『明日の記憶』とつきあう。 堤幸彦監督との対談。 「これはぼくのデビュー作です」




第5回 やっと出会えた「人間を描く仕事」

糸井 この映画って、
最初はすごく緊張感があるんですけど、
観ているうちに、いつのまにか
役の人たちに入っていっちゃうんですよね。
そうですね。
序盤の、病院の屋上と階段のシーンまでを
ぼくらは「第一楽章」と称しているんですけど、
なんとかそこまでに、観ている人が
佐伯雅行の気持ちのレベルになれたり、
枝実子の心境になれたらいいなと思いながら
編集をしました。
糸井 そのあたりは
だいぶ苦労したところですか。
はい、ずいぶんやり直しました。
最初はもっとあわただしい編集だったんです。
テンポがいい、というか、
パンパンパンっていう感じだったんです。
「早く病院のシーンまで観せたい」
みたいな焦りがあって
けっこう刈り込んだ編集をしてたんですけど、
「いや、待てよ、そうじゃないな」
って途中で思い直して、また直したりして。
糸井 ああ、「早く病院まで行きたい」
っていう気持ちはわかりますね。
つくるほうとしても、そのほうが
「できた」って思いやすいんですよね。
ええ。でも、そうじゃないんですよね。
夫婦のさま、親子のさまを、
それとなく見せないと、
病の衝撃も薄まってしまうから。
糸井 そうですね。
そういうことをあらためて学びつつ。
だから、
「映画専門学校の学生か? オレは?」
っていう状態で(笑)。
糸井 そういうことっていうのは、
やっぱり勉強しただけでは
わからないことですよね。
そうですね。
だからこそ、この映画は
ぼくにとってデビュー作に思えるんです。
いままでに、映画を20本くらい撮ったのかな?
でも、100本撮ったとしても、
やっぱりその題材題材で
違ってくることだと思うんですよ。
糸井 はぁ〜、なるほどね。
20本映画を撮って、そのほかにも、
テレビや音楽ビデオを
そうとうやってますよね。
そうですね。
連ドラもだいたい年に1本やってますし。
糸井 つまり、フィクションをつくって
人々に何かを感じてもらうっていう仕事は
いままでにさんざんやってるわけですよね。
そうですね。はい。
糸井 だから、今回の『明日の記憶』は、
「フィクションの仕事プラス、何か」が
起こっちゃったんですよね。
そうですね。
「人としてどうなんだよ」
っていう部分ですよね(笑)。
糸井 ああ〜。
バラエティー番組をつくって、
音楽ビデオをつくって、
映画やドラマをやらせていただくなかで、
技術的なことにどんどん
フォーカスしていくんだけど、
けっきょく「人間のやること」を
わざわざ遠ざけてたんですね。
糸井 そうですね。
20年間つくって、作品のレベルも上がり、
自由にできる予算も以前よりは増えたけれども、
しかしながら、やっぱり、
いちばん大事な「人間」というものが、
ずーっとないままでいままで来てて。
だから、『明日の記憶』は、
ほんとにやっと出会えた
「人間の仕事」なんです。
糸井 うん。そういうものって
「そんなの、ねぇだろ」って
つっこみを入れる側に自分がいたときは
つくれないんですよね。
そうですね。
糸井 「人間を描くもの」をつくるときには、
やっぱりそれをつくるなりの
覚悟っていうものがいるんだと思うんです。
「人間を描いた」つもりになって、
励まし合っているような人たちを見ると
それは違うだろうって思うけれども、
そうは言っても、
「オレはまだ描いてないな」っていうのは、
やっぱりね、寂しいですよね。
はい。
年齢的なことや
時代的なことの大きな変化のなかで、
ほんとにもう見栄を張る必要はないというか、
なんて言うのかな、
自分はクリエイターだって言ってること自体が
ちょっとかっこ悪いなって気持ちに最近なってて。
糸井 うん、うん、うん。
や、だから、もう、
いまはゼロに戻りました(笑)。
糸井 『明日の記憶』を通じて、
そう言い切れるようになったということですね。
だからこそ、「病を克明に描く」ことよりも
「救いのあるファンタジーつくる」ことが、
できたのかもしれない。
そうかもしれませんね。
糸井 「こっち行くぞ!」って言って、
あえて突っ込んでいくような。
はい。
糸井 その勇気って、若いときはないですよね。
そうですよね(笑)。
糸井 若い時は、なんだろう‥‥。
意固地になって。
糸井 意固地なるんだよね。
あと、似た弱さを持った友だちがいるでしょう?
友だちとかファンとか。
はい。
糸井 そうすると、
「おまえ、そっち行くなよ?」
ってことになりますよね。
そうですよね。
日本人特有の集団意識というか。
糸井 ですよね。
ほんとに、いままでは
それに安住して生きてきたので。

(つづきます!)

2006-04-17-MON



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