ジョージ |
僕が25、6ぐらいのときに泊めてもらった
40半ばくらいの独身のオジサンがいたのね。
朝、いっしょに起きたんだけど、
僕がトイレに入っている10分間のあいだに
朝ご飯をしっかり作ってくれたの。
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つねさん |
すげー。ムチャクチャ手際良かったんだ。
嬉しかった?
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ジョージ |
それがねえ……っていうかね、冷蔵庫の中にね、
おひたしだとか? お漬物だとかを……
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ノリスケ |
ああ。
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ジョージ |
タッパウエアに小分けされて、
いーーーーっぱい、入ってるんだよ、
きんぴらごぼうだとか!
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つねさん |
すてきー。ていうか、おばさん?
おいしそうだけど、なんか、嬉しくなーい。
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ジョージ |
そうなのよ、嬉しいんだけど、
ちがう嬉しさなんだよね。
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つねさん |
わかる。
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ノリスケ |
ただ食事が嬉しいのよね(笑)。
気持ちじゃなくてね。
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つねさん |
旅館みたい(笑)。
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ノリスケ |
下宿ね。
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ジョージ |
それこそ、まかないなんだよ。
僕のために、じゃなくって。
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つねさん |
常備菜のある男。
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ジョージ |
そう。
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ノリスケ |
うはー。常備菜というのは、とてもいいけど、
そういうシチュエーションで出されるのは勘弁。
「僕のライフ・スタイル見てね」
っていうのが先にくるから、困っちゃうのね。
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ジョージ |
そうなの、食べながら、
「僕は毎日朝ご飯を食べるんだよ、
だから健康なんだ、カッカッカッカッ」
て言われたときに、気持ちが一気に冷めた。
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つねさん |
子供のお弁当を作っているお母さんが、
お弁当の残りで
朝ご飯出したりとかするじゃん。
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ジョージ |
それに近いよ。
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ノリスケ |
生活と恋愛くっつきすぎ。……うーん。
最初のひとときだけは、
ファンタジーとして、分けてほしかった。
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ジョージ |
だから、あまりに手際の良いのを
見せつけられると、
どうしようかな、ってなるのね(笑)。
お料理上手も、難しいところよね。
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ノリスケ |
いきなりちょっと、それを全開するのは。
そういうライフスタイルなんだろうけど、
その時だけは、ウソでもいいから
「ありあわあせだけど」っていう演出があったら
よかったのにね。
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ジョージ |
そうそうそうそう。
ありあわせっていうのが、
いちばんのお御馳走だよね。
気持ちが入っているから。
だけど、「ありあわせなんだけど」
って言いながら、
ロースト・ビーフ焼き始める女は、
もっとイヤよね。
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つねさん |
すごーいイヤ!
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ノリスケ |
そんな女はいませんっ。
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ジョージ |
ありあわせで、たとえば、
魚肉ソーセージをもやしかなんかといっしょに、
何かを炒めてくれて、
「ほんっとにありあわせなんだけど」
って言いながら、
それがものすごく美味しかったりするのが、
ほんとのありあわせのよさなのよね。
だけど、なんか、ありあわせなのに、
でかい肉じゅうじゅう焼かれると、
この女は……
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ノリスケ |
用意周到だったな。
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ジョージ |
そう。僕はここに来てメシを食わなかったら、
この女はこの肉をひとりで明日食うんだ、
そういう戦略を重ねてるんだ、
と思うと……
ま、実際そういう経験はありませんけど。
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ノリスケ |
お馳走作るときには
「御馳走作るからね」って宣言して、
ちゃんとやらなきゃね。
ねえ、でも、お馳走作る? 家で。
あなたたちは、
食べ行っちゃうことが多いんじゃない?
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ジョージ |
2人で作ったら、何でもごちそう〜。
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ノリスケ |
はいはい(小声)。
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つねさん |
そうね、デートだと、
食べに行くのがほとんどだけど、
作るのっていいよねー、ってたまに思うよ。
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ジョージ |
あのね、お外でお御馳走を食べたときに、
今度お御馳走を作ろう、って思うのよ。
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ノリスケ |
うんっ、思う。いい循環する。
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ジョージ |
ねっ。んでね、そうやって作っても、
けしてお御馳走にはならないんだけど、
お馳走作ったような「気持ち」になれるんだよ。
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ノリスケ |
うんっ。
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つねさん |
なれるなれる。
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ジョージ |
昔、NHKの教育テレビで、
帝国ホテルの村上総料理長と、
ホテル・オークラの小野総料理長が
枠を持ってたことあるんだよ。
NHKの料理番組って、
必ず女のアシスタントが付くじゃん。
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つねさん |
うん。
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ジョージ |
で、その女、手際悪いんだよね、ほとんどね。
で、その女って必ず、シェフに、
「あ、こういうふうにすれば、
私たち主婦でも、
帝国ホテルの味ができるんですねっ!」
とかって言うんだよ。
そうするとね、村上さんはね、
「そうですよー、頑張って下さいねーっ」
て言うの。ところがね、小野さんはね、
「オークラの味になるんですね」って言ったら、
「絶対無理だねっ」。
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つねさん |
ハッハッハッハ! いや、いいねー。
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ジョージ |
言うのー。
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つねさん |
男気があるね。
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ジョージ |
そー。そういう意味で、外のおご馳走を
家で再現することは、絶対無理なんだけどね。
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ノリスケ |
そうだよ、絶対無理だよー。
家で作るのは、そういうごはんとは、違うの。
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ジョージ |
そう。ビーフ・シチューなんか、
絶対おうちで美味しくなんかできないもん。
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ノリスケ |
そうなのよ、再現できるっていうのは、
ウソなのよ。自分で作ってみて、
やっとわかった。
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つねさん |
でも、再現はできないけど、
やっぱりなんか、好きな人が作った
ビーフ・シチューって美味しいよ。
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ノリスケ |
そういう美味しさは、ある。
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ジョージ |
1回大笑いしたことがあってね、
ニュー・オータニの宴会の総料理長さんと
親しくしてもらったことがあったの。
で、ドレッシングがすごく美味しかったの。
野菜のドレッシング。
で、どやって作るんですか? て聞いたら、
「じゃあ、レシピ教えてあげるよ」って。
くれたレシピが300人前なんだよ。
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ノリスケ |
ハッハッハッハッハッハ。
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ジョージ |
で、えっ? って。
じゃあ、3人前に計算し直したのね。
ところが、100分の1ずつにすると、
タマネギがピンセット1カケになっちゃうの!
お塩なんか耳かき1パイなんだよ。
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ノリスケ |
は〜。
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つねさん |
あそっかー。
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ジョージ |
すごいんだよ。
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ノリスケ |
でも、それはタマネギをピンセットで
1カケ入れれば同じ味になるっていう
わけじゃないんでしょう?
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ジョージ |
そうなのよ。
ただのお酢と油を混ぜたものでしかないんだよ。
だから、絶対ね、
プロのお料理は素人にはできないのよ。
でも、ん〜、ねえ? 好きな人のために、
って思うお料理は美味しいの。そういうことっ。
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(つづきまーす)