(担当編集者、永田のレポート)
「小さいことばを歌う場所」
というタイトルが決まりました。
表紙のデザインや本の構造も決まりました。
制作はそれから急速に進んでいくのですが、
販売形式については、まだ少し不安がありました。
ほぼ日ストアでのみ販売すること。
希望者を募ってそれから印刷するという
受注販売形式とすること。
それは、たしかにこの本の性質を考えると
ふさわしい販売方法なのですが、
いまの一般的な本の流通から考えると
かなり特異なものです。
そして、特異であるだけではなく、
いくつかの問題も生じることになります。
まず、送料の問題です。
いまネットを通じて本を買うとき、
たとえばAmazonでは
1500円以上の買い物をする場合は
送料が無料となります。
ところが、ほぼ日ストアで販売する場合、
どうしても送料がかかってしまいます。
しかも、いまの販売システムを使う場合、
発送の手数料を含めると
一件につき630円のコストがかかってしまう。
本の価格を1300円にするとして、
そこに630円の送料がかかる。
通常の本の価格として考えれば、やはり高い。
もうひとつの問題は、納期でした。
購入希望者を募ってから印刷するとなると、
在庫を抱えなくてすむという利点はありますが、
お届けするまでに約1ヵ月かかってしまうことになる。
これも、通常の本の販売として考えるなら、遅い。
よい本をつくるということとは別のこととして、
この「高い、遅い」という問題は
ずっと課題として残りました。
幾度も話し合いを重ねましたが、
決定的な解決方法はありませんでした。
どうしても、送料はかかるし、
お待たせしてしまうことになる。
これは、この本にかぎらず、
受注販売形式で発売するすべての
ほぼ日グッズが抱える問題なのですが、
今回の場合は「本」という
一般的な比較対象があるぶんだけ、
より、マイナス点として感じられてしまう。
どうしたものかと考えていると、
糸井重里は言いました。
「これはもう、そういうものだと
納得していただける人に
買っていただくしかないでしょう。
ぼくらは価格競争に参戦するわけにはいかないし、
そもそも、そういうところを売りにする
商品をつくっているわけではないのだから。
きちんと商品をお届けするために
いまの販売システムを崩すわけにはいかない。
だから送料はかかる。
在庫を抱える体制が整っていないのだから
届くまでに時間もかかる。
ぜんぶをきちんとお伝えして、
それでもいいよ、という方にだけ
販売する以外にないでしょう」
この問題は、
これまでに何度も話し合われてきたのですが、
話し合うたび、いつもこの
まっとうすぎる結論にたどりつきます。
「小さいことばを歌う場所」は
希望される方に、希望するぶんだけお届けするという
手渡しに近い方法で販売するため、
通常の本として考えると高い送料がかかります。
また、お届けする時期は4月の上旬になります。
なにかとご不便をおかけいたしますが
ご了承ください、という以外ありません。
ですが、ほかにはない、とても素敵な本です。
その点は、どうぞ安心してください。
さて、本の制作は、いよいよ、
「糸井重里のことば」を編集するばかりとなりました。
ここからは、自分でこういうことを言うのは変ですが、
もう、ぼくの仕事です。ぼくだけの仕事です。
ぼくだけの仕事にさせてください、と、
お願いしたくなるようなタイプの仕事です。
「よいことばを切り取って、
最適な順番で並べていく」
それは、ぼくの大好きな作業で、
臆面もなくいうならば、
もっとも得意とする分野の仕事です。
じゃ、糸井さん、
ここから先はぼくがやりますので、
どうぞ出て行ってください、と言おうと思ったら、
すでに糸井重里は制作現場から姿を消していました。
「じゃ、あとはよろしく」と
糸井重里が出て行った扉に
内側からカチャリと鍵をかけて、
ぼくは部屋にこもりました。
話のわかる上司(著者)で助かります。
(つづく)
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