調理場という戦場。 コート・ドールの斉須さんの仕事論。 |
第6回 『調理場という戦場』が単行本になります。 こんにちは! 「ほぼ日」のメリー木村です。 インタビュー形式でお届けしていたこのコーナーですが、 しばらく、おやすみをいただいておりました。 と言うのは、年始からつい1週間前まで、 「コート・ドール」の斉須さんに、何度も何度も、 かなりくわしくインタビューをしていたからなのです。 単行本化が正式に決まったので、最高の本にするために 斉須さんとの共同作業をしていた数か月でした。 「コート・ドール」と「ほぼ日」明るいビルとは ご近所でもあるので、頻繁に行き来をすることにしました。 丁寧に時間をかけて、本を作りたかったのです。 できあがった原稿を前に斉須さんと会うと、 「ここを読んでいるうちに、 こういうことを思いついたんですけど」 と語ってくださる。 そしてこちらも、まとめる途中で 聞きたいことが出てくるのでそれを聞く。 そうやって、何度も書き加えを重ねていくという方法で、 本文を作っていきました。 レストランが唯一おやすみである月曜を使って 6時間以上も話しあったり、 夜のサービス(調理場での仕事)が終わったあとの 11時からの話しあいをしたり・・・。 ついこのあいだまでは、だいたい、 週に何度もお会いしていたような気がします。 取材と打ちあわせを重ねるうちに、 本の内容も分量も、日に日にたくましくなっていきました。 もうそれは、「目に見えてわかるほどの変化」でした。 その様子を目の当たりにすることは、 非常に興奮のともなう体験でした。 これを、はやく、本屋さんに置きたい。 最後の2週間ぐらいは そんなことばかり思いながら仕上げていたのです。 そして先週、 「本文がほとんど完成」 というところまでやってきましたっ!!! darlingに見せたら、 「料理人とグルメだけが読むのは、もったいない本。 どんな年齢の人が、どんな職業の人が読んでも、 身体の奥底から、勇気が沸きおこってくると思う」 と言ってくれたんだよー♪ いまは装丁や本文の書体など、 本文以外のことについてを詰めている時期です。 まだ出版は先のことかもしれません。 ただ、連載を楽しみにしてくだるかたたちのためにも、 そして近く訪れる発売のためにも、 このコーナーを更新させてもらいたいと考えました。 「本文をつくりおえた直後のいま」に、 ホカホカした気持ちのまま、 「いま、こういうものを作りました」 とお伝えしたく思いましたっ! 今日は「さわり」として、 単行本のまえがき部分をお届けしちゃいますね! では、どうぞ。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 世代が離れても、時代が変わっても、 「この子は、何かをやるだろうなぁ」 という人が、必ずいます。 経験がなくて波止場でドキドキしながら海を見つめている。 海の向こうにいったい何があるのかを、まだ知らない。 海に乗りだしたくて、ただウズウズしているだけ。 ……そんな子の眼の中にも 「あ、この子はきっとやるな」 という印が、もうすでに浮き出ている。 「人材不足」だとか、「最近の若い人は」とか、 そういうことはあまり思いません。 今も昔も、すばらしい人はすばらしい。 だからぼくは、いいなあと思う人に会うたびに 「あぁ、世の中捨てたもんじゃないなぁ。 あの子は、やるだろうな。 今から駆け出すところなんだなぁ」と思う。 経験があろうがなかろうが、年がいってようが若かろうが、 「これから何かをやる」というタイプの 独特の空気を持つ人を、どうしても気にしてしまいます。 自分も遠い昔に 夢に向かって体当たりをしたようなものだし、 ドキドキしながら海を見ていたひとりだったから、 どうしても感情移入をしちゃう。 何か、我が身を見ているというか。 黙っていても、きっと最前線に走って行くだろうなあ、 と思うとワクワクするんです。 ぼくの近くにそういう人がいたら、 毎日水をやるぐらいのお手伝いはします。 だけど、手を貸す足を貸すということはしない。 やるのは、その人だから。 ぼくはそういう人に対しては、 邪魔もしなければ肩入れもしないのです。 環境保全はするけど、それ以上はしない。 今、料理人の生活を 若い頃からくりかえすかと訊かれたとしたら、 正直なところ、ちょっと勘弁してください、 と思う面もあるのです。 しかし、若い頃はそのつらさを何だかよくわからないから、 怖いけどやれちゃいますよね。 わからないがゆえにやれちゃう。 若さのすばらしさって、きっとそういう 「あまりわかっていない」ということですよ。 こわさを感じても、若い人はわからないまま突っ走る。 いつのまにやり遂げてしまう。 だから、若さというものは、大事にしないともったいない。 ほんとうの「なまもの」という気がします。 本人には自覚がないと思うけれども、 端で見ているともったいなくって。 「一ミリも無駄にするなよ。鮮度落とすな」 って言いたいぐらい。 だんだん鮮度が落ちていくのを見るのはつらいものです。 輝きは一瞬だし、愛されるのも一瞬…… 人間も食材も、 時間が経つとものすごく様子が変わりますよね。 いちばんいい一瞬をみんなが大切にするといいなあと思う。 若い人は社会の上澄みまでいく可能性が いくらでもありますよね。 どれだけ自分の特質を生かせるのかはまだ知らない。 作為もない。 「その白紙の状態のまま、ぶっちぎっていきな」 「汚染されないで、思うまま行ってしまえ!」 そんな風に、思います。 若いのに、あらかじめ権力の壁のようなものを 想定してしまって、卑屈になっていく人もいるけど、 ぼくは「そうなる必要なんてどこにもない」と考えています。 社会の常識になんて惑うことなく、 自分の常識でぶちあたってほしい。 いつか、自分の常識に向けて、 社会をふりむかせればいいじゃないですか。 世間常識があなたのことを「いい」と認めるまで、 頑張ればいいんです。 自分の常識に社会をふりむかせる気持ちでやっているなら、 自分自身は天然のままで、 作為のないまま輝くことができますよね。 日常生活なんだもの。 ぼくはいつも、お店の若い人たちにも、 「常識はしょせん人間の作ったものだから、 自分の常識を作ればいいじゃない?」 と言っているんですよ。 常識に迎合している若い子というか、 年寄りじみた言動をする子を見ると、腹が立ちますね。 群れからはずれるには、 それまでとは違ったことを試してみるしかないのに……と。 ぶち当たって、頭にタンコブを作るかもしれないけど、 いいじゃないですか。痛いのは自分ひとりなんだから。 タンコブを作るのが嫌なら何にもできない。 もしタンコブを作るのが嫌な子が レストラン「コート・ドール」のスタッフにいたら、 ぼくが親切でタンコブを作ってやります。 無傷でいい思いをするなんてことは、ないですから。 今からぼくがお話する内容を、 どれだけの人が実感を持って 受けとめてくださるかどうかは、わかりません。 ただ、あちこちに自分の身体をぶつけて タンコブを作りながら考えてきたことしか、 言わないつもりです。 「ぼくの経験上としてはこう思った」 という仕事への見方が、 誰かがこれから仕事をしていく上で、 何かのヒントになれば、 ほんとうに嬉しいなぁと思っています。 斉須政雄 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 本の内容については 今後このページで紹介してまいりますので、 どうぞお楽しみに!! 応援メールをいただけると、とってもうれしいですっ。 |
2002-04-08-MON
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