53 矢沢永吉、50代の走り方。 |
第23回 「ほめられること」のすごさ。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 「こういうときも、あいつはがんばったよね」 認める気持ちが 大きくなればなるほど、 当然、認める気持ちは感謝に変わる。 以心伝心とはよくいったもので、 感謝していれば、その電波が相手に伝わる。 売り言葉に買い言葉っていう言い方がある。 あれって、 悪い言葉だけじゃなくて、 いい言葉にも使えるんだと思う。 いいことにも使える。 いいことに使ったら、それは相乗効果だ。 『アー・ユー・ハッピー?』(矢沢永吉・日経BP社)より ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ (※漫画家の板垣恵介さんの談話を、ひきつづきお届けします!) 【板垣恵介さんの談話・その4】 マンガを描いて 5年目にチャンスをつかんだ、というのは、 30歳を過ぎたころですね。 『ゴルゴ13』や『子連れ狼』などの 原作を作ってこられた小池一夫先生に、 「君は、才能ある。 こういうやり方をしていれば、 あと半年がんばったら、デビューできる」 そう言っていただいたんです。 うれしかった。 「……え?! あと、半年でいいの?!」 って驚いてしまいました。 「あとツルハシをひと振りしたら、鉱脈なのかよ?」 と、カーッとなりました。 それまでは、暗中模索で、 黄金までのふかさもワカらず ツルハシをふるっていたようなものでした。 ほめられるということがなかったし、 「もうやめようか、いつやめようか」 そう思うことだって、 正直に言うと、何度もありました。 ほめられたその時に、方程式をつかんだ。 「目覚めた!」というような感じがあったのですが、 そこからはもう、 10倍や20倍じゃ効かないぐらい、それまでとは 圧倒的に違う量の作品が生まれてきたんです。 もう、発想が、どんどん、湧いてくる。 渋谷の街なんか歩いていても、 ほんと、自分のことがものすごく誇らしかった。 つまり、それほど、前の5年間がつらかったのですが。 小池先生にほめられた日は、 運命の変わった日ですから、よく覚えてますよ。 「劇画村塾」で、ぼくは6期生でした。 1期や2期は、今で言ういわゆる巨匠たち、 高橋留美子さんや原哲夫さんたちが出た期です。 「そこから先、3期以降は、不作がつづいた」 小池先生は、そうおっしゃっていました。 「6期になると、ひさびさに いい人材が集まったんだけど、その中でも君が!」 と、みんなの前で言われたんです。 「天にのぼる気持ち」っていう比喩を、 よろこんだ時に、人は表現するんだけど……。 ぼくは、アレ、比喩だと思っていたんだけど、 そう、ほめられた時、ほんとに体重が フッと消えたような感覚を持ったんだ。 体重があって、足に体重がかかって、重たい。 意識してみると、 人間が立っている状態って、 けっこう重いわけですけど、 それがフワッと消えて、 宙に10センチぐらい浮いたような気がしました。 話を聞きながら、 「あぁ、天にものぼる気持ちって、これかぁ。 ほんとに、天にのぼるような気持ちなんだ!」 生まれてはじめての感覚だった。 その日も二日間徹夜した夜だったのですが、 あと一週間はだいじょうぶだ、と思いましたから。 「帰ったら、もう寝よう」 「オレ、40時間以上起きてるわ。 今日は帰ったら、もうたっぷり寝よう」 そんな風に思っていた日だったのですが、 もう……これ、寝られないよ?って感じでした。 あの声をかけられた瞬間に、夢の世界へ入り、 それから現在まで、ずっと夢がつづいている。 そんな感覚を、今も持っています。 何やってもダメだったころの自分の姿は、 記憶というよりも、感覚として残っていますから。 リアリティを持って感じられる 「あんなにダメだった自分」が、 今、こうなってるっていうのは、 まだ、夢の中だっていうか。 マンガは、つくづくサービス業だと思います。 まぁ、言ってみりゃ仕事はすべてサービス業。 矢沢永吉さんやその他さまざまな職業、 たとえば公務員なんていうのも含めて、そうだと思う。 やっぱり、「人でよろこんでもらう」ものですよね。 ……なんていうことを思えるようになったのも、 その時に、小池先生にほめられたからだと思う。 25歳からの5年の下積みの間は、 そういう気持ち、一切なかった。 30歳になって、人に祝福された、賞賛された。 その時、はじめて他人の幸せを願えたんです。 それまでは、正直に言って、 「世の中のヤツ、全員、土下座させてやる!」 やっぱり、そう思っていました。 ほめられる日まで考えていたことって、 ぜんぶ、ドロドロしたこと……。 「オレを馬鹿にしたヤツら、覚えとけ!」 「板垣にはかなわない、って思わせてやる!」 「もう、みんなに意地悪してやろう。 いつか、アイツの横っ面を札束でひっぱたいてやる!」 そのぐらいのことは、常に思っていました。 あいつをブッ殺したい、 あいつを屈服させたい、人が嫌いだ…… 5年間、賞賛も祝福もない中で、ひねくれて。 それが、ぼくの間違えていたところでしたよ。 友達にほめられるのとはわけが違う。 ほんとうのプロの人に おまえ、すごい!とほめられた瞬間、 「うわぁ〜! こんなにうれしいこと、あるんだ? こんなにうれしいんなら、人に教えたいよ!」 誰かに同じよろこびを、味わってもらいたい。 みんなでこの気持ちを、共有したい。 なんか、もう、ほんとうの意味でよろこばせたい。 それまでの自分と比較したら、 もう、マンガに対して、けっこう 気高いとも言えるような志を、持つようになった。 ぼくはけっこう、計算高く 生きて来たと思えるんだけれど、どうやら、 自分の前の他人をよろこばせるという 一見ソンなこの方法が、 実はいちばん儲かるみたいなんです。 やっぱり、コレ、例えば10代の人が読んでいたら、 「人をよろこばせる」って、キレイごとに見えたり、 「おまえ、どこの宗教家だ!」 とか言われるようなハナシでしょう? でも、これは、打算の末に辿り着いた 今のところ最良の答えなんですよ。 ぼくも以前は、自分がいちばんトクしたいと思ってた。 自分のことをいちばん贔屓してやりたかった。 でも、そうするための最短距離って、たぶん、 「人をよろこばせる」っていうことなんです。 「関わった人、みんなを幸せにしてやる!」 っていうぐらいのことを 本気で思っていたほうが、力を出せる。 まぁ、ぼくのスタッフは苦しんでますけど(笑)。 (※つづきます。感想はpostman@1101.comまで!) |
2002-08-23-FRI
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