感心力がビジネスを変える!
田中宏和が、
感心して探求する感心なページ。



第五回
デザイナーは医者であり翻訳者



田中 今までは、むしろ問題製造業者とか、
場合によっては問題複製業者だったかも
しれないけども、
デザイナーの視点で
だれもが問題解決業者になれるってことが
ありそうですよね。
佐藤 うん。
デザインドクターなんていう言葉をね、
ときどき使いますけど、
ほんとにお医者さんに近いっていうかね。
聴診器をぶら下げて歩いてるみたいなさ(笑)。
何かあったときにさ、
「こう、どこがいけないのかな?」って、
デザイナーって、
そういうとこがあるんじゃないかな。
なんだかさ、新しいものを作りだす、
アイデアだけを考える、という、
生み出すことばっかりが語られるんだけども、
実は「見つける」ってことをしてる職業なんですよ。
なんかかっこいいものをつくる職業みたいにね、
いまだにそんなことを思われちゃっててね。
「あなたたちはいいわよね、
いつも楽しそうで」って。
いや、もちろん楽しいことは楽しいんだけども‥‥。
田中 「好きなことを仕事にして」とか、
好き勝手やって暮してる人みたいに言われて(笑)。
佐藤 そうそうそうそう(笑)。
そんなに向こう側に追いやらないでよ、
って言いたいんだよね。
一緒じゃないですか、何やったってね。
お医者さんも、やぶ医者は、
頭の痛い原因をちゃんと調べずに、
頭痛薬をくれちゃいますよね。
それは対症療法としてはね、
場合によっては必要ですけども、
ほんとに頭が痛い理由を、
やっぱり知らなきゃいけないわけですよね。
睡眠不足だけだったら、薬なんていらないわけだし。
田中 眼鏡の度が合ってないかもしれませんしね(笑)。
噛み合わせの問題かもしれないし、
だから、総合的に見えるっていうのは
大事なんですよね。
佐藤 それも完璧にするとなると無理なんだけど、
でも、できるだけ問題はどこなのかっていうことを
見つけていこうとすると、
自分はそのとき、何も関係ないんですよね。
私が何をやりたいかとか‥‥。
田中 自分の中に問題は無いですもんね(笑)。
佐藤 うん、そう!
それがね、若いデザイナーで、
ほんっとに誤解をしている人がいてね。
デザイン学校とか大学のデザイン科とか出てね、
で、世の中に出て、1回ボキッと折られてね、
それで、ハッと気がつく人はまだいいんですよ。
ところがね、気がつかないでずっといってね、
世の中とぶつかり続けていく人がいるんですよ。
なんで俺のやってるデザインが
わかってくんねぇんだ、っていう。
田中 なるほどな。
それ、頭痛いって言ってる患者さんに、
「いや、俺は盲腸の手術得意だから、
盲腸の手術を」なんていうのと似てますよね、
なんか感じとしては(笑)。
佐藤 そう(笑)。
で、まず体を切るのが好きで、
とりあえず切っちゃうっていうね。
「だから、切りたいって言ってるのにさ、
なんで切らしてくれないんだ?」って、
こう文句言ってるみたいな、デザイナーがね、
けっこういるんですよ。
田中 それは、やっぱり自分の流派を掲げたいみたいな、
そういう欲望に近いですよね、結局のところは。
佐藤 べつに、あえて、「それは違うでしょ」とも
言いたくもないっていうか。
どうぞ、そういう生き方でいかれる方は
いかれればいいじゃないですか、って気分なんです。
田中 そういう人がいたほうが、
佐藤さんの価値が高かったりしますからね(笑)。
佐藤 「私がいい」と言ってるわけじゃなくてね、
自分はそうだから。
自分のことは
自分がいちばんわからないじゃないですか。
だから、自分がいいと言ってるわけじゃなくて、
私は違うと。少なくとも違う。
で、あなたはあなたですよね、って。
それはこうハッキリと言いたい。
少なくともあなたのやり方は、
かなり自分の可能性の幅を狭めますよ。
でも、狭めて深くいく人もいるかもしれない。
田中 むしろそういう人はデザイナーというより、
アーティストとしての生き方を
貫いてるんですもんね。
佐藤 うん、そう。その生き方を選ぶのも自由ですよ。
デザイナーって、
さっき医者って言い方をしたんですけど、
翻訳者っていう存在でもあるかな。
デザインってものが、
最終的には人間に届くものなんてだけども、
ひじょうに曖昧な、よくわからないもんなんですけど、
それを自分のわかる範囲で言語化したり、
かたちにしたり、
そういう翻訳者みたいなところがあるんです。
翻訳者もやっぱり言ってる人のことを、
まずよくわからないと翻訳ってできないですよね。
田中 そうですね。
デザイナーって、一般人の視線で見ると、
なんか専門用語ばっかり喋る
特殊な存在みたいな感じで、
かえって翻訳者とは逆の匂いが
漂ってると思いますよ。
佐藤 そういう人、いるんですよ、またね。
「なんでそんな難しい言葉をいっぱい使うの?」
っていう人がね、いるんですよ。
カタカナが多いってよく言われるでしょ。
好きな人もいるんだよね。
「じゃ、プラスティシティなんて、
なんで英語で言うのか?」って
いうのもあるんだけどさ。
「ああ、そっか、俺もそうかもしれないな」なんて
反省する部分もあったりするんだけども。

ワンポイント考察

佐藤さんの職業観、仕事観を聞いていると、
デザイナーが特殊な職業じゃないんだ
ということに納得がいくだけでなく、
むしろ「優れた仕事には共通点がある」ということに、
気がつきます。

「見つける」って、
職種を問わず、
いい社長、いい学校の先生や
いいサッカー選手、いいキャバクラ嬢などなど、
どんな仕事にも大事な力ですよね。

2004-05-07-FRI

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