大切にしてきたものは、何ですか?

この『はたらきたい。』のなかには
「大切にしてきたものは、何ですか?」という問いが
いろんな場面で、なんども出てきます。

それに対する自分なりの答えを真剣に考えるということが、
「はたらく」を考えることなのかもしれない。

そのことさえしっかりとわかっているなら、
この本を読む必要はないかもしれない、とまで
本のオビに書いてしまったくらい、
この本にとって、とても大きな考えかたなんです。

自分が大切にしてきたものって何なのか、
それだけわかってればいいだなんて、
「ほんとかな?」って思うかもしれません。

でも、「自分が大切にしてきたもの」を見つけ出すのって、
それほど簡単なことじゃないと思うんです。


100のことば

ただ、「自分が大切にしてきたもの」というのは、
ことばとしては、すごく簡単なのかもしれません。

インターネットでも読める「ほぼ日の就職論」を
一冊の本にまとめるにあたっては、
いくつか、つけ加えていることがあります。

詳しくは後日、あらめて紹介されるでしょうけど、
ひとつには、
過去10年にわたる「ほぼ日」のアーカイブから、
この本の考えかたに関わりのあるような
ことばを100個、選び出して掲載しているんです。


考えてみれば、この「100のことば」って、
それぞれの人が「大切にしてきたこと」なんですよね。

大企業の経営者から、スポーツ選手、
有名なクリエイターから、一般の会社員のかたまで、
いろんな人のことばが載っていますけれど、
ほとんどみんな、
おおげさなことなんか、言っていないんです。

むしろ、ちいさくて、ささいなことだからこそ、
リアリティがあるし、信じられる。

あるとき、作家のよしもとばななさんが、
父である吉本隆明さんに
「おおぜいのなかにいるときは
 いちばん低い者でいなさい」って言われたらしいんです。

それって、すごく「ちいさなこと」ですよね。

ちいさいがゆえに守りつづけられるとも言えるし、
それでも、やっぱり、
「おおぜいのなかで、いちばん低い者でいる」って、
すごく、むつかしいことだとも言えます。

思想界の巨人と言われる人でさえ
そういう「ちいさなこと」を「大切なこと」として
自分の子どもに、教えていたんですよね。


親として、子どもに読ませたい

このところ、お子さんを持ったかたに
お会いする機会が、なんどかありました。

そうしたら、『はたらきたい。』を
親として、自分の子どもに読ませたいって感想を、
その人たちから、いただいたんです。

お父さんは、あるいは、お母さんは
社会に出てからずいぶん経つけど、
この本のなかに
書いてあることのほうが、ほんとうなんだよって。

やっぱり、あいさつのしかたがどうだとか、
おじぎの角度だとか、
そういうことを、どれだけ知ってるかという部分で、
人は人を、選んでないんですよね。

その人の志だとか、こころから大切にしてきたもので、
お互いに、選びあっているんですよ。

もちろん、この本を読んだからといって
それだけで試験に受かることはないでしょう。

ただ、他の10冊の就職のマニュアル本のなかに
この本が1冊、混じってるだけで
その人の「骨格」が、
しっかりしてくるような気がするんです。

そういう本を、子どもに読んでほしい。
自分自身としても、そんなふうに、思います。

(明日に続きます)


2008-02-28-THU



(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN /// Photo : Naoki Ishikawa