糸井 |
よく「子どもがものを欲しがる」と言いますが、
やっぱり子ども側にだって、
多少の遠慮があるとぼくは思います。
親に対する気づかいというか。
人間が「むやみに欲しがる」ということは、
基本的には、あんまりないんじゃないだろうか?
とぼくは思っていまして……。
だから、そんな中でも欲しがっているぶんだったら、
それはほんとうに欲しいのだろうと思って、
基本的には、買ってあげていました。
でも、考えてみると、
自分でもそんなにお金に困った覚えが、
実はないんですよね。
お金が欲しい欲しくないというのは、
気持の持ちかたなのかなあとも感じます。
だって、ぼく二十三歳とか二十四歳の頃に、
俺はもう金持ちだ、と思っていましたから。
その頃、すでにもう「足りている」という意識が、
いつもあったんです。
思えば、その頃からあまり
「お金に困っている」というイメージがないまま
「もう、お金に関しては考えなくていいや」
っていう風に思えて
ここまで来てしまったことが、あるんですね。
それは、いいことだか
悪いことだかわからないんだけど。
だからぼくはほんとうに今まで、
お金のことについては考えてこなかったんです。
今頃になって
「考えないといけないぞ」とか
「邱さんにお会いしてお金のことを伺いたい」
とか思ったりするのは、たぶん、
「お金の使いみち」
がわかったからだと思うんです。
最近、ぼくは使うためのお金が欲しいんです。 |
邱 |
ぼくは、自分の考え通りに
子どもの教育に成功したわけではないですが、
たいていの親が
「節約をすること」ばかり教えてしまうのは、
とてもよくないと思っています。
むしろぜいたくを教えるべきだ、
と考えるんです。
例えば、子どもを「吉兆」というような
良い料理屋に連れていく人は、
あんまりいないですよね。
そういうところは、
おとなが接待で行く場所だ、とされていますから。
でも、ぼくは連れていきました。
それから、世界で一番
高いホテルとかにも連れていきましたね。
「これが一番高い飯を食わせるところ」
というような場所には、
子どもが大学を出るまでの間に、
ひと通り、だいたい
ぜんぶ終わらせておきました。 |
糸井 |
おお。 |
邱 |
うちの子どもが辻邦生さんの
『ヨーロッパ一等旅行』という本を読んで、
その中に、ロンドンのクラリッジ・ホテルのことを、
「湯水のごとくお金を使いたい人は、
このホテルへ泊まれば良い」
と紹介してあったんですよ。
うちの息子は、それを見て、
「パパ、いっぺん、湯水のごとく
お金を使ってみるのは、どうでしょうか?」
って言った(笑)。
子どもを連れて行って三日間泊まったら、
昼食夕食は外で食べましたから、
素泊まりで五十万円くらいだったかなあ?
当時(二十年ほど前)とたら、
まあ、高い金だったでしょうね。
子どもたちは、
ぼくが五十万円も払っている姿を見て、
「胸が痛いねえ……」
って言うんですよ(笑)。 |
糸井 |
はははは(笑)。 |
邱 |
でも、そのかわり
「これだけぜいたくしたら、もう
ホワイトハウスなんかに呼ばれたとしても、
全然びびらないよね」と言ってました。 |
糸井 |
それは、お子さんがおいくつぐらいの時ですか? |
邱 |
子供たちが、みな
大学の一年とか二年ぐらいですね。 |
糸井 |
思春期の頃に、ぜいたくさせたんですね。
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