京都
「知りあいの宿」を
つくろう。



糸井重里が訪れる京都の家から
「気まぐれカメら」あてに送る写真を見ては、
ゆたかな緑色にため息が出ています。
そう、京都は、緑が美しくお寺や神社をふちどる季節。
「ほぼ日」の京都の知りあいの宿、サカベさんによると、
暑くなる前の京都は、緑がきれいで
散歩をするのにいちばんいい時季なんだそうですよ。


サカベ
京都のお散歩コースといえば
東山の三年坂や哲学の道が知られていますが、
今日は、とっておきをご紹介したいんです。
それは、七福神めぐり。
京都は七福神発祥の地と言われ、
室町時代から江戸時代にかけて広まり、
人びとに親しまれた、といいます。
── 七福神とは、おもに
恵比寿(えびす)、大黒天(だいこくてん)、
毘沙門天(びしゃもんてん)、
弁財天(べんざいてん)、
福禄寿(ふくろくじゅ)、
寿老人(じゅろうじん)、
布袋(ほてい)の
7人から成る、宝船に乗った
みなさんのことですね。

サカベ
そうです。
京都でも、七福神めぐりは
松ヶ崎や東寺、六波羅蜜寺、赤山禅院など
いくつかあるんですが、
この季節に歩くのにちょうどいい
半日または1日でめぐる
ご利益コースをご紹介しましょう。
── 「ご利益」‥‥。
仕事や学業に疲れぎみで、
ボンヤリしがちな6月には
いい響きですね。

サカベ
今回めぐるのは
「泉涌寺(せんにゅうじ)七福神参拝」
と呼ばれるコースです。
遠くからもたくさんの方がおみえになる、
ほんっと、気持ちいいコースなんですよ。
泉涌寺は、この七福神の総本山。
山内には、お寺が密集していて、
ひとつひとつのお寺に、
鎌倉時代、藤原時代につくられたような
宝もんがたくさんたくさんあるんです。
「これもすごい」「ここにもこんなものが」
と、 豊かな京都の土地柄を
感じていただくことができると思います。
ちょっと告白しますとね、
私は七福神のなかでも、
福禄寿さんが好きなんですよ。
── あの、おでこの長い人ですか?

サカベ
まず第1番は、その
福禄寿のいる即成院(そくせいいん)。

千年の歴史あるお寺で、
境内には那須与一(なすのよいち)の
お墓があるところなんです。
── 那須与一は、平家との合戦の際、
源義経に命じられ
平家の小舟に掲げられた扇を
みごと射抜いた弓の名手です。

サカベ
那須与一のお墓には
たいそう、人がいらしています。
何かに戦いを挑む前にお参りすると
いいんとちゃいますでしょうか。
── それは、仕事とか結婚とか
そんなことでもいいでしょうか。

サカベ
そうですよ。
ボンヤリしていられませんよ。
「願いが的へ」と題された
ガチャポンが、
与一の手荒い場の横にあります。


左の白い四角いものが、ガチャポンマシーン。


中には、扇のかたちをした
紙石けんがはいっています。
100円です。射抜きましょう、願いを。
── 、肝心の、サカベさんのお好きな
福禄寿は、どこに?

サカベ
ここに。


サカベさんのあこがれの福禄寿。

足下に鶴がいますでしょ?
めずらしいんですよ。
── 鶴は、長寿をあらわしているんでしょうか。

サカベ
鶴の存在理由をお寺の人に訊いてみたんですが、
「‥‥知らん」
と、首をかしげていらっしゃいました。
ここには重要文化財の本尊
阿弥陀如来・二十五菩薩もあって、
これがまた、たいそう人気です。
さて、第2番目は、
弁財天のいる戒光寺(かいこうじ)。

鎌倉時代創立のお寺です。
でも、この弁財天は、成人の日と文化の日にだけ
公開されるんです。


この、キラキラしたなかに
弁財天はいらっしゃいます。


弁財天が見られないときは、
ここの本尊釈迦如来を
ぜひぜひ、ごらんになってください。
運慶と湛慶の親子合作で重要文化財です。
総丈3丈3尺で「ビッグちゃん」な仏像ですが、
世に身代わり丈六さんと呼ばれて親しまれていて、
首から上、胃、腸、の病などのご祈祷もあります。
この方も、とても人気です。
── 運慶ですか。
京都はやはり、すごいものがゴロゴロありますね。

サカベ

第3番目は、恵比寿がいる観音寺(かんのんじ)。
「今熊野観音さん」と呼ばれ
地元では親しまれている西国33ヶ所のお寺です。


「今熊野の橋」を渡ってお寺へ。


恵比寿神です。京都では
「えべっさん」と呼ばれています。


ここ観音寺には、
七福神おみくじがあります(100円)。
おみくじの紙を広げると、
七福神の小さなお人形が、
いずれかひとつの神様が入っているんです。
わたし、こないだ引きましてね。
ふふふふ、中にいたのは、
人気の福禄寿でした。

── 人気の‥‥って、サカベさんだけでは?
そうなんですか?
いちばん人気なんですか?

サカベ
福禄寿つきの、そのおみくじには、
人望と福徳が授かる、と
書いてありました、ふふふふ。
第4番目は、布袋尊の来迎院(らいごういん)、



第5番目は大黒天の雲龍院(うんりゅういん)
です。



ここの大黒天は、
「走り大黒天」として愛されています。


笑顔の「走り大黒天」。
── 呼び名のとおり、
いまにも駆け出しそうですね。
それに、ちょっと入っていらっしゃる箱が、
せまくありませんか。

サカベ
あたま、天井に
ついていらっしゃいますね。
── だからこそ、こう、なんだか、
飛び出してますね。

サカベ
すこしでも早くみなさんに福を届けたい!
というふうに見えるでしょう。
この大黒天は、雲龍院の台所に
祭られています。
ええ体をしてはるし、顔も立派。
── 大黒様、私に福をちょうだい!
と言うと、ほんとうに
走ってきてくれそうな気がしますね。

サカベ
雲龍院はね、この七福神めぐりのなかでも、
ここを見るだけでもいいよ、というくらい
いいお寺です。
藤原時代の薬師三尊は重要文化財ですし、
月光、日光菩薩は鎌倉時代の作です。


庭もきれい。気持ちいいですよ。

次の第6番目は、
毘沙門天の悲田院(ひでんいん)。

じつはここの毘沙門天も、
1月の成人の日にしかお会いできません。


毘沙門天は、この中

でもね、ここから見る京都の景色は抜群なので、
ぜひ立ち寄ってください。


悲田院のベンチから京都市内が見渡せます。

そして、最後の
第7番は寿老人の法音院(ほうおんいん)。
寿老人とは、こんな方です。


寿老人です。
── ちょっと気になっていることを
言っていいですか。

サカベ
どうぞ。
── 七福神というのは、わりと、みなさん
小さくていらっしゃいますね。

サカベ
そうですね。仏像に比べると。
── しかも、みんな同じような箱に入っている。

サカベ
そうですね、なんでやろ。
この寿老人は、白い杖をついて
鹿をつれておられるのですが、
お寺の人に鹿の存在理由を訊いてみると
これも「‥‥わからん」と。
でね、このお寺で注目していただきたいのが
おまもりなんです。
黄色いふくろにふくろうが入っています。


法音院のおまもり。
── ふくろにふくろう‥‥。

サカベ
お寺のそこここに、キャッチコピーのように
「くろうしらずのふくろう」
って、はり紙があるんですよ。
── これもまた語呂合わせっぽいですね。
そもそもふくろう、何か法音院に関係が
あるんでしょうかね。
あ‥‥もしかして、
ホー、ホーォ、ホーォオンイ‥‥

サカベ
まさか。
ところで、ほんとうは、泉涌寺七福神は、
成人の日にめぐるのが習わしなんですが、
季節のいいときのほうが
歩くのにいいわ、と思います。
ゆえにサカベは、この季節がおすすめです!
では最後に、
番外の総本山、泉涌寺(せんにゅうじ)
ご紹介します。
── 総本山なのに、番外。
七福神はいらっしゃらないんですね。

サカベ
美人さんの楊貴妃観音がいます。
ヒゲが生えてる美しいお顔。

── ほんとですね。

サカベ
おまもりも売ってます。
ブロマイドみたいやね。

── なぜヒゲ、という疑問は、
あまり京都では巻き起こらないんですか?

サカベ
そこすら乗り越えた美、
ということなんでしょう。
この観音様、美人さんになりたいみなさんに
たいへん人気なんですよ。
七幅のご利益を願ったあと、
最後は美を得てしめくくりましょう。

京都は3方を山で囲まれた盆地ですが、
それぞれの裾野に一歩足を踏み入れると
ほんとうに豊かな歴史があふれ出します。
半日ほどの時間があれば、
そんな、お寺の密集地帯を訪れてみてくださいね。
初夏の緑濃い京都が、そこに待っていますよ。

2006-06-01-THU

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