ポケットに『MOTHER』。
〜『MOTHER1+2』プレイ日記〜

8月4日 エスカルゴ運送


今日はここまで、ということで電源を切るとき、
概ねゲームは電話のある場所で中断されることになる。
もちろん、現実の世界の電話ではなくて、
ゲームのなかでセーブ機能を果たす電話のことだ。

ゲームのなかの電話は、さまざまな機能を担っている。
プレイヤーはその用途によって、電話をかける相手を選ぶ。
ゲームをセーブしたければ、パパに電話し、
ホームシックを治したければ、ママに電話し、
荷物の受け渡しをしたければ、エスカルゴ運送へ電話。
回復アイテムが欲しければ、マッハピザへ電話。
今日はここまで、ということで電源を切るとき、
たいてい僕は雑多な用事を一度にこなすように
ほうぼうへ電話をかけることになる。

それで、ひとつ困っていることがある。
なにかというと、エスカルゴ運送である。

エスカルゴ運送はプレイヤーにとって
いわば倉庫として機能する。
持ちきれない荷物があればそこへ預けることができるし、
預けた荷物が必要になればそれを受け取ることができる。
受け渡しをするにはまず電話をかける。
すると、しばらくして
エスカルゴ運送の配達人がやってくるので、
その人に荷物を預けたり
その人から荷物を受け取ったりすればいいのである。

なんだ便利なシステムじゃないか、と思うかもしれない。
基本的には僕もその意見に賛同する。
けど、ちょっと困ってることもあるのだ。

エスカルゴ運送のやっかいな点はふたつある。

ひとつは、やってくるときに
けたたましい音を鳴らすということである。
なんだか、サイレンのような、
エマージェンシーコールのような
やたら警報めいた音をかき立てながら
配達人はすっ飛んでくる。
穿った見かたになるが、おそらく場所によっては、
主人公以外の人がすんなりと
たどり着いてはおかしいような状況もあるため、
あえてそんなふうにして、
「呼ぶとどこにでも現れる特殊な人」という
非日常的な感じを演出しているのだと思う。

もうひとつやっかいなことは、
電話をかけたのちに、
しばらくしてからやってくるということである。
だいたいの感覚でいうと、電話をかけたあとで外に出て、
十秒ほど歩くとやってくる。

配達人の持つこれらふたつの特徴は、
それぞれを単体でとらえるならたいしてやっかいではない。
逆にいうと、それらが複合すると
困ったことになるのである。
どういうことかというとつぎのような場面である。

今日はここまで、ということで僕は電源を切ろうとする。
述べたように、そういうときは
電話のある場所まで移動してセーブするのがふつうである。
ついでに、ホームシックになるといやだから
ママに電話をかけておく。
ついでに、持ち物がけっこう増えてきてるから、
エスカルゴ運送に電話をかけておく。
最後にパパに電話をかけてセーブして電源を切る。

現実世界の僕は、
電源を切ったゲームボーイアドバンスSPを
バッグにしまって家路につく。

家に着いて、メシ食ったり、風呂入ったりして、
ぐーぐーと寝る。朝になると起きる。
シャワー浴びたり、着替えたりして、駅へ向かう。
駅に着くとちょうど電車が来ていたりして、
慌てて僕はそれに飛び乗る。
ドアの横のスペースに立ってバッグから
ゲームボーイアドバンスSPを取り出す。

電源を入れる。

当然、前日セーブした電話のところからゲームは始まる。
これからどこへ行けばいいんだっけな、と思いながら
表に出てしばらく歩く。

するとそこへ突然エスカルゴ運送がやってくるのである。
けたたましい警報めいた音楽を、
スッチャッチャー、スッチャッチャー、と鳴らしながら、
配達人が息せき切って突っ走ってくるのである。

のんびりとゲームを始めた僕はそれを聞いて
「びくっ」としてしまう。「なにごとだ!」と毎回思う。
そんでもって、その人は、ぜいぜい言いながら、
「何を預けますか?」と訊いてくる。
文面としてはあくまで穏やかだが、
一瞬パニックになっている僕にとっては、
突っ走ってきた彼の様子も相まって、
「何を預けるんだよ、遠くからわざわざ来たんだよ、
 3つまで預けられるぞ、さっさと預けろよ」
というふうに聞こえてしまう。

慌てて僕は預ける品物を選ぶが、
前日電話をかけたときにはそこまでちゃんと
決めていないというのがほんとうのところである。

とりあえず、これと、これか? あと、どうしよう?
でも、配達の人、待ってるし、じゃあ、これ!
すんません、これでお願いします!
というふうに世にも適当に決めてしまう。

するとその人は「確認します」とか言って
いちいち品物を読み上げるんだけど、
なんだか怒っているようにも見える。
「遠くからわざわざ走って来てみりゃ、
 こんなものを持って帰んなきゃいけねえのか!
 なんでクロワッサンを預けるんだよ!
 そんなものはさっさと食っちまえよ!」
とでも言っているように思える。

むろんそれは僕の妄想であって、
配達人は3つの品物がいかようなものであろうとも
受け取ると礼を言って
来たときと同じように全速力で立ち去っていく。
スッチャッチャー、スッチャッチャー。

そういうことがあるたびに僕は
安易にエスカルゴ運送を呼ぶまいと決意するのだけれど、
3日ほど経つとすっかり忘れてしまって
電車のなかで、「びくっ」とすることになる。

ちなみに最悪なのは、呼びつけながら
所持金が足りなくて手ぶらで帰してしまうことである。
あれだけはほんと、やめようと思う。

わけもなく、事務所にやってきた
佐川急便のお兄さんに深々とお辞儀する僕である。

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2003-08-05-TUE


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