糸井 |
ラストシーンの場所は、
どうやって発見したんですか。 |
堤 |
あれは、ロケハンで見つけました。 |
糸井 |
渡辺謙さんが、メールのなかで、
「景色から力をもらった」と
書いてらっしゃったんですよ。 |
堤 |
ああ、そうですか。
あの景色は、川の右側が山で、
吊り橋を越えて左側に家があるのが
重要なポイントというか、
ぼくとしてはこだわったところなんです。 |
糸井 |
「彼岸」ですよね。 |
堤 |
そうなんです。
これを超えるともう里なんだっていうところですね。
あれが、何もなくて、両方とも緑だったら、
たんにハイキングになっちゃうんで、
それよりは「人里に戻る」っていうことに
したかったんですが‥‥。
でも、ほんとね、そんなことはどうでもいいです。
演出的なことは、どうでもいい。 |
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糸井 |
あれは、すごい場面でした。
自然のなかに溶け込んでいくというか、
もう一世代ぶん、生きていく。
あれはやっぱり‥‥すげぇな(笑)。
なかなかぼくらそういう、
なんていうんだろうな、
「つくってる人がわくわくしながら選んだもの」
に会えることってないんですよ。 |
堤 |
ああ。
そうですね‥‥ラストシーンは、
かなり時間をかけたんですが、
ぼくはふだん、撮影スタイルとして、
モニターを観ながら、
オッケーを出しているんですよ。
あの、カメラっていうのは
暴力的にフレームを切っているから、
実際に映っているのは
現場のほんの一部なんです。 |
糸井 |
うん、うん。 |
堤 |
でも、カメラの横に立って
撮影現場全体を見ていると
自分の視野全体で判断してしまう。
そういうこともあって
ある時期からぼくは、
モニターというフィルターをとおして
オーケーを出すようにしたんですね。
だから、野外の撮影だと、テントを張って、
外にいるのに、テントのなかから指示を出すという
そういう変なスタイルでやってるんです(笑)。 |
糸井 |
(笑) |
堤 |
でも、今回のラストの、
樋口さんのシーンは、
ま、これはもう、言ってしまえば、
「演出できないシーン」なんですが。 |
糸井 |
そうですね。 |
堤 |
あの場面だけは、
「申しわけないんですけど」って、
樋口さんに許可をいただいて、
すごく近い場所、カメラのすぐ横に立って、
オーケーを出したんです。
その‥‥直接観たかった。
いちばん最初の客になりたかったんです。 |
糸井 |
あああ‥‥あそこは‥‥参りますね(笑)。 |
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堤 |
(笑) |
糸井 |
でも、そういう、特殊な空気があってはじめて
あの芝居は、堰を切るんだと思うんです。 |
堤 |
はい。 |
糸井 |
いろんなものの競作っていうことですよね。
役者と、スタッフと、景色と。 |
堤 |
そうですね。
あの、ぼくは、あの場面の撮影で
はじめて、風を読んだんです。 |
糸井 |
ああー、風! |
堤 |
まあ、光はよく読むんですけどね。
映るものですから。 |
糸井 |
そうか、風かー! |
堤 |
風を読んだんですよ。
まぁ、あの場面は
3回くらいやっていただいたんだけども。 |
糸井 |
あれを3回ですか。
きついね〜(笑)。 |
堤 |
樋口さん自身が、
もう一回、もう一回、っておっしゃってたから。 |
糸井 |
はー。 |
堤 |
それで、やっぱりたいへんな場面ですから、
気持ちをつくるのに30分近くかかるんですね。
で、そのときに、
「なにが条件としていちばんぴったりくるのかな」
って考えていたら、
「ああ、風だな」って思えた。
「もうちょっと風がやむのを待とう」とか、
「ちょっと緩やかに吹いてるくらいの状態にしよう」
とかっていうのを考えながら。 |
糸井 |
ああ〜、そうか。
無風じゃだめですね。 |
堤 |
ええ。
ちょっとうっすら、
空気を感じるくらいがいいなぁと。 |
糸井 |
うーん、なるほど。
そういうものがぜんぶあって、
あのラストシーンになるんですね。 |
堤 |
そうなんです。
やっぱり、本来なら映画の最後は、
渡辺謙さんが主役なわけだから、
渡辺謙さんのアップの映像で
印象として終わらなくてはならないんだけども、
だんだん、そういう映画の定石とか方法的なもの、
方法論としてのステレオタイプっていうのが、
ほんっとにどうでもよくなってきちゃって(笑)。 |
糸井 |
そうですよね。うん。
あの、最近よく言うんですけど、
仕入れたはずのないものが出てくるのが
クリエイティブだって思うんですよ。 |
堤 |
ああ。 |
糸井 |
まあ、クリエイティブっていうのも
あやしい言葉で、
アイデアって言ってもいいし、
なんでもいいですけど、なんにせよ、
「わー!」って人が喜ぶってことは、
同時に自分が喜ぶっていうことで、
仕入れたものが、咀嚼されて出てくるっていう、
いわゆるふつうのウンコじゃおもしろくないんですよ。
やっぱり、化けてしまうもの、
おたまじゃくし飲んだら、
カエルで出てくるくらいのものでないと |
堤 |
うん(笑)。 |
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糸井 |
だから、最後の樋口さんにしても‥‥
あの女優さんは、
仕入れたはずのないものを見たんでしょうね。 |
堤 |
かもしれませんね。
(つづきます!)
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