田中 |
生のホーメイを聴いて思い出したんですけど
小さい頃、毎月1回、
お坊さんが檀家参りにうちに来てたんですよ。
そのお経を読む声っていうのが独特だったんです。
なんか似てるなぁー、と思いまして。 |
巻上 |
それは上手な人だったんだね。
今はお経、下手な人が多いですね。
すごい声が悪くてね、
ブッ飛ばしたくなるような坊主がいる(笑)。 |
田中 |
その方は、たぶん今、
80を越えてらっしゃると思いますけどね。 |
巻上 |
それは、有難い坊さんだよね。 |
田中 |
読経の仕方とかって、
喉歌や倍音唱法と近いものがあるんですか?。 |
巻上 |
うーん、どうかなぁ?
基本的に違うのはね、
音色は似てるかもしれないけど、
それをコントロールするっていうことですよね。 |
田中 |
コントロールする? |
|
巻上 |
音程のコントロールするっていうのは、
お経にはあんまりないんですよ。
勝手にやってる(笑)。 |
田中 |
一本調子にやってるだけだと。 |
巻上 |
あと、曲があるのが声明でしょ?
声明の場合は、ただメロディーがあるだけだから。
下の音は同じところをいって、
上の倍音部分のところに
メロディーを入れるっていうのはないです。
聴き取れるかどうかわからないけど、
ホーメイではそういうふうにやってる。 |
田中 |
ベース音は一定で、
高音をコントロールするということですか? |
巻上 |
そうです。
でも、最近、気づいているお坊さんがいてね。 |
田中 |
はははははは、気づいた人が。 |
巻上 |
海老原さんって人がいるんだけど、
その人たちの声明はコントロールしてる。
それにね、お経の場合は
ひとりでやるもんじゃないから。
みんなでやってると、
もうひとつのハーモニーっていうのが、
上から降りてくるんですよ。 |
田中 |
上から? |
巻上 |
それはね、どんな音でもだいたい出るんです。
西洋のコーラスでも。
要するにホールが立派なホールだと反響して、
上の方でもうひとつ違うメロディーが鳴るの。 |
田中 |
あー、なるほど。 |
巻上 |
たぶん聴いたことがあるでしょう。
「どこでこんな笛みたいな音がしてるんだろう」
って。
あれがそうなんですよ。
コーラスが上手くいってると、すごく綺麗に鳴る。 |
田中 |
あ、コーラスが上手くいってると、
上から降ってくるような音が
聞えてくるということなんですね。 |
巻上 |
でね、声明の場合はね、洞穴唱法に近いんです。
空気を鼻に当てるんですよ。 |
田中 |
えっ、鼻に? |
巻上 |
たぶん聴いたことあるよ。
やってみるとこんな感じなんだけど
それが、鼻に当てるから。
で、それがもしね、さっきの洞穴唱法みたいに、
口の前を動かすんです。
だからつまり、鼻に当てると、
そこに空気の層ができて、
その膨らみを利用してる。
(ここの部分を全て音声で聞くことができます。
こちらをクリック!) |
田中 |
あ、鼻をわりと中心に響かせるということなんですね。
顔を楽器みたいに使うんですね(笑)。 |
巻上 |
その言い方で、みんながわかるかどうか、
ちょっと疑問なんだけど、
僕も最初にホーメイを
トゥバの人たちに教わったときに、
「まあともかく、最初は喉を開けて」
って言われたのね。
よく喉を締めてしまうから。
細い音になりがちだから、
喉を開けるレッスンをして。
じゃ、ふつうの歌と同じじゃないか、
と思ったんだけど。
「ア〜」とか言ってね。
それを、1、2時間やって、
「うん、じゃ、OK」と言われて、
最後に、
「じゃあ、後は喉の筋肉を
下に下げるだけだから」って
言われたんだ(笑)。 |
田中 |
喉の筋肉を下に下げる? |
巻上 |
「喉、筋肉を下げろ」って言われて、
「その筋肉はどこにあるんだ?」
と思ったよ(笑)。 |
田中 |
ふつう、喉の筋肉は意識しないですよね。
喉の筋トレみたいなのがあるんですか? |
巻上 |
そう。
喉の筋肉を、「エ゛〜」ってやると、
出るっていうんだよ。
だんだんわかってきたけど、
なんか丹田の方にグッと押し下げると、
モンゴルとかトゥバの歌唱法になるんですよ。 |
田中 |
巻上さんの本を拝見すると、
声帯模写って形態模写に近いみたいですね。
顔とかかたちを真似ることで、
似た声が出てくるようになるのかな、
と思ったんですが。 |
巻上 |
顔は重要ですよね。
やっぱり口の中の形態とかによって、音が違うから。
顔を似させると、その空洞が似るっていう。 |
田中 |
トゥバの方から教わられたときに、
まず喉を開けろとか、筋肉下げろとか、の他に、
何かコツみたいなものはあったんですか? |
巻上 |
聴いてるとね、発音なんですよ。 |
田中 |
発音? |
巻上 |
発音が重要。
彼らが喋ってる言葉がね、まず独特ですよね。
そこから来てるんでしょうね。
日本語に無い発音なんですよ。
ドイツ語のウムラウトみたいな。
喉の奥の方で曖昧母音をやるようなね。
あるいは喉の奥の声門を、
カッ、カッ、カッて破裂させるようなね。
擦りあわせたりとか。
そういうふうに、
いろんなふうに喉のところを使うのね。 |
田中 |
あ、ふだん日本語喋ってるぶんには
使わない喉の筋肉を動かさなきゃいけない
ってことになるんですね。 |
巻上 |
ふだん使ってないですね、たぶん。
あと呼吸のレッスンにもなりますよね。
肺の奥の方から息が出てくるので、
息の使い方が上手くなるんですよ。
っていうのは、すごく細く出すのね。 |
田中 |
量をですか? |
巻上 |
だから、すごく長くできるのよ。
(その長さ体験してみてください。
ここをクリック!) |
田中 |
‥‥凄いっすね(笑)。 |
|
今泉 |
(ここで今泉アナがたまらず質問を)
腹筋と横隔膜をそうとうに
コントロールしないと
今の細さと長さ出ないですよね。 |
巻上 |
今の長さで、
きちんと音が出るということなんだけど。 |
今泉 |
日本語と発声法も違うんでしょうね。
日本語ってわりと胸式呼吸で、
一方歌ってるときは、お腹からですよね。 |
巻上 |
うん。
ゆっくーり、ゆっくーり出してくんですけど。 |
田中 |
そのような声を出されるために、
巻上さんの本の中でも、
背筋が大事だとか、腹筋を鍛えるとか
紹介されてましたけども。 |
巻上 |
それはね、芝居やってるときに
教わったんですけどね(笑)。
なんかいろいろ発声練習とか、させられるんですよ。 |
田中 |
あ、もともと芝居をされてたときの下地があったから、
すんなりとホーメイにも入っていけたんですね。 |
巻上 |
そうですね。
発声はね、18ぐらいのときに
ニューヨークで習いましたよ。 |
田中 |
ニューヨークで習われたんですか!
それは、演劇の先生ですか? |
巻上 |
演劇の発声の人についてね、厳しかった。
ほんとに身に付いたかどうか、よくわからないけど(笑)。 |
田中 |
長い期間、行かれたんですか? |
巻上 |
東京キッドブラザースって
劇団で公演に行ってるときに、
4ヶ月ぐらいいたから、
その間にレッスンを時々やってましたよ。 |
田中 |
そのときは発声練習に走られたわけですか。 |
巻上 |
ほら、劇団員って、自由自在じゃないですか。
責任感ないから、なんにも。
ニューヨークとロンドンに行けるっていうんで、
オーディション受けて入ったっていう(笑)。 |
田中 |
海外行きたいから、みたいな不純な動機で(笑)。 |
巻上 |
もう「行けるよ、すごい!」とかって(笑)。
まだ1ドル360円で固定相場制の時代だからね。 |
田中 |
その頃から、歌は歌ってらしたんですか? |
巻上 |
だってミュージカル劇団だもん(笑)。
でも、今キッドの時の歌とか聴くと、
やっぱり下手だったね。 |