感心力がビジネスを変える!
田中宏和が、
感心して探求する感心なページ。



第六回
自分を消すデザイン力



田中 デザイナーという仕事が
医者のような側面を持つ一方で、
翻訳者としての側面があるっていうのも、
面白いですねぇ。
企業のいろんな担当者の思いみたいなものを、
目に見えるものにするとか、
触れるものにするとか、っていう
変換をされてるというのは、
まさに翻訳ですよね。
佐藤 企業が世の中に提供しようとしてる牛乳がね、
どういうつくられ方でどういう牛乳で、
何を言いたいのか、っていうのを、
よく聞くことによって、生まれてくるんです。
名前を知らせるためには、
そこに文字が必要だと。
で、文字には、やっぱり書体があると。
そうすると、どういうかたちにしたらいいのか、
どういう文字間にしたらいいのか、
っていうことを決めていく作業を
してるわけですよね。
で、それは、よーく聞いて、
聞いたことをかたちにしてあげてるわけで。
自分が何かをしたいっていうのは何もなくてね。
自分でしたいことがあればね、
自分でお金出して、
牛乳をつくればいいのでね。
田中 それは、見慣れない牛乳に
なりそうですね(笑)。
佐藤 自分でしたいときは、もうほんとに、
自分で全部やればいいと思うんですよ。
でもそのときもね、
たぶん「自分が」だと失敗すると思うんですよね。
牛乳ひとつとったって、
牛から出てくるわけじゃないですか。
で、どこでそれが採られて、
その牛乳がどういうものかっていうことを見てくと、
そこからやっぱり引き出すものがあるはずなんです。
やっぱり自分じゃないんだよね、デザインって。
どこまでいっても、自分じゃなくて、
やっぱり環境を見て、
環境の中で、人が何に困ってるのかを考える。
田中 人が困っているところに
デザインニーズはあるんですねえ。
佐藤 たとえば、ひとつ石を置いてあげることによって、
ものすごく誰でも登りやすくなる場所があれば、
そこに石を置いてあげることがデザインですよね。
それは、「自分が」というよりも、
そこを、階段を上がる人のために、
ここに今あるもので
何をしてあげればいいかっていうことが、
デザインですよね。
田中 なにもそこに自己表現のためのオブジェは
いらないですしね。
佐藤 やっぱり見て引き出すことであるし、
「自分が」じゃないんだよね。
デザインってね、「自分が」じゃないんだよね。
どうでもいいんですよ、自分なんか、ほんっとに。
田中 その徹底的な我の薄さみたいなところが、
佐藤さんの特徴ですよねえ(笑)。
佐藤 我(笑)。
どうなんでしょうね、
ある人が見たときには、
やっぱり我が出てるかもしれないし、。
田中 よく個性を消そう消そうと思っても
出てくるのが個性だ、って言うじゃないですか。
佐藤さんのお仕事は、
自分を出そうとか、我を出そうとか、って
されてないんだけども、
たとえば今回の個展のように一覧して見るとね、
そこに何らかの一定のトーンが
漂ってるはずだと思いますけどね、やっぱり。
佐藤 うん、だから、自分でもね、
さらに客観的になって、
自分の仕事を並べてみたときに、
何が見えてくるのかって
関心があるんですけどね。
田中 いろんな人が見て、
それぞれの印象きっとあると思うんですよね。
たまたま通りがかったおばあちゃんが個展を見て、
「なんか全体的に賢そうな感じがする」と
言うかもしれませんし。
佐藤 そう、特別なギャラリーだからこそ、
おばあちゃんとかにね、
ぜひ入ってきてもらいたいんですよ。
田中 わけのわからないひともふくめて、
普通の人が立ち寄れる
オープンさが欲しいですよね。
佐藤 今度のギャラリーは約20年ぐらいの歴史があって、
そういう意味で敷居高いですよ。
だから、外の通りから見たときにね、
「デザインの解剖」でつくった
おいしい牛乳のでっかいパッケージとか
見えるように展示したいんです。
田中 「あー、牛乳の特売かなんかやってるんだ」と
思う人が、
間違って入ってきて欲しいんですね。
佐藤 そうそうそう!(笑)
田中 実際、商品が個展の中で買えたりすると
面白いですよね、
ロッテのガムとか。
やっぱり佐藤さんの作品って、
子どもでも買えるっていうのが、
いいところですもんね。
佐藤 そうですね。
なんかそういうこともやってみようかな。
田中 面白いと思いますよ。
真剣に作品を見ている美大生の横で、
牛乳を買ってる人がいると(笑)。
佐藤 そう、冷やしとかなきゃいけないですよね(笑)。

ワンポイント考察

我が出ると失敗する、というのは、
佐藤卓さんの柱となる
デザイン哲学です。
また、一般的に言っても、
「作家の我が出てるか出てないか」が、
アートとデザインを分かつ、
大きな分かれ目じゃないでしょうか。
逆に、アートの人には
我を出してもらわないと、
こちら観客サイドとしては、
つまらないわけです。
あの世からでも、怒られるでしょうね。
岡本太郎の太陽の塔を前に、
“我が薄いよ!”なんて、つぶやいたら。

雑念を捨て対象に立ち向かう、
もはや合気道のような
佐藤卓さんの「デザイン道」は、
5月10日から
銀座グラフィックギャラリーで
まとめて見られます。
あまたある作品を前に
みなさんなりに共通性を発見されると、
さらに楽しめるかもしれません。
それはさておき、
近くのうなぎ屋『竹葉亭』の鯛茶漬けは、
おいしいと思います。

2004-05-10-MON

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