ポケットに『MOTHER』。 〜『MOTHER1+2』プレイ日記〜 |
聖なる山、という意味の場所があって、 とうとうその名前がゲームに登場した。 きゅっと心が引き締まるのがわかる。 もう10年以上も前のことなのに、 その名前はいまだに僕に畏怖の感情を抱かせる。 おそらく、旅は終盤である。 ひどくキツい場所だったという記憶があるが、 どちらかというとそれは身体の記憶である。 まるで実際にその場所を苦労しながら歩いたみたいに、 僕はその山にちょっとした脅威を感じている。 なにがどうたいへんだったのか、 ずいぶん前のことだから覚えていない。 とにかく、クライマックスへと向かう山だった。 山へは、不良たちの闊歩する街から行くことができる。 僕は、すぐにはそこへ行かなかった。 何かここでほかにできることがないかとうろうろした。 重たい仕事を少し先送りにしているみたいに。 マジカントで新しい友だちのために装備を調えたり、 家まで帰って妹に持ち物を預けたりした。 とうとうそこへ向かうしかなくなったので、 僕はその山へ向けて歩き出した。 古い記憶がたしかなら、 ここからゲームは終わりへ向かって傾いていくのだ。 山の入口は思ったよりずいぶん簡素だった。 どうやら僕の記憶の中で、 この山は著しく増幅されていたようだ。 踏み入れるといきなりエンカウント(敵と遭遇)する。 いつもと色が違うスターマンがふたり。 しかし、僕と僕の友だちも、ずいぶん強くなっている。 わずかに体力を削られながらも、勝つ。 ところが、一歩進むと、またしてもエンカウント。 濃い。敵がうようよいる。 超能力を使うためのサイパワーを 節約したほうがいいかもしれない。 そして僕は新しいモンスターに出会った。 脳みそに足が生えているようなモンスター。 見覚えが、ある。 10年以上昔の記憶がよみがえる。 やはりそれは身体が覚えていたというほかない。 その姿を認めたとたん、 僕の身体に刻まれた記憶が、僕へ向けてアドバイスした。 自分でも驚くほど、僕は自分がやるべきことを悟った。 「サイマグネットで吸い取れ!」 そうだった。ここはタフな場所だから、 ふつうに戦っているとサイパワーが尽きてしまうのだ。 サイマグネットは女の子が覚える超能力のひとつで、 敵のモンスターからサイパワーを吸い取ることができる。 脳みそのモンスターは単独で登場することが多く、 超能力による攻撃しか仕掛けてこないから、 サイブロックで超能力を封印してしまえば、 ゆっくりサイマグネットで サイパワーを吸い取ることができる。 そうやって、少しずつ進んでいったのだ。 10数年前の僕は。この道を。 山の内部に続く洞窟はひどく入り組んでいる。 行く道がふたてに分かれ、 当座選んだ道の先にまたしても岐路がある。 そこが3つに分かれていたりするから、 これはもう、一度に把握するのは不可能である。 たぶん、メモを取りながら進んだほうがいい。 けれど、僕は僕個人の意地として、メモを嫌う。 頭の中に地図をつくって、端から道を潰していく。 この分かれ道は、右へ行くと、ふたてに分かれる。 その右は、たしか、最初の分かれ道の左の先の道と つながっていたんじゃなかったかな? 洞窟のなかにはいくつか貴重なアイテムがある。 取り逃しちゃだめだな、と僕は思う。 聖なる山の内部にエンカウントがくり返され、 ときどき僕と僕の友だちのレベルが上がる。 青いスターマンの攻撃を大切なバッヂが跳ね返す。 脳みそのモンスターからサイパワーを補給。 右は行ったから、左を試さなきゃ。 暗闇のなか、僕らは進む。 不意に視界が開け、僕と僕の友だちは、 茶色い草のたなびく野原にたたずんでいた。 ──出たんだ。 思ったよりも早く抜けることができた。 やはり、記憶が増幅されていたのかもしれない。 来た道を把握しきれていない不安はあるが、 僕は先へ進む。出られた喜びのほうが大きい。 と、そこでエンカウント。 眼前に2匹のサソリ。 ひとりの友だちのHPが尽き、 ふたりが石にさせられた。 あっという間の、全滅。 意識を取り戻すとそこは不良たちの住む街である。 やっぱり、そう簡単にはいかない。 僕の身体に刻まれた記憶は、やはり正しかった。 どうやら時間をとって じっくりやらなければならないようである。 最初の挑戦は見事に退けられ、 僕は聖なる山を前に決意を新たにする。 そうこなくっちゃ。 多少の負け惜しみも含みつつ、 全滅させられてニヤニヤしている僕である。 |
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2003-07-13-SUN
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