53
矢沢永吉、50代の走り方。

第5回 10代と、20代の人たちへ。







「そちにも、母がない、父もない。
 肉親のない身は世の中をつめたく見、ひがみ易い。
 ……そうなってはならぬぞ。
 あたたかい心で人のなかに住め。
 人のあたたかさは、自分の心が
 あたたかでいなければ分かる筈もない。
 (中略)
 まだ若木のそちには、長い生涯があるが、
 それにせよ、生命を惜しめよ。
 事ある時、国のため、武士道のため、
 捨てるために、生命は惜しむのだ。
 愛しんで、きれいに持って。いさぎよく。
 (中略)
 そちに武蔵が教えたことは、皆、わしの短所ばかり。
 自分の悪い所、出来ない所。
 至らないで悔いていることばかりを、そちには、
 そうあって貰いたくないために教えておるのだ」



           吉川英治『宮本武蔵』(講談社)より





あなたはいま、何歳ですか?

どうやら、読む人の年齢によって、
このページへの感想は、異なるようなのです。

たとえば、前回までのインタビューは、40代の、
矢沢永吉さんと第1線で仕事をしてきた人へのものでした。

「ほぼ日」宛てに感想メールをくださったのは、
30代と40代を中心とする、仕事盛りのかたがた。

一生懸命に仕事をしてる人にメッセージが伝わったことに、
「あぁ、うれしい」と思ったのですが……ただ、
10代や20代の人たちは、この「53」のページを、
ちょっと引いて読んでいるのかもしれない、とも感じます。

今回の冒頭に引用したのは、小説『宮本武蔵』の一節です。
主人公の武蔵が、最後の戦いを前に、まだ子どもの弟子に
これだけは伝えておきたい、と話していたこと、なんです。

まだ何もはじめていない弟子に対して、
「教えたことは、皆わしの短所ばかり」
と、武蔵が最も強く思うことだけを伝えている様子は、
もしかしたら、この「53」のページの、
経験や蓄積を伝えてゆく姿勢に、
すこし、似ているのかも、しれません。

ほぼ日を、受験勉強の合間に読んでくださっている人が、
「何十年も仕事をやっている人のページだからこそ、
 まだ仕事をはじめていない自分に、
 とても関係があることかもしれないな」と感じる……。
「53」は、そんなページにもなればいいなぁと思います。

矢沢さんの過去の音声インタビューには、割と、
さきほどの武蔵と子どものような会話が、よくあります。

たとえば、タレントの伊集院光さんは、25歳の頃に、
中高生に大人気を博した深夜ラジオ番組のDJでした。
その伊集院さんの番組に、
当時40代の矢沢永吉さんが、ゲスト出演。
……その頃25歳の伊集院さんと10代のリスナーに向けて
矢沢さんは、次のようなことを、語っていたのでした。







 キラキラしてる時期、って、あるじゃない?
 あなた、『自分も成りあがりたいです』と、
 放送前にチラッと言っていたけど、イイよね。

 やっぱり、みんな志を持ってから走るわけじゃない。
 18ぐらいに夢をみたり、
 それから、ハタチぐらいになって。
 そのハタチになってからの10年間って、
 えらい、はやくてさ……。
 
 もうこの時、わかれるからね。
 走るヤツと、ボーッと見てるだけのヤツに
 人間が、パッとわかれるからね。
 ハタチから30歳までの10年間、おもしろいよ。

 とにかく、志を持ってみんな走るわけだけど……。
 ぼくはその、志を持って走るザマっていうのか、
 その瞬間みたいなものが、
 いちばん光ってると思うんです。

 だからもう、せいぜい光ってもらいたいんだけど。


               「YAZAWA'S DOOR」
              過去の音声インタビューより





今日は最後に、もうひとつだけ、
音声インタビューから抜粋するかたちで、
10代20代の人への矢沢さんの言葉をご紹介しますね。







 みんな、その時代その時代の思い入れがあって、
 それぞれの時代で独特な影響を受けているわけだから、
 ひとつの時代の思い入れだけで
 「いまの若い人たちは……」
 とか、決めつけないほうがいいみたいです。

 ぼくは昭和24年生まれですけれども、
 その時代の人にとっての価値基準で
 「みんな、こうしろ」と言うことはできない。
 いま、20歳前後の人がロックに目覚めていても、
 ぼくがロックに目覚めた時とは違うと思うんですよ。

 違っていて当たり前だし、それよりも、
 何かに惹かれてワーッと来てる気持ち、
 そういう気持ちが来るか来ないかが大事なので。

 
 「矢沢さんの初期のアルバムがどうのこうの」
 「あの時代がよかった、この時代がよかった」
 ファンはいろいろ言うと思いますけれど、
 それはいろいろ、その聴く人のほうの主観で……。

 作る側としては、過去は過去よ。
 こっちは、タッタカタッタカ、進むだけ。
 「次どういうコンセプトでやろうかなぁ」
 「こういうことを、やらなきゃな」
 そう思うことしかないんですよ。
 
 17歳や18歳の連中がワーッと思っているものを、
 そもそも、40代が、わかるわけはないんです。
 そのままわかるハズがない。
 
 だけど、なんでワーッとなっているかの理解度として、
 「こうなっているからワーッとなるんだな」
 という様子は、常にキャッチしていないとダメだよね。
 いまの10代の姿をコピーをするんじゃなくて、
 10代の感じていることをキャッチして、
 そっちに向けては、どういう表現をできるか……という。



               「YAZAWA'S DOOR」
              過去の音声インタビューより





今回の「53」は、10代と20代の人へ向けた
矢沢永吉さんの過去の言葉から、お送りいたしました。

年齢を重ねることについて、もしくは
音楽ということをずっと続けていくことについてなど、
今後、いろいろな角度から、特集をしていきますね。
もちろん、豪華ゲストも登場予定です!


(つづきます)

2002-07-12-FRI


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