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新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

お料理だいすき。その5
レストランのご馳走、お家のごはん。

ジョージ 僕が25、6ぐらいのときに泊めてもらった
40半ばくらいの独身のオジサンがいたのね。
朝、いっしょに起きたんだけど、
僕がトイレに入っている10分間のあいだに
朝ご飯をしっかり作ってくれたの。
つねさん すげー。ムチャクチャ手際良かったんだ。
嬉しかった?
ジョージ それがねえ……っていうかね、冷蔵庫の中にね、
おひたしだとか? お漬物だとかを……
ノリスケ ああ。
ジョージ タッパウエアに小分けされて、
いーーーーっぱい、入ってるんだよ、
きんぴらごぼうだとか!
つねさん すてきー。ていうか、おばさん?
おいしそうだけど、なんか、嬉しくなーい。
ジョージ そうなのよ、嬉しいんだけど、
ちがう嬉しさなんだよね。
つねさん わかる。
ノリスケ ただ食事が嬉しいのよね(笑)。
気持ちじゃなくてね。
つねさん 旅館みたい(笑)。
ノリスケ 下宿ね。
ジョージ それこそ、まかないなんだよ。
僕のために、じゃなくって。
つねさん 常備菜のある男。
ジョージ そう。
ノリスケ うはー。常備菜というのは、とてもいいけど、
そういうシチュエーションで出されるのは勘弁。
「僕のライフ・スタイル見てね」
っていうのが先にくるから、困っちゃうのね。
ジョージ そうなの、食べながら、
「僕は毎日朝ご飯を食べるんだよ、
 だから健康なんだ、カッカッカッカッ」
て言われたときに、気持ちが一気に冷めた。
つねさん 子供のお弁当を作っているお母さんが、
お弁当の残りで
朝ご飯出したりとかするじゃん。
ジョージ それに近いよ。
ノリスケ 生活と恋愛くっつきすぎ。……うーん。
最初のひとときだけは、
ファンタジーとして、分けてほしかった。
ジョージ だから、あまりに手際の良いのを
見せつけられると、
どうしようかな、ってなるのね(笑)。
お料理上手も、難しいところよね。
ノリスケ いきなりちょっと、それを全開するのは。
そういうライフスタイルなんだろうけど、
その時だけは、ウソでもいいから
「ありあわあせだけど」っていう演出があったら
よかったのにね。
ジョージ そうそうそうそう。
ありあわせっていうのが、
いちばんのお御馳走だよね。
気持ちが入っているから。
だけど、「ありあわせなんだけど」
って言いながら、
ロースト・ビーフ焼き始める女は、
もっとイヤよね。
つねさん すごーいイヤ!
ノリスケ そんな女はいませんっ。
ジョージ ありあわせで、たとえば、
魚肉ソーセージをもやしかなんかといっしょに、
何かを炒めてくれて、
「ほんっとにありあわせなんだけど」
って言いながら、
それがものすごく美味しかったりするのが、
ほんとのありあわせのよさなのよね。
だけど、なんか、ありあわせなのに、
でかい肉じゅうじゅう焼かれると、
この女は……
ノリスケ 用意周到だったな。
ジョージ そう。僕はここに来てメシを食わなかったら、
この女はこの肉をひとりで明日食うんだ、
そういう戦略を重ねてるんだ、
と思うと……
ま、実際そういう経験はありませんけど。
ノリスケ お馳走作るときには
「御馳走作るからね」って宣言して、
ちゃんとやらなきゃね。
ねえ、でも、お馳走作る? 家で。
あなたたちは、
食べ行っちゃうことが多いんじゃない?
ジョージ 2人で作ったら、何でもごちそう〜。
ノリスケ はいはい(小声)。
つねさん そうね、デートだと、
食べに行くのがほとんどだけど、
作るのっていいよねー、ってたまに思うよ。
ジョージ あのね、お外でお御馳走を食べたときに、
今度お御馳走を作ろう、って思うのよ。
ノリスケ うんっ、思う。いい循環する。
ジョージ ねっ。んでね、そうやって作っても、
けしてお御馳走にはならないんだけど、
お馳走作ったような「気持ち」になれるんだよ。
ノリスケ うんっ。
つねさん なれるなれる。
ジョージ 昔、NHKの教育テレビで、
帝国ホテルの村上総料理長と、
ホテル・オークラの小野総料理長が
枠を持ってたことあるんだよ。
NHKの料理番組って、
必ず女のアシスタントが付くじゃん。
つねさん うん。
ジョージ で、その女、手際悪いんだよね、ほとんどね。
で、その女って必ず、シェフに、
「あ、こういうふうにすれば、
 私たち主婦でも、
 帝国ホテルの味ができるんですねっ!」
とかって言うんだよ。
そうするとね、村上さんはね、
「そうですよー、頑張って下さいねーっ」
て言うの。ところがね、小野さんはね、
「オークラの味になるんですね」って言ったら、
「絶対無理だねっ」。
つねさん ハッハッハッハ! いや、いいねー。
ジョージ 言うのー。
つねさん 男気があるね。
ジョージ そー。そういう意味で、外のおご馳走を
家で再現することは、絶対無理なんだけどね。
ノリスケ そうだよ、絶対無理だよー。
家で作るのは、そういうごはんとは、違うの。
ジョージ そう。ビーフ・シチューなんか、
絶対おうちで美味しくなんかできないもん。
ノリスケ そうなのよ、再現できるっていうのは、
ウソなのよ。自分で作ってみて、
やっとわかった。
つねさん でも、再現はできないけど、
やっぱりなんか、好きな人が作った
ビーフ・シチューって美味しいよ。
ノリスケ そういう美味しさは、ある。
ジョージ 1回大笑いしたことがあってね、
ニュー・オータニの宴会の総料理長さんと
親しくしてもらったことがあったの。
で、ドレッシングがすごく美味しかったの。
野菜のドレッシング。
で、どやって作るんですか? て聞いたら、
「じゃあ、レシピ教えてあげるよ」って。
くれたレシピが300人前なんだよ。
ノリスケ ハッハッハッハッハッハ。
ジョージ で、えっ? って。
じゃあ、3人前に計算し直したのね。
ところが、100分の1ずつにすると、
タマネギがピンセット1カケになっちゃうの!
お塩なんか耳かき1パイなんだよ。
ノリスケ は〜。
つねさん あそっかー。
ジョージ すごいんだよ。
ノリスケ でも、それはタマネギをピンセットで
1カケ入れれば同じ味になるっていう
わけじゃないんでしょう?
ジョージ そうなのよ。
ただのお酢と油を混ぜたものでしかないんだよ。
だから、絶対ね、
プロのお料理は素人にはできないのよ。
でも、ん〜、ねえ? 好きな人のために、
って思うお料理は美味しいの。そういうことっ。
(つづきまーす)

2001-09-28-FRI

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