糸井 |
この映画って、
最初はすごく緊張感があるんですけど、
観ているうちに、いつのまにか
役の人たちに入っていっちゃうんですよね。 |
堤 |
そうですね。
序盤の、病院の屋上と階段のシーンまでを
ぼくらは「第一楽章」と称しているんですけど、
なんとかそこまでに、観ている人が
佐伯雅行の気持ちのレベルになれたり、
枝実子の心境になれたらいいなと思いながら
編集をしました。 |
糸井 |
そのあたりは
だいぶ苦労したところですか。 |
堤 |
はい、ずいぶんやり直しました。
最初はもっとあわただしい編集だったんです。
テンポがいい、というか、
パンパンパンっていう感じだったんです。
「早く病院のシーンまで観せたい」
みたいな焦りがあって
けっこう刈り込んだ編集をしてたんですけど、
「いや、待てよ、そうじゃないな」
って途中で思い直して、また直したりして。 |
糸井 |
ああ、「早く病院まで行きたい」
っていう気持ちはわかりますね。
つくるほうとしても、そのほうが
「できた」って思いやすいんですよね。 |
堤 |
ええ。でも、そうじゃないんですよね。
夫婦のさま、親子のさまを、
それとなく見せないと、
病の衝撃も薄まってしまうから。 |
糸井 |
そうですね。 |
堤 |
そういうことをあらためて学びつつ。
だから、
「映画専門学校の学生か? オレは?」
っていう状態で(笑)。 |
|
糸井 |
そういうことっていうのは、
やっぱり勉強しただけでは
わからないことですよね。 |
堤 |
そうですね。
だからこそ、この映画は
ぼくにとってデビュー作に思えるんです。
いままでに、映画を20本くらい撮ったのかな?
でも、100本撮ったとしても、
やっぱりその題材題材で
違ってくることだと思うんですよ。 |
糸井 |
はぁ〜、なるほどね。
20本映画を撮って、そのほかにも、
テレビや音楽ビデオを
そうとうやってますよね。 |
堤 |
そうですね。
連ドラもだいたい年に1本やってますし。 |
糸井 |
つまり、フィクションをつくって
人々に何かを感じてもらうっていう仕事は
いままでにさんざんやってるわけですよね。 |
堤 |
そうですね。はい。 |
糸井 |
だから、今回の『明日の記憶』は、
「フィクションの仕事プラス、何か」が
起こっちゃったんですよね。 |
堤 |
そうですね。
「人としてどうなんだよ」
っていう部分ですよね(笑)。 |
糸井 |
ああ〜。 |
堤 |
バラエティー番組をつくって、
音楽ビデオをつくって、
映画やドラマをやらせていただくなかで、
技術的なことにどんどん
フォーカスしていくんだけど、
けっきょく「人間のやること」を
わざわざ遠ざけてたんですね。 |
糸井 |
そうですね。 |
堤 |
20年間つくって、作品のレベルも上がり、
自由にできる予算も以前よりは増えたけれども、
しかしながら、やっぱり、
いちばん大事な「人間」というものが、
ずーっとないままでいままで来てて。
だから、『明日の記憶』は、
ほんとにやっと出会えた
「人間の仕事」なんです。 |
糸井 |
うん。そういうものって
「そんなの、ねぇだろ」って
つっこみを入れる側に自分がいたときは
つくれないんですよね。 |
堤 |
そうですね。 |
糸井 |
「人間を描くもの」をつくるときには、
やっぱりそれをつくるなりの
覚悟っていうものがいるんだと思うんです。
「人間を描いた」つもりになって、
励まし合っているような人たちを見ると
それは違うだろうって思うけれども、
そうは言っても、
「オレはまだ描いてないな」っていうのは、
やっぱりね、寂しいですよね。 |
堤 |
はい。
年齢的なことや
時代的なことの大きな変化のなかで、
ほんとにもう見栄を張る必要はないというか、
なんて言うのかな、
自分はクリエイターだって言ってること自体が
ちょっとかっこ悪いなって気持ちに最近なってて。 |
糸井 |
うん、うん、うん。 |
堤 |
や、だから、もう、
いまはゼロに戻りました(笑)。 |
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糸井 |
『明日の記憶』を通じて、
そう言い切れるようになったということですね。
だからこそ、「病を克明に描く」ことよりも
「救いのあるファンタジーつくる」ことが、
できたのかもしれない。 |
堤 |
そうかもしれませんね。 |
糸井 |
「こっち行くぞ!」って言って、
あえて突っ込んでいくような。 |
堤 |
はい。 |
糸井 |
その勇気って、若いときはないですよね。 |
堤 |
そうですよね(笑)。 |
糸井 |
若い時は、なんだろう‥‥。 |
堤 |
意固地になって。 |
糸井 |
意固地なるんだよね。
あと、似た弱さを持った友だちがいるでしょう?
友だちとかファンとか。 |
堤 |
はい。 |
糸井 |
そうすると、
「おまえ、そっち行くなよ?」
ってことになりますよね。 |
堤 |
そうですよね。
日本人特有の集団意識というか。 |
糸井 |
ですよね。 |
堤 |
ほんとに、いままでは
それに安住して生きてきたので。
(つづきます!)
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