ジョージ |
ちょっと話、もどしましょ。
誰かのために作るお料理。
あのね、面白いのが、“誰か”のためでも、
その“誰か”が家族だと、「まかない」なのね。
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ノリスケ |
そうだね。
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つねさん |
ハッハッハッハ。
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ノリスケ |
あんまりこう、わくわくしない。
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つねさん |
そうだね。
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ジョージ |
お母さんの代わりなんだよ。
だけどね、そうじゃない誰かのためだったら、
お母さんじゃなくて「妻」なんだよね。
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つねさん |
あー。
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ジョージ |
だから、まかないじゃないんだよ。
ラブラブ料理なのっ。うふ。
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つねさん |
あー、そうだね。でもね、僕、
だれかのために、もいいけど、
誰かといっしょにお料理、
っていうのって、すごい好き。
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ジョージ |
誰かといっしょに、なんだけど、
たとえば2人で作ってるときに、
いっしょに作ってくれてる相手のために、
と思っているということが、
とっても幸せよね。
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つねさん |
もちろん、そう。
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ノリスケ |
やっぱり、それが前提だね。
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つねさん |
うん。
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ジョージ |
幸せってことがね。
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つねさん |
だから、やっぱり、僕がつくったものを、
食べてから、おっ!? みたいな顔してくれる、
その瞬間っていうのは、
すごく欲しかったりとかするよね。
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ノリスケ |
あのね、聞かれるの。
わたし、料理できないんです、
下手なんですー、どうしたらいいですか、って。
女の子に。
どう言ったらいいんだろう?
僕、なんかうまく教えられないんだよ。
なんでかっていうと、
そういうこと聞く子ってね、
ほんとうは料理なんかしたくないんじゃないの、
と思っちゃうの。
だから、根本的なことを言ってあげないと、
動かないんじゃないかと思うんだよ。
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ジョージ |
料理が下手な人ってね、
作るのが好きじゃない、じゃなくって、
食べることが好きなんじゃないんだと思う。
そういう子には、難しいよ。
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ノリスケ |
ああ、そっか。
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つねさん |
だと思う。僕もそんな気がする。
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ノリスケ |
べつにいいか、っていう。
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つねさん |
だって、美味しく食べたいって思ったら、
自分で工夫するわけじゃない?
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ノリスケ |
つまり、出てきたものに調味料をかけるっていう
ことから始まるはずなのに。
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つねさん |
そそそそ。
あのね、悪食なら悪食でいいんだけど、
食べることに興味があまりなくて、
腹に入ればなんでもいい人っているじゃん。
で、そういう人たちが作る料理って、
おいしかったためしがないの。
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ジョージ |
そうだよ、だって、西洋料理って、
テーブルに座ってお皿の上で
最後の調理をするよね。
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つねさん |
うん、ああ、ああ。
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ジョージ |
塩・胡椒かけたり、
ナイフ・フォークで切ったりとかね。
それとはまったく違う意味で、
味もみないで、
なにもかも塩をかけちゃう人、いるでしょう。
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つねさん |
あ、いるいる。
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ノリスケ |
なんでもソース、なんでもケチャップ、
なんでもマヨネーズ、って?
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つねさん |
ねー?
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ジョージ |
僕の知ってる中にも、そういう男がいたのよ。
も、ぜったいこれとはつきあえないよ。
で、それが女だったら、もっと嫌じゃない?
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ノリスケ |
さすがにそういう女は見たことないけどね。
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ジョージ |
だから、どゆのかな?
すーごい、すごい優雅に、
楽しげにナイフ・フォーク使って、
自分なりに味ととのえて食べられる人、
っていうのは、もうそれで、
お料理してるんだよね。お料理上手なんだよ。
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ノリスケ |
うん。
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ジョージ |
で、あとは、ほんとに料理作ってみようかな、
って思うきっかけがないだけかも知んないし。
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つねさん |
そうだね。
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ジョージ |
だから、お寿司なんかも、
醤油ベタベタに付けるのいるじゃない?
もう、へたすると醤油皿のなかに、
シャリが崩れて浮いてるようなの、
食うのいるじゃない?
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ノリスケ |
どっぷり。
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つねさん |
いるね。
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ジョージ |
ね? あれはー、料理下手だよね。
お箸の扱いが下手な女見たら、
ぜったいこいつ天ぷら揚げられないな、
って思うもんね。
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ノリスケ |
お箸ね。
僕も、友達とごはん食べてて、
一言言いたくなることがよくあるよ。
みんなガンコでさ、言っても聞かないけど。
ひっくり返したり掴んだりできないんだよね。
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ジョージ |
そう。菜箸じょうずに使ってたら、
ぜったいふつうの箸も使えるよね。
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つねさん |
うん、たしかに。
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ノリスケ |
じゃあ、料理できないんです、っていう人は、
食べること全般が、好きじゃないのかな?
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ジョージ |
だから、まあ、料理できない自分、
料理を作る必要のなかった自分っていうのを、
アピールしたくて
「料理できないんです」
って言うのはかまわんけど、
でも、ほんとに私、料理できないんです、
って何気なく言ってるっていうことは、
私、旨いものも知らなければ
旨いもの食った経験もないし、
お箸使いも何から何まで、下手なんですー、
原始人間ギャートルズといっしょなんです、
って言ってるのとおんなじだと思うな。
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ノリスケ |
マンモス生食いですー(笑)。
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ジョージ |
そうそう。手づかみですー、
で、ムシャムシャです、
っていうような感じだよ。
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ノリスケ |
そういう人って、食器とかにも興味ないのかな?
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つねさん |
でも、食器の興味って、またちょっとだけ、
ずれるっていうか、
べつかもしれないよ。
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ノリスケ |
こないだね、平松洋子さんって人の
エッセイ読んでたのね。
フード・ジャーナリストの人なんだけど、
娘さんがいるんだよね。
小学生のときから、
食卓を手伝わせてるんだけど、
手伝わせる内容が、
「お膳立て」だっていうの。
今日の料理はこれよ、と。
だから、あなたは、これに合うと思うものを
食器棚から出してきて、盛りつけをしなさい、
っていうのが、彼女のお手伝いなの。
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つねさん |
お仕事なのね。
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ノリスケ |
それはいいな、って思った。
あのね、「お膳立て」って言葉が、
そんなに美しい言葉だとは、
僕は、知らなかったの。
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つねさん |
そうだねー。
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ジョージ |
ああ、でも、そうだね。
お御馳走っていうのと、お膳立てっていうのは。
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ノリスケ |
いい言葉だなー。
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ジョージ |
男の御馳走、女のお膳立てだよね。
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つねさん |
ああ、そっかー。
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ジョージ |
男はいっしょうけんめい、駆けずり回って、
美味しい食材を調達してお御馳走。
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ノリスケ |
うん、うん。
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ジョージ |
で、作ったものを……
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つねさん |
お膳立てして。
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ノリスケ |
それが二人の食事。素敵ね。
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(つづきます)