覚 |
さて、クイズですよ。
俊太郎さんは、いくつまで
お母さんと一緒にお風呂に入っていたでしょう? |
谷川 |
‥‥これはもう、言いたくないんだけど。 |
── |
教えてください、教えてください。 |
谷川 |
結婚してから、
母と一緒に
お風呂に入り、
妻が怒ったって
いう話を、
そんなに聞きたい?
|
覚 |
くっくっくっ。 |
── |
!! 大ショックです。 |
谷川 |
しかも、なんで妻が怒ったのか、
僕はわからなかったの。 |
── |
ああ、追討ち‥‥。 |
谷川 |
20歳くらいまで、
あまりにも習慣的に
母と一緒にお風呂に入っていたからね。
家族というのは、
それが当り前だと思ってたんです。 ほんとに、妻には申し訳ないことをしました。
|
覚 |
あの、例えば
お母さんと、
背中の流しっこなんかをするわけですか?
|
谷川 |
しましたね。 |
── |
お風呂でお話とかも? |
谷川 |
しょっちゅう話をしていた記憶があるね。
いちばん仲のいい友だちみたいなかんじでした。
外に友だちはいたけども、
何でも打ち明ける友だちなんかいなかったし。 |
覚 |
お母さまには
何でも打ち明けられたんですか? |
谷川 |
うん。とはいえ、やっぱり、
性的なことがらを話すのは、
すごく嫌でしたね。 |
覚 |
それは私もすごく嫌だったな。 |
谷川 |
嫌だけど、向こうが訊いてくるから、
しかたなしに話してたんだよ。 |
覚 |
たとえばどんなことを
訊いてくるんですか? |
谷川 |
‥‥これ、公開するわけ? |
── |
この部分は、
お読みになっているみなさんの
ご想像におまかせましょう。 |
谷川 |
じゃあ、話すね。
★●×&$■×■△¥¥#
・★●#・△♪×■△¥★
●×■×@*■△¥¥#・★。
そういうことを、母親が
手紙に書いてきたりするの。 |
覚 |
うわあ。 |
谷川 |
結婚してからも、
セックスについての心得みたいなものを、
手紙で書いてきたことがある。 |
── |
うへえ! |
谷川 |
それはね、戦後まもなくベストセラーになった本、
波多野勤子の『少年期』の影響だと思う。
内容は、息子との往復書簡なんだけど、
うちの母はそれにかぶれたの。
息子と往復書簡をするのが、
すごくいいことだと思ったらしいんですよ。 |
覚 |
「往復」ってことは、
俊太郎さんもお母さまに‥‥。 |
谷川 |
いやいや、書かなかったですよ。
でも、男の子は、高校生くらいになると
母親をバカにしたり、遠ざけたりしますよね。 |
覚 |
ふつうはそうだ、という気がします。 |
谷川 |
やっぱりうちは
ちょっと異常だったんだな。 |
── |
「うざったい」とか言い出しますし。 |
谷川 |
のちのち僕も
うざったくなったけどね。 |
覚 |
それは、いつぐらいのときですか?
40過ぎてから、とか? |
谷川 |
いくらなんでも‥‥(笑)。
あれは19のときだったかな。
日ごろから、母には
「何でも話すよ」って言ってたから、
最初の恋愛をしたときに
そのことを打ち明けたんです。
そしたら、 母が家出しちゃった。 |
── |
かさねがさね、
谷川母子はすごいですね。 |
谷川 |
ま、1日まるごと家をあけたわけじゃないけど、
何時間か、家出しちゃったんですよ。
「こういう人ができたよ!」って
よろこんで報告したのに。 |
覚 |
一緒によろこんでもらえると
思ったわけですね。 |
谷川 |
そう。そしたら、家出。
それからですよ、
うざったくなってきたのは。
これは、自分から遠ざけなきゃいけないって、
はっきり思った。 |
覚 |
私は、母親がいさえすれば
生きていけると中学1年くらいまで思ってました。
「ほかにだーれもいらない、
お母さんがいちばん好き」
って、よく口に出して言ってた。
「お母さんが死んだら私も死ぬ」
とも言ってました。 |
谷川 |
(ふか〜くうなずく)
すごい、そっくり。
僕はキリスト教系の幼稚園に行ってたから、
夜寝る前にお祈りをしていたんです。
まず最初に
「お母さんが死にませんように」って言うの。
それから
「お父さんが死にませんように、
どこどこのおじさんおばさんが
死にませんように、
家が火事になりませんように、
地震になりませんように」
と、延々つづくんだけども(笑)。
でもトップは、いつもお母さんなんだよ。
これは前に河合隼雄さんと話したときに、
すごくおもしろかったことなんだけど、
河合さんは、子どものころ
自分が死ぬのがすごい恐かったんだって。 僕は自分が死ぬよりも
母親が死ぬほうが
ずっと恐かった。
|
覚 |
私もそう。 |
谷川 |
でも、実際に母親が死んだときは
ほんとにどうってことなかった。
母親の存在って、大きかったなぁ。
だから僕はしみじみ思うんだけど、
女性に、母親的なものを
求めるようになっちゃったのが、 私の生涯の過ちです。
|
覚 |
あ、や、ま、ち。 |
── |
はい(笑)。 |
谷川 |
でも、それは克服いたしました。 |
覚 |
マザコンて克服できるものなのかなあ。 |
谷川 |
はい。60過ぎてから。
長いね(笑)。マザコンの、この長さ。
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