ほぼ日 |
さきほど、重松さんが、
「歳を取っていくということは、
変わっていくということだと思う。
変わらないうちは歳を取ったことにならない」
とおっしゃいました。
それにものすごく興味があります。
詳しく、うかがえますでしょうか?
|
重松 |
年齢を重ねれば重ねるほど、
変わることに臆病になる人が、いると思うんです。
特に、永ちゃんのように、
若い時に一回ピークが来てしまった人なら
なおさらそうですよね。
だけど……変わらなきゃいけないと思うし、
変わらずに行こうとするのは、
みっともないと思うんですね。
変わっていく時に、
たとえば永ちゃんなら、
「さえなさ」をどう魅力に変えていくか、
取りこんでいくかがテーマになってくる。
だからこそ、リーゼントをおろしたり
Tシャツを着ていたりする永ちゃんを、
とても魅力的だと感じました。
永ちゃんの本のタイトルにもなってるけど、
「アー・ユー・ハッピー?」
……あなたは、ハッピーですか?
これは、すごくいいメッセージなんですよ。
『成りあがり』のころの
「How to be BIG」とは、
ずいぶん違った言葉なわけじゃないですか。
|
ほぼ日 |
成りあがりのサブタイトルの
「How to be BIG」ですね。
|
重松 |
そう。
若い頃の永ちゃんは、
この「ビッグ」という言葉で
上昇志向や拡大志向をあらわにしていたけれど、
「ハッピー」というものには、
質が問われるじゃない?
「どう? ビッグになってる?」
そう聞かれつづけていたのが、
永ちゃんよりも10歳ぐらい若いぼくたちでした。
そのぼくらが、
こうして30代のおわりになったら、
「それであなたは、ハッピーですか?」
今度は、そう聞かれるようになったわけだ。
「アー・ユー・ハッピー?」という言葉は、
ぼくらにとって、救いでもあります。
だって、ほとんどの人が、
ビッグになっていないんだもの。
「ビッグになってはいないかもしれないけれど、
ハッピーはつかんだかもしれない」
そんな風に思う人も、いるかもしれないです。
ただ、でも……やっぱり実は、
ハッピーがいちばん難しいかもしれない。
いちばん救いになる、って今言ったけど、
実はいちばん残酷な問いかもしれないですね。
「どう? 幸せ?」
真正面から考えると、怖い問いです。
|
ほぼ日 |
去年出版された
『アー・ユー・ハッピー?』
を読んで、どう思いましたか?
|
重松 |
ぼくはまず、『成りあがり』を読んで、
「わしもやったるぞ、ビッグになったる」
と、高校時代の時には思っていました。
そして去年、
『アー・ユー・ハッピー?』
というタイトルを見た瞬間、
当時38歳でしたが、
「自分は、ハッピーかどうか、わからないわ」
読む前から、考えこんじゃったものね。
読んでみたら、離婚の話も含めて
永ちゃんは、自分をさらしている。
ビジネスで勝っても、パートナーに裏切られていた。
いっぱい、いろんな人に、だまされていた。
矢沢ファミリーは、作れていなかったわけです。
永ちゃん、ほんとにキツかっただろうけど、
キツかったいろいろなことを封印しないで、
向きあうことを、選んだなぁとも思いました。
「封印するものなんて、なくていいじゃん」
永ちゃんはそう考えたんでしょう。
ツッパリって、いろんなものを封印しながら
とにかく前に進んでいくことだとも思うけど、
もう、それじゃいかない時期が出てくる。
オトナになると、
守らなければいけないことが出てきて、
けっこう、攻めていけないんです。
ぼくなんかも、けっこう思い通りにいってない。
若い時の「思い通りのいかなさ」は、
人のせいにしたり時代のせいにしたり
社会のせいにしたり……いくらでも処理できる。
でも、おとなになってからの
思い通りにいかないことって、
言い訳が、きかないでしょう?
永ちゃんも、永ちゃんでさえも、
思い通りにいってないじゃん。でも頑張ってる。
……『アー・ユー・ハッピー?』を読んで、
ぼくは、だから、うれしかったですね。
|
ほぼ日 |
矢沢さんが、うまくいっていないのが、
うれしかったのですか?
|
重松 |
いや。
30代後半の自分の読むものが、
もしも、更に成功成功、拡大拡大の
How to be BIGのセカンドバージョンだったら、
それは、すごくさみしかっただろうなぁ、
ということです。
「永ちゃんは永ちゃんだもんな」
読んでも、そう感じるだけだと思う。
でも、ハッピーなら目指せるから。
永ちゃんには永ちゃんのハッピーがあるし、
自分には自分のハッピーがあるから。
「俺も自分のハッピーを探さなきゃな」
と思いながら、
去年の永ちゃんの本を読んでました。
もう、永ちゃんはぼくたちに、教えてくれない。
「矢沢はこうしてハッピーになりました。
あなたは、どうですか?」
そう来るじゃないですか。
よく考えたら、『成りあがり』の時も、
永ちゃんは、自分のようになれとは言っていない。
でも当時は、
「わしも永ちゃんのようになる!」
「永ちゃんみたいにがんばるぜ」
と強く思ったし、それで済んでいた。
でも、今はそうはいかない。
「オレはオレで、自分のハッピーを行く」
この、オレはオレで行くという感じが、たぶん、
「オトナになるということ」だと思うんです。
|
ほぼ日 |
さっきから、重松さん、
『成りあがり』の中の言葉が、自然に、
まるですべて暗記しているぐらいに出ますね。
|
重松 |
そりゃ、ものすごい影響受けたもの。
よく考えてみたら、ぼくにとって
28歳というのはすごく大きな歳だったんです。
なぜかというと、それも
『成りあがり』から来ているんです。
『成りあがり』の最後のほうで、
「オレは、いま28で。体力には自信がある」
そう書いてあった。
あ、永ちゃんは28歳でコレ書いたんだな、
って思って、それがずっと頭の中にありました。
ぼくは、28歳の時に親になり、
28歳の時に、小説家としてデビューしています。
その時も、永ちゃんのことを思わざるをえなかった。
自分にとって、28歳って、大きかった。
だけど28歳で人生はおわりじゃない。
永ちゃんも当時の自分の夢を語っていました。
「オレは、うしろ向かない。
あの言葉、嘘じゃないよ。
50歳になっても、白髪頭で再び
5万人ぐらいのコンサートやる。
家族全部つれてね、倅も大きくなってるだろう。
その時、オレ何やるかな……?
『アイラブユーOK!』
『みんな、この曲憶えてるか』」
いま、永ちゃんは
50歳をとっくに越えて、新曲出してるよ。
アイラブユーOKも、
同じステージの流れで歌えてるよ。
それは、たいしたものだし、ありだよなぁと思う。
|
ほぼ日 |
『成りあがり』の時の
矢沢さんの50歳のイメージは、
もっと、とても高齢な感じですね。
|
重松 |
考えてみれば、ぼくは高校1年だったし、
永ちゃんは28歳で、ジョン・レノンは38歳だった。
ロックをやる人がどう歳を取るかのお手本は、
その時代には、ぜんぜんなかったわけです。
でも、ロックのパイオニアたちは、
そのつど、自分に問うていたと思う。
「いつまでコンサートやるの?」
「いつまでレコーディングやるの?」
「歌のキーは、どうするの?」
もっと言ってしまえば、
永ちゃんだけじゃなくて、誰しもが、
「いつが、自分のピークなんだろう?」
という話題を、見ざるをえないのではないでしょうか。
|
ほぼ日 |
いま出た「いつがピークか?」というお話は、
とてもスリリングなので、詳しく伺いたいです。
|