ITOI
ダーリンコラム

＜銀と毛＞


いまではポケットモンスターの歌の作詞家として有名な
トダくんという人がいる。
彼は、とにかく、変わったことを考えるやつで、
いろんな仕事を手伝ってもらっていた。
もともと萬流コピー塾の優等生として知り合ったのだが、
その後、ぼくのところの社員になって、
解雇になって、友だちの会社の社員になって、
解雇になって、また別の友だちの会社の社員になって、
その会社がぼくが代表の会社に吸収されて、
そこの社長をぼくがやめて、というような経緯で。
つまりその、トダくんも、ぼくも、
なんだかとんでもなく社会性のないやつだということが、
よくわかるだろう。

断っておくが、どちらの人物も、
社会性こそなけれ、善い人であるぞよ。

トダくんについては、いろいろおもしろいネタはあるが、
今回は彼そのものについての話じゃあない。

トダくんが、ある夜に見たという夢のことである。

『とんねるずの、もじもじくんっていうのが
ありますよね。
あの、スケートの黒岩選手みたいな（旧いね、どうも）
つるんとした服着てるじゃないですか。

みんなが、あの服なんですよ。
なんか、未来社会みたいなんですよ。

だけど、よく見ると、同じじゃないんですよね。
服のカタチは同じなんだけど、素材がちがうんですよ。
アルミっていうかクロームメッキっていうか、
銀色のやつと、
あと、毛のやつと、二種類あるんですよ。

YとIさんと、あとAは、銀なんですよ。
そいで、ASさんとか、Oさんとか、イトイさんとかは、
毛なんですよ』

なに言ってるか、わかりますよね。
早い話が、夢の中の未来人は、おんなじように
もじもじくんみたいな服を着てるけれど、
銀のやつと、毛のやつがいる、と。

だいたい、テクノ音楽系のものが好きなやつは、銀。
ドクターペッパーが好きだったり、
ゲームがすごく好きだったりする人が多いわけ。
一方、毛のやつは、８ビート系というか、
言葉づかい乱暴だったり、飲み物でもコーヒーとかお茶。

けっこう、この「トダの夢」ってやつは、
ぼくらの周辺ではうけていましてね。
銀と毛、という対比は、
けっこういろんなシチュエーションで、活用できるんです。

映画にも、絵画にも、音楽にも、人間にも、
銀と毛のちがいはあるわけですよ。

椎名林檎は、銀を飾りにつけた毛、でしょう。
宇多田ヒカルは、毛がついた銀かなぁ。
北島三郎は毛ですね。
藤あや子は、うすい毛。
パンチョ伊東さんは、これはなんと毛なんですねぇ。

野球選手でいうと、全体に毛だけれど、
イチローはけっこう銀系ですね。
サッカー中田選手はかなり銀でしょう。

飲み物でも、ビールは毛だけれど、
ライトビールは銀ですよね。
ごはんはもちろん毛だけれど、パンもけっこう毛。
スナック菓子は、銀です。

この銀と毛の分類というのは、
なんとなく誰でも理解できるような気がするのがおかしい。
なんで、こんなにわかるんだろう。
なにか法則でもあるのだろうか。
もともと、なにか別のスカッとした分類があったのを、
ただ、銀と毛に置き換えただけなのだろうか。

エンゲル係数が、毛係数なのかなぁと思ってもみたが、
どうやら、それもちがう。

そういうと身も蓋ももないが、
毛というのはある種、野生度と言えるのではないか。
毛だから、毛そのもの、として考えるのだ。
すね毛を生やしていたら、毛度は高い。
すね毛を剃っていたら、毛度は低い。
すね毛とは何か？毛とは何か？
それは、「毛もの＝獣」度のバロメーターである。

人類の歴史は、いままで毛を消し去る方向に、
一方的に進んできたように思う。
類人猿の時代から、現在まで、
養老先生のいわゆる『脳化社会』としての発展が、
進めば進むほど、毛は減っていっている。
このまま行けば、ほんとうに人類は、
無毛化していくのではないだろうか。
人類の毛は、現在では、超装飾としての頭髪と、
「けもの」の気配を残す「部分」といての生殖器に
限定されて残っている状態である。
おそらく、文化としての性は脳的でも、
生殖はある意味では大脳と対立するから、
あの場所の毛の存在も、
かなり危ういところまで来ているのかもしれない。

しかし、ぼくは、毛系の人間として、
すべての人間の銀化には無理があると考えている。

アメリカ人のインテリが、やたらに汚い言葉を
会話の中に混ぜ込んでいるという話を聞いた時、
ほら見ろ、やっぱりな、と思ったよ。
よくない例かもしれないけれど、
犯罪とか変態とかの世界でも、
銀に銀にと進行しているようにも見えるけれど、
実は「毛の復讐」みたいな要素も臭ってくる。
あ、そう言えば、臭いと毛も、密接な関係があるよね。

長くなりすぎるから、このへんにしておきますがね、
「ほぼ日」は、インターネットという、
非常に銀に思われやすいメディアを、
毛に使っていくという意志を持って作ってます。

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◆『小便をする恥ずかしさ、
汗かきまぐわう情けなさ、
めしを食らわにゃ腹が減る悲しさを、
あんたは、どうしているかね？』

＜セフティ・マッチ質問集より＞

2000-05-07-MON

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