鈴木 |
『MOTHER』の1作目はサントラアルバムを
ロンドンで録音したじゃない?
そんなこと生まれて初めてのことでさ。
夢のような話だったんだよ。
プロデューサーとしてロンドン行って、
ミュージシャン使って録るわけじゃん? |
糸井 |
『エイト・メロディーズ』のアレンジを
マイケル・ナイマン
(※現代音楽家。ピーター・グリナウェイ作品など
多くの映画音楽も手がける)
がやってくれたんだよね。 |
鈴木 |
そうそう、マイケル・ナイマン。
じつにぴったりの依頼だったと思うけど。 |
── |
どういうつながりでマイケル・ナイマンが
『エイト・メロディーズ』のアレンジを?。 |
鈴木 |
とりあえずさ、連絡取ってみようよ、って。 |
── |
うわあ(笑)。 |
糸井 |
ヒドイ話だよね(笑)。
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田中 |
あと、あのアルバム、
人選がとんでもなくシブイんですよね。 |
鈴木 |
シブい、シブい。
も、命懸けて人選してる感じ(笑)。 |
── |
それはどうやって選んだかというと……。 |
鈴木 |
東京でレコーディングしたとき、
エンジニアの森さんっていう人が
私とぴったりの
ブリティッシュ・ロック・マニアで、
そんでふたりでミュージシャンリストつくって、
東京・ロンドン間で、
向こうのコーディネーターにオファーする。
で、ロンドンに着いたら、
もう、スケジュールの合わない人は
スタジオに置いてある
極秘のリストの連絡先のところ見てさ。
それをメモして、直電(笑)。 |
── |
(笑) |
糸井 |
いやー、信じられないくらい、
野放図にやってたからね。 |
鈴木 |
そうそうそう。いまだから言うけど、
やっぱり、お金もかかっちゃったしねえ。 |
糸井 |
「いいよ、いいよ」でやって、
信じられないものになったんだよ。
で、売れても(儲けを出すのが)無理ですね、
みたいなことになっちゃった。
でも当時は、「いいよ」が言えたんだよねえ。 |
── |
はぁ〜。すごいものができるわけですね。 |
鈴木 |
話が具体的になっていくにつれて、
「こりゃすごいことになってきたぞ!」
って感じだったね。
なにしろ、ピーター・ゲイブリエル・スタジオ
(リアル・ワールド・スタジオ)
とかに行くわけだよ。日本人初だよ?
しかもつくってる途中だったから、
工事中の場所もある。
ジョージ・マーティンの
エアー・スタジオも使ったな。
明日はジェフ・リンと
ジョージ・ハリスンが来るらしい、なんてね。
スタジオ・マネージャーが
飾ってあるポートレート拭いてるの。
「ここ来ちゃったよ!」って感じでさ。 |
── |
形だけのロンドン・レコーディングっていう
わけじゃなかったんですね。 |
鈴木 |
だって、ロンドン行って、
まずボーカリストのオーディションするんだもん。
10代の女の子と、
ロック・ヴォーカリストって感じの男性と、あと、
ボーイソプラノ使おうと思ってたから男の子。
1回目に行ったときは毎日オーディションしてた。
1ヵ月に2回ぐらい行ってたかな?
オーディションが終わったら、
テレビのインタヴューシーン撮ったり、
メイキング用のビデオクルー頼んだり、
取材用にその女の子と対談したりして。
そういうふうにして、どっぷり作ったから、
なんかこう、終わったあとの充足感はすごかったね。
「仕事したー。ロンドンで、ありとあらゆる」って。
レコーディングが終わったとき、
チェリストの溝口肇さんが
たまたまロンドンに来てて、
スタジオででき上がったのをぜんぶ聴いたの。
正確にはバースってとこだけど。
溝口さん、「感動しました」って言ってくれたのを、
おぼえてるなあ。うん。すごくうれしかった。
異国で、英国人のなかで日本人いなかったし。
「サウンズ・グッド」じゃなくて、
「感動しました」って、日本語で。 |
糸井 |
あのアルバム、慶一くんは、
自分をフルにぜんぶ出したような感じしますよね。 |
鈴木 |
うん、ぜんぶ出した。
だからこのあと、困っちゃうんだけどね(笑)。
ま、もともとつくった音楽が
ストレートにつくっていったもので、
ロンドンで録るからといって、
小細工できるようなものじゃなかったからね。
素直にポンって提示するほうが、
ちゃんと歌ってくれたり、
ちゃんと演奏してくれたりで、
いろいろ上手くいくかなと、思ったし。
東京で録ってるときも、
東京中のシンセサイザーのプログラマーが集まって
──そりゃちょっとオーバーだけど(笑)、
でも、いい音色を供給してくれたし。
スタジオも、エアー・スタジオとかで
いい経験をしたよね、ほんと。
ミュージシャンはつぎからつぎへ来るから、
決断はすぐしなきゃいけないし、
スタジオにいる人はスタッフもティーボーイも
全員音楽に詳しいし。
みんな、「音楽が好きだ!」って感じでね。
音楽をやっていることが、スペシャルじゃなくて、
あるひとつの職業なんだっていうのを
身にしみて学んだね。いい環境だった。 |
糸井 |
けっきょくそれって、ぜんぶ、
お客さんに還元したサービスになったわけだよね。 |
鈴木 |
うん、そうだね。そうだったといい。 |
糸井 |
そんだけの原料費かけたものが
ふつうの音楽と同じ値段で行き渡ったわけだから
サービスとしては一級品だよね。 |
鈴木 |
うん。まさに大サービスとしてね。
プロデューサー能力としては、金をかけすぎた。
商品の値段は決まってるわけだから、三流だ。 |
一同 |
(爆笑)
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