ほぼ日 |
斉須さんが尊敬している
お店のオーナーのことをお話いただけますか?
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斉須 |
以前働いていた
ヴィヴァロワというレストランの
クロード・ペイローさん。
彼のことは、ほんとうに尊敬しています。
お店の中には、
彼のスピリットが詰まっていました。
もう、引退されましたが、
ぼくは、ペイローさんの心を
日本で体現したいと思っているぐらいです。
ペイローさんは、
自分でやれる大きさ以上には
手を出さないんですよ。
簡単そうで、むつかしいように思います。
で、いつもうれしそうに、
楽しそうに仕事をしていました。
ぼくは、そういう人になりたかった。
そして、姑息さもないんです。
表も裏も、まったく変わりがない。
お客さんがすごく喜んで
「今日の料理は素晴らしかった」
と言ったら、厨房に連れてくるんです。
「素晴らしいのはわたしじゃない。
この人が作ったんですよ、この子」
って、紹介する・・・。
本人がやっていることと言えば、
一日じゅう掃除をしていることなわけで。
ほとんど、掃除しかしていないんですよ。
彼の姿というと、ほとんどの印象が
「掃除をしている時の姿」です。
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ほぼ日 |
つまり、
人に押しつけるのではなく、
いいと思ったことを自分が率先してやって、
そういうスタイルの好ましさを、
みずから全身で表現している人、ですね?
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斉須 |
ええ。
レストランにおいてほんとうに重要なのは
何よりも清潔度なんだということだとか、
お客さんに対する家庭的な態度だとか、
そういった大切なことの大半を、
彼から教わったような気がします。
「教わった」って言っても
彼は何も言いませんし、
教えたなんて思ってないでしょうけどね。
常に「好きだからやっている」という姿勢で
お店にいる人でしたから。
そうやって「好きだから」
という考え方をすれば、
楽しくもあり悔しくもなく、
みんな楽しくやれるんだなっていうのが、
ほんとうによくわかりました。
商売をやっているのだか、
遊んでいるんだか、
何をやっているかわかんない人なんです。
そして、精神的にも物質的にも、
常に、人におみやげをあげている。
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ほぼ日 |
常にプレゼント、なのですか?
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斉須 |
ええ、彼は絶対に
ソンをしていたと思うんです。
肉体的にも、金銭的にも。
それでも、社会事業のように、
いいと思ったことをやったり、
好きだと思った人に親切にしていました。
ぼくが1年半だけはたらいた時には、
彼のほんとうのすごさを、
わかっていなかったのですが、
離れてみて、自分で店を持ってみると、
あんな、踊るように経営をしているのが、
いかにすごいことかを、痛感しましたね。
あれは、なかなかできない。
それに、やんちゃで、魅力的なんです。
彼はリーダーの役を演じているんですけれども、
照れがあって、やんちゃなところが
時々、出てしまってました。
ほんとうに超一流なはずなのに、
アマチュアなところも
ボロッとぼくらに見せてしまえる。
そうすると、こちらは、
「もしかしたら、
この人のようになれるかも」
って思ってしまうんですよ。
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ほぼ日 |
ペイローさんが、オーナーとして、
スタッフを叱る場面はありましたか?
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斉須 |
はい。
そのお店のメンバーの20人ぐらいが
何をしたら叱られるかと言いますと・・・。
「ずるいことをした」
「お店をきたなくした」
「食材のムダを出した」
という時ぐらい。
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ほぼ日 |
だいたい、
子どものできていることが
できていれば、だいじょうぶですね。
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斉須 |
ええ。
それは、ぼくも学びました。
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ほぼ日 |
そこのお店のスタッフたちは、
うまく機能していたんですか?
何人もスタッフがいるのですから、
お店の雰囲気がギスギスしたりとか、
そういう時は、なかったのでしょうか?
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斉須 |
ありましたよ。
ペイローさんも、
かなり起伏の激しい人でしたからねぇ。
・・・まぁ、子どもみたいな人なんですよ。
ギスギスする場合は、だいたい
ペイローさんが原因です。
たとえば、彼は、サービスのために、
メニューに乗っていないものを、
特別に作らせていました。
ところが、お客さんの中には、
「古くなりかけた、悪いものを、
はやめに食べさせたいんじゃないか」
というように受け止める人もいるわけです。
そういうことを言われると、
子どものように落ち込んじゃうんです。
「フアァァァ・・・」って。
「そんなこと言うなんて、ひどいよ・・・」
とか言いながら、奥さんとどっか行っちゃう。
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ほぼ日 |
(笑)
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斉須 |
「いちばんいい素材だからこそ、
特別な料理にして出しているんだ。
しかも、いちばんはやく食べて欲しい、
と思って先に出したのに・・・」
と。
食べる人が冷めた態度を取ると、
思いが伝わらないもどかしさがあって、
ギスギスするわけですけれども。
「どうしてこの舌平目のパイを、
はやく出してあげないんだ。
パイが焼き上がって
サクサクした状態の時に、
出してあげようよ!」
置き去りにされた料理を
かわいそうだと思って、
ダダをこねちゃうというか、
切れちゃうんですよ。
まあ、そういうことで
場がぐしゃぐしゃになったりということが
多々、ありましたけれどもねぇ。
ぐしゃぐしゃにしたあとには、
戻ってこない、っていう(笑)。
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ほぼ日 |
(笑)わかりやすくて、いいですね。
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斉須 |
すごいピュアなんですよ。
でも、純度が高すぎちゃうの。
思いが一途で、いじらしい。
オーナーシェフが、
そんなにダダこねてどうするんだ、
っていうようなことに関しても、
もう、誠心誠意、やっちゃうんですから。
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ほぼ日 |
こだわることは、お店にとっては、
いいことかもしれないですよね?
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斉須 |
いやぁ、従業員にとっては、
すごくやりづらい・・・(笑)。
彼は食べもののほうの都合を
重視しすぎてるもの!(笑)
彼の誠実さはわかるんですけれども、
食べにいらしてる人にも、
都合があるんですからね。
・・・まぁ、そんなペイローさんを、
ぼくは、好きでしたけれども。
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