 気持ちの共有ができないじゃない? そういう子と。
ジョージ ね。だって、ねえ?
幸せになろうと思って生きて……
人間は幸せになろうと思って
生きているんだと思いたいじゃん。
ノリスケ 相手が死んじゃったら、って思うと泣く?
自分が死んじゃったら、と思うと泣く?
つねさん そういうことで泣かないな。
ジョージ 僕はね、もしおふくろが死んだらと思うとね、
泣けるよ。泣けるっていうか、
もう、心臓がつかみ出されるような感じがする。
だけど、うちのおやじが死んだらって思うと、
いやー、あれもしなけりゃいけない、
これもしなけりゃいけない、
めんどくさいなー、大変だなー、
ってしか思わないよ。
つねさん そうなんだ。
ノリスケ 僕は、親のことはあんまり
リアルに想像できないんだけど、
恋人が死んで、その後の自分を想像するよりも、
自分が死んじゃった後の、
恋人を想像するのが辛いな。
平気で生きていくのかも知んないけど(笑)。
ジョージ 平気だよ、多分ね。
ノリスケ そう、案外、平気で生きていくとは思うんだ。
でもね……
つねさん それだったら、死ぬっていうよりは、
別れることのほうがリアルじゃない?
ノリスケ 別れたときはさ、別れるっていうのは、
お互いに何かがあってさ、
納得ずくじゃないかも知れないけどさ、
何かがあって別れるわけじゃない?
でも、何かの事故とかで、とつぜん自分が
いなくなっちゃったりしたときにね。
いま自分が、彼にあげることができる、
ちょっとした幸せみたいなものが絶対あって、
それをこの人からぜんぶ奪うことになるんだな、
と思うと、
彼は、きっとどうしていいか
わかんなくなるんじゃないかと思うのね。
って思うと、僕はいなくならないからね、
っていう気持ちになるよ。
つねさん でも、それ突き詰めってったら、
つきあえないとかってことに
なってくわけじゃない、そういうのって?
ノリスケ なんないよ!
つねさん そんなことないの?
ノリスケ そういう気持ちを抱えながら、
愛していくのが、いいのっ。
ジョージ まあ、張り合いだからね、それはね。
んー、たとえそれが勘違いだったとしても。
ノリスケ きつ……そう、そのとおりよ、
勘違いだったりするんだけどさ(笑)。
ジョージ そういうふうに思いながら、
つき合うのは幸せだと思うんだ。
だって、んー、
誰からも必要とされてない人生だったら、
つまんないもん。
つねさん それは、生きていく甲斐はないね。
ジョージ 最近の若い子では、
必要とされたくない子たちが、
けっこういっぱいいるじゃない?
ノリスケ 人から必要とされたくない?
ジョージ そう。必要にならせてあげようとすると、
重たい、とかって。
つねさん いるね、そういうの、いっぱいね。
ジョージ そういうのが泣けない子なんだと思うよね。
泣けない子に限って、
武器としての涙を使うのよ。
ノリスケ かーっ……
ジョージ 泣き上手さん。……いるよねー。
ノリスケ 思い出した? なんか(笑)。
どゆの、どゆの? 教えてっ!
(つづきます)

2001-08-24-FRI
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