佐藤 |
ぼく、『海馬』の本読んで、
「可塑性」という言葉に出会って、
すごい影響を受けちゃって、
だから今回の個展のサブタイトルは、
「プラスティシティ」(「可塑性」の英語)なんです。
ま、養老さんの本とかね、
もともと脳関係の本にあたっちゃうんだけど、
『海馬』も、
「ほんとにそうだよね!」っていうことが多くて。
あの、今まで、デザインの現場で思ってたこと、
自分のスタッフに対して言ってたこと、
「もっともっと自分を壊さなきゃだめ」、
もう、「自分を新しくしないとだめだ」とか、
言ってたことが、
まさに語られていたんだよね。
事務所では無理やり読ませてます(笑)。 |
田中 |
あ〜、なるほど。
推薦図書になってるんですか(笑)。
脳の可能性を知ることで、
自分の可能性を再確認できるってことですね。 |
佐藤 |
「可塑性」って、
クリエーターにとってすごく大切なものですね。
自分が考える「デザインっていうもの」と、
つながるものがあったんですよ。
養老さんの本も、
ま、「デザインの解剖」をやってるんで、
解剖学的なもの好きなんですけど(笑)、
『海馬』を読んで、
また、そうだよね、と納得できた。
誰でもね、経験積んでくと、
自分を守ろうとするじゃない。
「俺はこんだけ経験したんだ」と。
それだけのスキルがあるんだら、
それに見合う分だけ認めろっていうね。
で、「私に任せなさい」っていう。
「これが私のデザインだ」とか言っちゃって。
そういうものがね、自分の中に無いんですよ。 |
田中 |
はぁ〜、そんなにまで
自分が無いほうがいいんですねえ。 |
佐藤 |
どんどん変わってかまわないんですよ。
クライアントからどんどんいいこと言われたら、
どんどん取り入れちゃうんですよ。
で、どんどん取り入れて、
いちばんいい落とし所を
見つけていけばいいので。
昔は不安だったんですよ、すごく。 |
田中 |
あー、いわゆる、ノウハウとかメソッドとか、
自分の引き出しの勝負じゃないと、大変ですものね。
毎日、1回1回が「負けられない戦い」(笑)。 |
佐藤 |
あ、そうそうそうそう!
そうかもしれない。 |
田中 |
自分の芸風を見せることを売りにしている人は、
周りにはわかりやすかったり
しますからねえ(笑)。 |
佐藤 |
わかりやすいでしょ?
世の中に同じ信号を送ってるようなものだから。
作品やデザインを見るとね、
「ああ、これ、彼のだ」って。
ところが、ぼくの場合は、
「何やってるの?」っていうことになる。
作品にぜんぜん何も繋がりがないわけ。
「佐藤君らしさは、どこにあるの?」って
言われる(笑)。
べつに自分の、
何か得意とする手法があるわけでもないし、
写真でいくときには写真でいくし、
文字でいくときは文字でいくし、
何でもいいんですよ。
何でもいい。
そのときにやるべき手法を見つけるだけなんで。 |
田中 |
そうか、だから、普通のデザイナーだと、
どうしても眼に見えるデザインに
作家性を残そうと追求していきますよね。
でも、佐藤さんの場合は、
あえて言うならば、
仕事をするプロセスであったりとか、
仕事に対する態度とか、志向性にみたいなところに、
作家性があるんでしょうね。
たぶん「佐藤卓らしさ」っていうのが、
デザインへの考え方や接し方にあるんでしょうね。 |
佐藤 |
いや、それをね、自分で確認したい(笑)。
毎回、ほら、問題をね、
解決できるときもあればね、
ほんとのほんとの問題まで
遡ることができないときもあるわけですよ。
「そこまで踏み込まれても、
どうしようもないよ」って、
クライアントに言われる場合もあるじゃないですか。 |
田中 |
とくに佐藤さんの場合は、
行き過ぎを注意されそうですもんね(笑)。 |
佐藤 |
たとえば、依頼してくれた担当者に、
「問題はそうじゃないでしょ」って言っても、
「いや、私にはもうどうにもならないんです」、
っていう深い問題が
あったりすることもあるので。
そういうときはそういうときで、
対応するんですよ。
少なくとも、ちょっとでもいい方向へ。
「できるだけのことをやりましょう」って。
だから、どんなデザインでいくか、
あらかじめ何も決めてないんですよね。
そういう仕事の数々を並べたときにね、
「いったい俺は何なんだ?」って(笑)。
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