53 矢沢永吉、50代の走り方。 |
第20回 公務員でいたら、ダメだ。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 自分が何かしなきゃ、と思ってる時に ぶつかった本っていうのは、実に意味があるね。 そういうキッカケって大切だね。 音楽でも、絵でも、そういうタイミングが ぴたっと合ったら、最高だ。 オレ、純情な頃にいろんなものと 出会って、ラッキーだったね。 どんどん吸い取れた。 『成りあがり』(矢沢永吉・角川書店)より ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ (※今回から、格闘技マンガと言えば……のアノ人が登場! 『グラップラー刃牙』(秋田書店)が2000万部以上を誇り、 今は『バキ』(秋田書店)『餓狼伝』(講談社)が大人気の マンガ家・板垣恵介さんの談話を、お届けしていきますよ!) 【板垣恵介さんの談話・その1】 今の矢沢さんが、ツアーを 週4、5本のペースでやってるというのは、 いや、それは……すごいわ。 経験にもとづいて、そうしたほうがいいから やっているんでしょうね。 「忙しいけど、ちょうどいい」 というのは、ありますから。 ぼくが矢沢さんに最初に興味を持ったのは、 キャロル解散以降でして、 長者番付、高額納税者の歌手部門に、 はじめて矢沢さんが登場した時です。 あの当時の長者番付と言えば、 美空ひばりさんであるとか、 村田英雄さんだとか三波春夫さんだとか、 その年にヒットを出したベテランの演歌歌手、 というのが主流だったんですよ。 そこにポンと、まったく異質な 矢沢永吉さんの名前が出てきていて。 「お金持ち」ということに、 ぼくはすごく興味があったので、 ギョッとしたわけですよ。 それまでの 長者番付のトップみたいな人には、 ぼくは、さほど興味がなかったんです。 矢沢さんの名前が載って、 はじめて興味を持つようになった。 それは、なんでか、と言いますと……。 お金儲けをした人の決まり文句というのは、 それまでに、よく見かけていまして。 いっぱい儲けた人というのは、その多くが、 「お金がすべてじゃない」 「お金には、それほど興味がない」 そんな言いかたをしてるんです。 つまり、そういう人たちは、 すでにかなり昔に功なり名を遂げて、 キャリアもずいぶん重ねて、 そこそこ儲けてきたという経験があって、 その延長線上で、高額納税者に名をつらねた。 だから、もう、多額のお金だとか お金儲けということに、そこそこ免疫ができている。 お金儲けそのものには、興味を失ってるという。 お金儲けをしてきた時間が長いから、 もう、お金に慣れているんです。 ですから、そういう人たちの言うことに、 若いころのぼくは、 あまり感動を感じとれなかったわけです。 ところが、矢沢さんと来たら……! 当時ぼくはハタチとかそのぐらいでしたが、 そのぐらいの小僧なら、 「何億ってカネを手に入れたら、 どんなにすばらしいことだろう!」 そんな話を、よくヨタ話で、するじゃないですか。 その感覚を維持したまま、お金を得ているという、 そのことにぼくは、うらやましさを感じました。 まったくお金に免疫のないぼくらと同じ感覚を、 矢沢さんの言葉からは、感じとれたんですよ。 小僧の感覚を残したまま、 身にあまるお金を手に入れた人の生々しい言葉、 という感じがした。 「カネ儲けなきゃ、ダメだよ!」 「キャデラックに乗って、 100メートル先のタバコ屋まで ハイライトを買いにいきたいよ!」 ……あ、そうだ、 こういうようなことを、言いたかったんだ、 と思いました。 おれたちのやりたいことは、こうだったんだ、 自分がお金を儲けるなら、こういう感覚でいたい。 それを強く感じたんですね。 「お金儲け、すっばらしいよ」 「お金儲けるために歌ってる」 それを、堂々と言ってのけたんですよ。 これは、何者だろう?という興味が湧きました。 それで実際に歌っているところを見ましたら、 頭をポマードでグワッと固めて、 鼻の穴をガッ!と広げて、アゴをしゃくって 人を睥睨(へいげい)するような人で。 俄然、興味を持ったんです。 ぼくは当時自衛官でした。 自衛隊の中で、そういうことを知りました。 矢沢さんのコンサート、テレビかビデオで見た。 自衛隊の中にも、電器屋さんとかがあって、 そこで流しているのを、見たんですよ。 陶然と見とれた。 「なんて、カッコいいんだろう」と。 こういうカッコよさって、あったんだ。 今まで見たことない……。 それでカネ儲けてるんだ?こんなことで。 われわれが全財産はたいても やれないようなカッコよさを、 お金をもらいながらやっているわけで、 しかも堂々とお金儲けはすばらしいと言っている。 これは、すごいなぁ、と思った。 ぼくはそのころ、 千葉の習志野っていうところで パラシュート部隊をやってましたから、 そこにいまして……。 休暇中、国分寺に住んでる友人のところに、 遊びにいったことがありました。 で、いろいろ話した帰り、電車に乗る時に 「これ、板垣、読んでみろよ」 って、本を渡されたんです。 それまで、 『成りあがり』というタイトルの本が 出ているということぐらいは、 雑誌なんかで知っていたんですけど、 どう手に入れていいかもわからなかった。 そのぐらい、無知なんですよ。 自衛官で、外界との接触がないから。 でも、本、渡されて、 「あ、これがそうか」 読みはじめたら……そうね、あの、その時、 中央線の快速から、 遅いほうに乗り換えたのを覚えてます。 なぜかというと、もう、 「目的地にはやく着いてほしくない」んですよ。 長く読んでいたい。 総武線で津田沼まで、 ずっと各駅停車で行きましたもの。 津田沼まで着いても読みおえてなかった。 でも、部隊に帰らなきゃいけない時刻まで、 まだ時間があったんで、 ぼくは近くのパン屋さんでパンを買って、 それで水銀灯の下で読んだのを覚えてます。 最寄り駅だから、 自衛隊の友人らも、近くにいましたよ。 「ナニやってんの?」 「おまえ、キャバレーも行かずに 座って本読んで、何してんの?」 せっかくの休暇なのに、って顔して。 でも、ぼくは 「おまえらには、わからんだろ?」 むしろ優越感を持ちながら読んでいた。 すばらしかった。 ハタチか21歳ぐらいだったけど、それ読んで、 「あ、もう、公務員でいちゃ、ダメだ」 「この人に並ばなきゃ、ダメだ」 「この人と対談するようじゃなきゃ、ダメだ」 そういう夢を持った。 「ビッグコミックスピリッツ」紙上で、 ぼくが矢沢さんと対談をする('96年)までは、 それから、15年、かかりました。 (※つづきます。感想はpostman@1101.comまで!) |
2002-08-16-FRI
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