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新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

お料理だいすき。その3
私、料理できないんです。

ジョージ ちょっと話、もどしましょ。
誰かのために作るお料理。
あのね、面白いのが、“誰か”のためでも、
その“誰か”が家族だと、「まかない」なのね。
ノリスケ そうだね。
つねさん ハッハッハッハ。
ノリスケ あんまりこう、わくわくしない。
つねさん そうだね。
ジョージ お母さんの代わりなんだよ。
だけどね、そうじゃない誰かのためだったら、
お母さんじゃなくて「妻」なんだよね。
つねさん あー。
ジョージ だから、まかないじゃないんだよ。
ラブラブ料理なのっ。うふ。
つねさん あー、そうだね。でもね、僕、
だれかのために、もいいけど、
誰かといっしょにお料理、
っていうのって、すごい好き。
ジョージ 誰かといっしょに、なんだけど、
たとえば2人で作ってるときに、
いっしょに作ってくれてる相手のために、
と思っているということが、
とっても幸せよね。
つねさん もちろん、そう。
ノリスケ やっぱり、それが前提だね。
つねさん うん。
ジョージ 幸せってことがね。
つねさん だから、やっぱり、僕がつくったものを、
食べてから、おっ!? みたいな顔してくれる、
その瞬間っていうのは、
すごく欲しかったりとかするよね。
ノリスケ あのね、聞かれるの。
わたし、料理できないんです、
下手なんですー、どうしたらいいですか、って。
女の子に。
どう言ったらいいんだろう?
僕、なんかうまく教えられないんだよ。
なんでかっていうと、
そういうこと聞く子ってね、
ほんとうは料理なんかしたくないんじゃないの、
と思っちゃうの。
だから、根本的なことを言ってあげないと、
動かないんじゃないかと思うんだよ。
ジョージ 料理が下手な人ってね、
作るのが好きじゃない、じゃなくって、
食べることが好きなんじゃないんだと思う。
そういう子には、難しいよ。
ノリスケ ああ、そっか。
つねさん だと思う。僕もそんな気がする。
ノリスケ べつにいいか、っていう。
つねさん だって、美味しく食べたいって思ったら、
自分で工夫するわけじゃない?
ノリスケ つまり、出てきたものに調味料をかけるっていう
ことから始まるはずなのに。
つねさん そそそそ。
あのね、悪食なら悪食でいいんだけど、
食べることに興味があまりなくて、
腹に入ればなんでもいい人っているじゃん。
で、そういう人たちが作る料理って、
おいしかったためしがないの。
ジョージ そうだよ、だって、西洋料理って、
テーブルに座ってお皿の上で
最後の調理をするよね。
つねさん うん、ああ、ああ。
ジョージ 塩・胡椒かけたり、
ナイフ・フォークで切ったりとかね。
それとはまったく違う意味で、
味もみないで、
なにもかも塩をかけちゃう人、いるでしょう。
つねさん あ、いるいる。
ノリスケ なんでもソース、なんでもケチャップ、
なんでもマヨネーズ、って?
つねさん ねー?
ジョージ 僕の知ってる中にも、そういう男がいたのよ。
も、ぜったいこれとはつきあえないよ。
で、それが女だったら、もっと嫌じゃない?
ノリスケ さすがにそういう女は見たことないけどね。
ジョージ だから、どゆのかな?
すーごい、すごい優雅に、
楽しげにナイフ・フォーク使って、
自分なりに味ととのえて食べられる人、
っていうのは、もうそれで、
お料理してるんだよね。お料理上手なんだよ。
ノリスケ うん。
ジョージ で、あとは、ほんとに料理作ってみようかな、
って思うきっかけがないだけかも知んないし。
つねさん そうだね。
ジョージ だから、お寿司なんかも、
醤油ベタベタに付けるのいるじゃない?
もう、へたすると醤油皿のなかに、
シャリが崩れて浮いてるようなの、
食うのいるじゃない?
ノリスケ どっぷり。
つねさん いるね。
ジョージ ね? あれはー、料理下手だよね。
お箸の扱いが下手な女見たら、
ぜったいこいつ天ぷら揚げられないな、
って思うもんね。
ノリスケ お箸ね。
僕も、友達とごはん食べてて、
一言言いたくなることがよくあるよ。
みんなガンコでさ、言っても聞かないけど。
ひっくり返したり掴んだりできないんだよね。
ジョージ そう。菜箸じょうずに使ってたら、
ぜったいふつうの箸も使えるよね。
つねさん うん、たしかに。
ノリスケ じゃあ、料理できないんです、っていう人は、
食べること全般が、好きじゃないのかな?
ジョージ だから、まあ、料理できない自分、
料理を作る必要のなかった自分っていうのを、
アピールしたくて
「料理できないんです」
って言うのはかまわんけど、
でも、ほんとに私、料理できないんです、
って何気なく言ってるっていうことは、
私、旨いものも知らなければ
旨いもの食った経験もないし、
お箸使いも何から何まで、下手なんですー、
原始人間ギャートルズといっしょなんです、
って言ってるのとおんなじだと思うな。
ノリスケ マンモス生食いですー(笑)。
ジョージ そうそう。手づかみですー、
で、ムシャムシャです、
っていうような感じだよ。
ノリスケ そういう人って、食器とかにも興味ないのかな?
つねさん でも、食器の興味って、またちょっとだけ、
ずれるっていうか、
べつかもしれないよ。
ノリスケ こないだね、平松洋子さんって人の
エッセイ読んでたのね。
フード・ジャーナリストの人なんだけど、
娘さんがいるんだよね。
小学生のときから、
食卓を手伝わせてるんだけど、
手伝わせる内容が、
「お膳立て」だっていうの。
今日の料理はこれよ、と。
だから、あなたは、これに合うと思うものを
食器棚から出してきて、盛りつけをしなさい、
っていうのが、彼女のお手伝いなの。
つねさん お仕事なのね。
ノリスケ それはいいな、って思った。
あのね、「お膳立て」って言葉が、
そんなに美しい言葉だとは、
僕は、知らなかったの。
つねさん そうだねー。
ジョージ ああ、でも、そうだね。
お御馳走っていうのと、お膳立てっていうのは。
ノリスケ いい言葉だなー。
ジョージ 男の御馳走、女のお膳立てだよね。
つねさん ああ、そっかー。
ジョージ 男はいっしょうけんめい、駆けずり回って、
美味しい食材を調達してお御馳走。
ノリスケ うん、うん。
ジョージ で、作ったものを……
つねさん お膳立てして。
ノリスケ それが二人の食事。素敵ね。
(つづきます)

2001-09-26-WED

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