田中 |
デザイナーという仕事が
医者のような側面を持つ一方で、
翻訳者としての側面があるっていうのも、
面白いですねぇ。
企業のいろんな担当者の思いみたいなものを、
目に見えるものにするとか、
触れるものにするとか、っていう
変換をされてるというのは、
まさに翻訳ですよね。 |
佐藤 |
企業が世の中に提供しようとしてる牛乳がね、
どういうつくられ方でどういう牛乳で、
何を言いたいのか、っていうのを、
よく聞くことによって、生まれてくるんです。
名前を知らせるためには、
そこに文字が必要だと。
で、文字には、やっぱり書体があると。
そうすると、どういうかたちにしたらいいのか、
どういう文字間にしたらいいのか、
っていうことを決めていく作業を
してるわけですよね。
で、それは、よーく聞いて、
聞いたことをかたちにしてあげてるわけで。
自分が何かをしたいっていうのは何もなくてね。
自分でしたいことがあればね、
自分でお金出して、
牛乳をつくればいいのでね。 |
田中 |
それは、見慣れない牛乳に
なりそうですね(笑)。 |
佐藤 |
自分でしたいときは、もうほんとに、
自分で全部やればいいと思うんですよ。
でもそのときもね、
たぶん「自分が」だと失敗すると思うんですよね。
牛乳ひとつとったって、
牛から出てくるわけじゃないですか。
で、どこでそれが採られて、
その牛乳がどういうものかっていうことを見てくと、
そこからやっぱり引き出すものがあるはずなんです。
やっぱり自分じゃないんだよね、デザインって。
どこまでいっても、自分じゃなくて、
やっぱり環境を見て、
環境の中で、人が何に困ってるのかを考える。 |
田中 |
人が困っているところに
デザインニーズはあるんですねえ。 |
佐藤 |
たとえば、ひとつ石を置いてあげることによって、
ものすごく誰でも登りやすくなる場所があれば、
そこに石を置いてあげることがデザインですよね。
それは、「自分が」というよりも、
そこを、階段を上がる人のために、
ここに今あるもので
何をしてあげればいいかっていうことが、
デザインですよね。 |
田中 |
なにもそこに自己表現のためのオブジェは
いらないですしね。 |
佐藤 |
やっぱり見て引き出すことであるし、
「自分が」じゃないんだよね。
デザインってね、「自分が」じゃないんだよね。
どうでもいいんですよ、自分なんか、ほんっとに。 |
田中 |
その徹底的な我の薄さみたいなところが、
佐藤さんの特徴ですよねえ(笑)。 |
佐藤 |
我(笑)。
どうなんでしょうね、
ある人が見たときには、
やっぱり我が出てるかもしれないし、。 |
田中 |
よく個性を消そう消そうと思っても
出てくるのが個性だ、って言うじゃないですか。
佐藤さんのお仕事は、
自分を出そうとか、我を出そうとか、って
されてないんだけども、
たとえば今回の個展のように一覧して見るとね、
そこに何らかの一定のトーンが
漂ってるはずだと思いますけどね、やっぱり。 |
佐藤 |
うん、だから、自分でもね、
さらに客観的になって、
自分の仕事を並べてみたときに、
何が見えてくるのかって
関心があるんですけどね。 |
田中 |
いろんな人が見て、
それぞれの印象きっとあると思うんですよね。
たまたま通りがかったおばあちゃんが個展を見て、
「なんか全体的に賢そうな感じがする」と
言うかもしれませんし。 |
佐藤 |
そう、特別なギャラリーだからこそ、
おばあちゃんとかにね、
ぜひ入ってきてもらいたいんですよ。 |
田中 |
わけのわからないひともふくめて、
普通の人が立ち寄れる
オープンさが欲しいですよね。 |
佐藤 |
今度のギャラリーは約20年ぐらいの歴史があって、
そういう意味で敷居高いですよ。
だから、外の通りから見たときにね、
「デザインの解剖」でつくった
おいしい牛乳のでっかいパッケージとか
見えるように展示したいんです。 |
田中 |
「あー、牛乳の特売かなんかやってるんだ」と
思う人が、
間違って入ってきて欲しいんですね。 |
佐藤 |
そうそうそう!(笑) |
田中 |
実際、商品が個展の中で買えたりすると
面白いですよね、
ロッテのガムとか。
やっぱり佐藤さんの作品って、
子どもでも買えるっていうのが、
いいところですもんね。 |
佐藤 |
そうですね。
なんかそういうこともやってみようかな。 |
田中 |
面白いと思いますよ。
真剣に作品を見ている美大生の横で、
牛乳を買ってる人がいると(笑)。 |
佐藤 |
そう、冷やしとかなきゃいけないですよね(笑)。
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