ダーリンコラム

糸井重里がほぼ日の創刊時から
2011年まで連載していた、
ちょっと長めのコラムです。
「今日のダーリン」とは別に
毎週月曜日に掲載されていました。

テレビの持ってるいいところ。

テレビの天下は終わりつつある。
そういう時代になっているのは、よくわかる。
広告が減っているのは一目瞭然だし、
その制作の予算も減っているらしい。
テレビに向かってやってくる「お金」の流れが
減っているということだ。

だけど、衰退していると思われているときには、
なんでも「だめ」に見えちゃったりするものだから、
逆に、こういうときにこそ、
「いいところ」を、ちゃんと探しておくほうがいい。
「お金」が集まらなくなったら、
たしかにパワーは減衰するかもしれないけれど、
量的な「ちから」でないもので、
減らない「いいところ」というものが
あるはずだと思うのだ。

なんてことをいつも考えていたわけじゃないんだけど、
テレビの「いいところ」というものを、
探そう探そうと思いながら、テレビを見ていた。

で、ビジネスの視点で「いいところ」を探そうとしたり、
制作者として「いいところ」を見つけようとしたり、
わりと誰でも考えそうなことを
考えたりしていたのだけれど、
あるとき、急に気づいたことがあった。

「おれは、テレビを見ていて、
 わからないと思ったことがない」

本を読んで、わからないと思うことはいくらでもある。
根気よく書いてある内容を
理解しようとする場合もあるけれど、
わからないものについては、だいたいは、
そのままにしてしまう。
大きな書店の棚に並んでいる本の半分以上は、
ぼくには理解できないことを書いているのではないか?
そういう気がする。

しかし、テレビを見ていて、
「なにを言ってるのかわからない」と思ったことは、
まず、ない。
一部の学者だとか、難解そうなことを言いたい人だとか、
本来めちゃくちゃなことを怒鳴る人だとか、
政治的に煙にまいてしまいたい人や、
そういう「わかられない」ことを
目的にしている人は別だけれど、
ほとんどすべての番組は、
娯楽番組であろうが、教養番組であろうが、
わかられようとつくられている。

なんでもかんでも、わかりやすくするということが、
いいことばかりじゃないのは、ぼくも知っている。
表現している人間でさえも、
「これ以上どうにもわかりやすくは言えないんだ」、
と叫びたくなるようなことだってある。
それはわかったうえで、
国際政治のことでも、哲学でも、自然についてでも、
先端の科学のことでも、
「ここまでなら、たいていの人がわかる」
ということを伝えてくれるというのは、
ほんとうにありがたいことだ。

テレビというものが
「通信」のひとつのかたちとして
世の中に登場してきたということが、
「なんとかわかるようにする」という
媒体特性をつくりあげてきた理由なのかもしれない。
テレビに関わるたくさんの人々のなかに、
「わからない」ものは「放送できない」という判断が、
自明のことのようにあるのだろう。

例えば、と考えた方がいいのかもしれない。
ぼくもシリーズの最終回のスタジオに参加させてもらった
『マネー資本主義』という特集があった。
この番組をちゃんと見ていて「わからない」という人は、
たくさんはいないだろう。
教室の授業ではないけれど、
「ちゃんと聞いてればわかります」
というくらいのつくり方をしているからだ。
しかし、同じくらいの内容のことを、
本で読んで理解しなさいということになったら、
「わからない」と言ってさじを投げてしまう人が、
とても多いのではないだろうか。

「わかることをする」というのが、
テレビの最大の特長なのではないだろうか。
そう思うと、ぼく自身が、
テレビというものにどれだけの影響を受けてきたか、
あらためて驚いてしまう。
そう長い期間だったわけじゃないけれど、
毎週やる番組の企画やミーティングから、
司会のようなことまでやってきた経験が、
とても大事なことだったんだなぁとしみじみ思う。

いちいち説明はしないけれど、
だいたい、ほぼ日刊イトイ新聞というものの表現方法は、
テレビから学んだ「わかることをする」だと思う。
話しことばを道具にして、どこまでなにを言えるか。
これも、テレビの方法そのものだった。
むろん、「ほぼ日」まるごとを考えたら、
書籍やら、雑誌やら、ラジオやら、映画やら、芝居やら、
いろんなものの影響が溶け込んでいるのだろうけれど、
やっぱりテレビがいちばんでかいのだ。

テレビ関係の皆さま、
あなた方のやってきたことで、
それなりに巨木のように育ってきたものが、
実はけっこうあると思うんです。
短い歴史のなかで、ここまで育ったものって、
ほんとうにすごい。
たいへんな技術や知識の体系ができていると思う。
冗談じゃなく、もっと学ばせてください。

‥‥単なるテレビ好きのおやじの感想だったかな?

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