ポケットに『MOTHER』。 〜『MOTHER1+2』プレイ日記〜 |
映画やドラマにエキストラの人がいるように、 ロールプレイングゲームにも 「そこにいるだけの人」がたくさん登場する。 街のなかをうろうろと歩いたり、 デパートの売場の前に何気なく立っているような人は、 要するに「にぎやかな街」を 演出するために配置されているのであり、 名前などないことはもちろん、 しゃべる言葉にもあまり意味がない。 ふつうのロールプレイングゲームにおいては。 ところが『MOTHER』や『MOTHER2』では そういった人々がいちいちおかしなことを言う。 一般的なロールプレイングゲームでは 「こんにちは。○○の街へようこそ」 くらいのことを言うのがせいぜいなのに、 なんだかしらないけど引っかかりのあることを言う。 それはシリーズのファンなら周知のことであるから、 僕はこれまで「おもしろい住民」のことを いちいち記さないようにしていた。 ことに『MOTHER2』では いたるところに個性的な人が登場するから、 それについて書き出すときりがないのである。 けれど、どうにも気になってしまう人がいるので書く。 もちろんそれは個人的な印象であり、 ほかの人にとってはぜんぜん気にならないことだと思う。 フォーサイドのホテルに こざっぱりとした金髪の男がいる。 最初に言っておくけれども、 この男が物語を進めるうえで 重要なカギを握っているということはまるでない。 おそらく、金髪の男は100パーセント、 ただのエキストラだと思って差し支えない。 つまり、その男の役割は、物語の進行に関わらない、 たったひとつのセリフをくり返すことにある。 金髪の男に話しかけると、男はつぎのように言う。 「き きみ……ぼくをさがしてる うつくしいじょせいがいたら よろしくいってくれたまえね。 ……そんなひとは いないとおもうけどさ。」 個人的な話で恐縮だけれども、 僕はこの男が気になってしかたがないのだ。 だって、言ってることが変じゃないか。 あまりにも意味がなさすぎるじゃないか。 僕を探してる美しい女性がいたら? そんな人はいないのに? よろしく言ってくれたまえ? そんな人はいないのに? たとえば新宿駅のホームで、 僕がひとりのサラリーマンに話しかけるとしよう。 「あの、ちょっとすいません」 「はい、なんですか?」 「僕を探してる美しい女性がいたら、 よろしく言っておいてくれませんか?」 「……は?」 「でも、そんな人はいないと思うんです」 「……は?」 たとえば三軒茶屋の交差点で 交番に駆け込んで僕が警官にこう言うとしよう。 「すいませーん、いいですか?」 「どうなさいました?」 「ええと、僕を探している美しい女性がいたら よろしく言っておいてほしいんですけど」 「あ?」 「いや、そんな人はいないと思うんですけどね」 「……きみ、名前は?」 たとえば新橋にある大手企業の受付で 入口に座るおねえさんに向かってこう言うとしよう。 「こんにちは」 「いらっしゃいませ」 「ええと、今日は約束があって 訪れているわけではないのですけれど」 「はあ」 「あの、僕を探している美しい女性がいたら よろしく言っておいてほしいんですよ」 「……どなたかにお約束ですか?」 「いえ、そうじゃなくて、 僕を探している美しい女性がいたら、 よろしく言っておいてほしいんです」 「……お名前をうかがってもよろしいですか?」 「あ、永田と申します。 僕を探している美しい女性がいたら よろしく言っておいてほしいんです。 もちろん、そういう人はいないと思うんですけど」 「すいませーん! 警備員を呼んでください!」 フォーサイドのホテルいる金髪の男に話しかけるたび、 僕の頭のなかには以上のような妄想が広がるわけである。 いったい何を言いたいかというと、 「意味のないこと」にすら、 きちんとクオリティーがあるのだということだ。 一級の「意味のないこと」もあるし、 三級の「意味のないこと」もある。 それはそれは見事な「意味のないこと」がある一方で、 あまりにもつまらない「意味のないこと」もある。 「き きみ……ぼくをさがしてる うつくしいじょせいがいたら よろしくいってくれたまえね。 ……そんなひとは いないとおもうけどさ。」 フォーサイドのホテルにいる金髪の男は、 「意味のないもの」として最高に優れていると僕は思う。 それについて長々と書いたこの文章が、 彼の数分の一くらいでもいいから、 「意味のないもの」として上質であることを願う。 蛇が自分の尾を食うような不可思議を伴いつつ わけのわからん無意味な文章を終わる。 |
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2003-08-11-MON
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