田中 |
あの、
「そもそも、なぜ、なに」から入る
佐藤さんの問題との取り組みが、
科学者っぽいですよね。 |
佐藤 |
あ、そうかなぁ。
小さな頃って、
オモチャを壊すじゃない?
時計とか、壊れると、ネジ外すじゃない?
あのまんま大人になったのかもしれないね。
なんでこの針が動くのか。
なんで秒針は速くて、
分針が遅いのか。
“なんで?”って思ったことが
クリアにならないと、
次へいけなかったですね、小さい頃から。 |
田中 |
あー、『子どもの科学』とか、
ああいう理科ものがお好きだったんですか? |
佐藤 |
いや、特別そうでもないですね。
成績が良かったのは、
体育と美術ぐらいだったですね。
絵描くのが、好きで得意で、
大学でデザイン科に入ったんですよ。 |
田中 |
デザイン科を選ばれるってことは、
そもそもデザインに
興味をお持ちだったんですね。 |
佐藤 |
父親がね、デザイナーだったんですよ。 |
田中 |
あ、そうなんですか。 |
佐藤 |
父親とはほとんどデザインの話を
したことないんですけど、
身の回りに転がってたのがね、
プロ仕様の三角定規とかね、
コンパスとかだったんですよ。
父親はなんにも教えてはくれないし、
“やれ”とも一言もいわない親だったんだけど、
そういうものが遊び道具と一緒にありましたね。
父親が使わなくなった
ドイツのコンパスとかね。
今から思うとすんげぇ高いプロが使うやつ。 |
田中 |
デザインする環境が、
刷り込まれてたんですね。 |
佐藤 |
今でも、ハッキリ憶えてるのがね、
小学校に入ると、
みんなおんなじ道具を
買わされるわけですよね。
コンパス、三角定規とか
ビニールに入ったワンセットをね。
で、そのときに、
自分が遊んでたコンパスと
全く違うってことを知ったんですよ。 |
田中 |
目の肥えたガキですね(笑)。 |
佐藤 |
そう(笑)。
当然その違いはわかっちゃうんですよ。
遊んでたものと同じコンパスとして
渡されたプラスチックのものは、
1周描いても、
同じところに戻らない、
鉛筆の芯1本分ずれてるぞ、っていうことに
気づくわけです。
クオリティの違いっていうことが、
わかるわけですよ。 |
田中 |
いきなり硬式で野球してました、
みたいな感じですもんね(笑)。
じゃ、小さい頃から
ずっとプロの道具に触れつづけて、
そのまますんなり
デザイナーの道に入られたんですか? |
佐藤 |
大学に受かって、こんど音楽に熱中してね、
ラテン音楽のパーカッションに
夢中になったりとかして、
ミュージシャンになりたいと、
大学のとき本気で半分思いました。
ただ、音楽を志しても、
なんかいつの間にか、
デザインに惹かれるというかね。
LPレコードなんか買いまくっても、
ジャケットのデザインって、
もう夢のようなメディアだと思うわけです。
昔のロックバンドのLPを買って、
“すっげぇな〜、
やっぱり、こういうデザインを
やってみたいな”とか思って。 |
田中 |
今のCDじゃなくって、
大きかったですからね、
部屋に飾りごたえがありましたよね。
レコードジャケット、あー、そうですよね。 |
佐藤 |
そうそう。
LPジャケットのメディアとしての影響は
大きかったですよ。
でも、自分がいちばん興味があったのは、
実は車のデザインだったんですよ。
もう絵を描くとなると、
なにしろスポーツカーの絵ばっかり
描いてましたから。
だから、なぜグラフィックから
スタートしたのかが
わからないんだけども。
プロダクトがすごい好きだったですね。 |
田中 |
前にハワイのフラドールを
いっぱい集めてたというお話を
うかがったんですけど、
やっぱり物好きというか、
凝り性で物集めに走りやすいほうなんですか? |
佐藤 |
いや、そんなにでもないんです。
下らないものをね、集めるんだけど、
すぐ飽きちゃうんですね。 |
田中 |
収集に疲れた、
ってことになるわけですか?(笑) |
佐藤 |
ちょっと興味があるから、
自分が純粋に欲しいと思うから、
手に入れて、
自分の身の回りに置いておきたいなって
思うじゃないですか。
で、思ってる間、買うだけなんですよ。
どうせ、どんなものにでも
もっともっと集めてる人たちが、
病的な人たちが
世の中には山ほどいるわけだから。 |
田中 |
それは、他のひとに任しとけばいい、
ってことになりますよね。
じゃ、コレクターじゃないですねえ。 |
佐藤 |
もう明らかにコレクターじゃないですね。
でも、そういうところからも、
すごく得るものが多いですよね。
たとえばキャラクターひとつとったって、
タンタンを欲しいなと思ったら、
買うために歩き回るじゃないですか。
で、自分が気に入るか、
何がかわいいと思うか、なんですよ。
“あ、こりゃかわいい”とかね、
“面白いな”、とかね思うじゃないですか。
で、それを、手に取った後に、
これの何が俺にかわいいと思わせたのか。
何が面白いと思わせたのか。
その後で考えるんですよ。
で、そうすると、この目の妙な描き方だな、
それから、それに伴ったこの質感、
日に焼けたこの色‥‥ってことが、
こう箇条書きのように出てくるわけですね。 |
田中 |
はぁ〜、科学的ですねぇ(笑)。 |
佐藤 |
それまでいかないと、嫌なんです。
これの何が自分を惹きつけたのかと。
ジーッと見ますね。
たとえば古いビンひとつとって、
“うぉ、これは面白いな”と思って、
その場で時間がないじゃないですか、
だから買っちゃうわけですね。
で、買っちゃって、
家にこう飾ったり置いといたりして、
“待てよ、これ、何が惹きつけたんだ?”
そうすると、ガラスの表面の、
今はない、昔のこのいい加減な、
この不完全なガラスのこのテカりが、
逆に今、あんまり見ないんだな、とか。
あ、泡が入ってるなんてのは今ないな、とか。 |
田中 |
あ、だから、買うっていうのは、
魅力の分析の時間を買ってるんですね、きっと。 |
佐藤 |
うん、もう、まったくそうですね。
だから、分析が終わっちゃうと、
もうぜんぜん興味ないんですよ。
自分にとってはもう分析しきっちゃった
ものになるので。
だから、小さい頃の時計が壊れると、
中がどうなっているのかって
分解した気持ちと変らないですね。
時計のネジを見たときの、
人がつくっているものの素晴らしさの感動って、
なかなかないですよね。 |
田中 |
知らないから知りたいという
解剖欲ですよね(笑)。 |
佐藤 |
それは誰でもあったと思うんですよ、たぶん。
それがだんだんと疑問に思わなくなって、
目の前にあるものが
当たり前になってきて、っていうのを
もう一回戻るという作業ですね。
だから、意外と小さいころのまんまかもしれない。 |
田中 |
その好奇心もあまり度が過ぎると
変態になるわけじゃないですか(笑)。 |
佐藤 |
うん、なるなるなる。
かなり危ない世界へ行きますからね。 |
田中 |
好奇心と変態は紙一重みたいなところが
ありますよね(笑)。
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