53
矢沢永吉、50代の走り方。

[プロローグ]








「みなさん、ほんとにどうもありがとう。
 なんかもう……なんなのコレ? 最高だよ!
 考えてみましたら、
 最高最高最高と言ってきて、何十年。
 来年で音楽生活、30年ぐらいになるんですけど。
 もうほんとに、ヤザワしあわせです。
 この29年、いろんなことがありましたけれど。
 ……オレ、なんでもやるよ! 言って!
 なんでもやるから言って!
 気づいたらもう、52になりまして。
 昨日もおとといも言ったんですけど、もう一度言わせて。
 ……ズーッと歌いますからヨロシク!」






これは、2001年末、日本武道館での
ツアー最終日に、矢沢永吉さんが叫んだ言葉です。

いつ潰されてもおかしくない世界での生活が
29年を迎えたという時に、
とりわけ大きな声のメッセージになったのが、
「……オレ、なんでもやるよ! 言って!
 なんでもやるから言って!」
という、自分の身を投げ出すような言葉でした。

エネルギーの最後の一滴までふりしぼって、
その場に届けようとする姿勢というか、
「そこまで懸命にやらなくてもいいんじゃないか」
と、思わず言いたくなるくらい
しぼり尽くすのが、矢沢さんのライブです。

観客がそこに来てくれたことへの、
絶大なる感謝の気持ちを、
不器用なまでに丸出しにする……。
そういうやり方じゃなくても、
もっと長距離を走るための上手な方法は
あるのだろうけれど、それができない……。

「ほどほど」では、
観客が満足しないのではないかという動機なのか、
ともかく「しぼり尽くし続けたまま」で
30年間、走り続けてきている人。

「ほぼ日刊イトイ新聞」は、
このとんでもないパワーの迎える「53歳」を、
秋までの連載で、追っかけてみたいと思いました。
20代、30代で、うなだれちゃってる人に、
まだまだ先のほうが長いぜ、ってことを伝えるような
ニンニク注射のような企画になると、うれしいのです。

以前、この連載の予告をしたところ、
いくつもの、期待のメールをいただきました。
今回は、イントロダクションとして、
そんなみなさんのメールを、紹介させてもらいます。







・私は28歳の独身女性なのですが、
 矢沢さんの世代の方たちが頑張っている姿を見ると
 本当に励まされるんです。
 「頑張っている姿」という表現は、
 ちょいと合わないかな?
 若い人の「がむしゃら」ともまったく違う、
 人目にとらわれない前向きなエネルギーというか。
 「好きでやってんだ、文句あっか!」
 という勢いもありつつ、
 「まだまだ、日々精進」という謙虚さもあり。
 なんだか、自分の父と同世代の人たちが
 おごらず且つゴーカイに、
 やりたい仕事に取り組んでいる姿を見て、
 すごく勇気づけられるのです。
 わたしも、そうなりたい。
 エーちゃんの連載には、
 そういう素敵さがあるのではないかな、と
 とても期待しています。
 (「そろん」さん)



・新連載になるという
 『53』、すごく楽しみにしてます。
 20代の頃から「10才年上の先輩」を
 すごく尊敬してました。
 それは社会人になったばかりの時の係長であったり
 前の会社の社長であったりしましたけど
 そのなかでも「エーちゃん」は
 20何年にわたってなにかと
 ココロの支えになってきた
 「いちばんの10才年上の先輩」なんです。
 期待して待っています。
 (「TAN」さん)






なお、53歳は、
「ほぼ日」の糸井重里の年齢でもあります。
探し続ける20代、あがきつづける30代、
覚悟を決める40代を通って迎えた50代は、
矢沢さんや糸井重里にとって、
どうも、かなり快適なものらしいんです。

本気かウソかしかない。
気持ちがストレートに出る。
バランスの取れた状態だから、
まわりの出来事を率直に見ることができる。

それが、50代というものなんですか?

いつかは50代を迎える人たち
すべてに贈りたい連載が、この「53」です。
次回から、本格的にスタートします!


(つづきます)

2002-07-01-MON


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