田中 |
佐藤卓さんの科学者っぽいというあたりって、
実は佐藤雅彦さんとの
共通点かもしれないですね。 |
佐藤 |
そうですか。 |
田中 |
佐藤雅彦さんも、
CMづくりっていう、
それまで文学部の仕事みたいな、
文科系の仕事だったのを、
理系的にした人じゃないですか。 |
佐藤 |
うーん、まったくその通りですね。 |
田中 |
卓さんの話、
科学的ですよね。
着想であったりとか、
分析する態度であったりとか。
そこから、違うアイデアを生み、
問題を解決するとか。
そのへんの理系な感じをね、
強く受けますね(笑)。 |
佐藤 |
だから、雅彦さんとやってるときはね、
ほんっとに合いましたね。 |
田中 |
あっ、そうでしょうねぇ。 |
佐藤 |
ものすごく合いましたね、
仕事の進め方や考え方が。
面白かったのはね、カップ麺って、
化粧品みたいなおしゃれなデザインにしたって、
絶対売れないじゃないですか。
我々ラーメン屋に行くときに、
洋服のブティックに行くような気持ちで
ラーメン屋を探さないですよね。
でも、“あ、うまそうだな”って思う
ラーメン屋って、ちょっと汚いし、
なんかこう、モダンデザインでは
とても語りきれないような
デザインなわけですよね。
いわゆる、唾液を出させるって
いうものですけど。 |
田中 |
その感じはよくわかりますねえ。
店が油っぽいほうが、うまそうですし。 |
佐藤 |
東洋水産のカップラーメンのデザインを
一緒にやってるときにね、
僕はいろいろ工夫しながら作るわけですよ。
それで雅彦さんの事務所で、
棚に置くわけですよ。
でね、2人して、こう見るわけですよ。
“ちょっと待って、ちょっと置いてみよう”
置いてみてね、
“どっちかなぁ?”とかっていって。
で、雅彦さんなんかもう、
“デザインとしていいのは、右だな。
だけど、買うのは左だな”とかって
雅彦さんが言うのね(笑)。
うん、ほんとにそれってね、
カップラーメンのデザインを考えるときに、
すごく重要な視点なんですよ。 |
田中 |
そうですよね。
ほとんど研究者の会話ですよ、それは(笑)。 |
佐藤 |
デザインとしていいかどうかじゃないんですよ。
唾液が出るかどうかとか、
やっぱりどーうしても食べたくなるかどうか、
っていう。 |
田中 |
MOMA(ニューヨーク近代美術館)に
飾られるのを
求められてるわけじゃないですもんね。 |
佐藤 |
そう。
ところがデザイナーっていうのはね、
デザインとしていいものを作っちゃうんですよ。
どうしても。
で、それは世の中のデザイナーは、
ほとんどそうなんですよ。
でも僕と雅彦さん、
いっしょだったんです、
唾液が出るかどうかで選ぶ。
で、こんな人がいるんだ、と思って。
僕もそうやっていつもね、
自分をできるだけ遠くに置いて、
客観的に、これ、俺がやってないとしたら、
“どっち買うかな?”っていう。
やっぱこっち唾液が出るな、って思ったら、
そっち選びます、僕は。 |
田中 |
そっちのほうが、
食べられたくなる信号みたいなものを
デザインが発してるってことですものね。
「唾液を出させるデザイン」って、すごいですよ、
その考えがすごい(笑)。 |
佐藤 |
その「唾液を出させるデザイン」っていうのは、
あんまり本気で語られてきてないんですよ。
近代モダンデザインでは、
一切語られてません。
どこにも出てないです。
でもね、唾液を出させるってね、
デザインの話だけじゃなくて、
心理学の話や、認知科学の話や、
いろんなところに重なってる気がするんですよね。
人間が持ってる感覚を総動員して、
唾液って出るわけですから。
過去の経験なども引き出されながらね。 |
田中 |
また、言語化しにくい領域でしょうしね。 |
佐藤 |
だって、カレーなんて
食べたことがない人が見たら、ウンコですよ。
あれはうまいってことを知ってるから、
カレーの写真を見て、
唾液がちゃんと出るわけですよね。
ってことは、今までの経験をどう引き出すかなので、
あのシズルの写真が
よくカレーのパッケージに付いてるわけですよね。
デザイナーはね、
“こんなものは入れたくない”とかって
言うわけですよ。 |
田中 |
でしょうね。
“きれいじゃない”とか、
“美しくない”とか言ったりして。
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佐藤 |
どうぞやりなさい、って、僕は思うんですよ。
売れないから、って。
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田中 |
売れるデザインからは
逃げることになりますよね。
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佐藤 |
だから、紀伊国屋とか帝国ホテルのカレーは、
カレーのシズルが
入ってなくてもいいんですよね。
帝国ホテルのブランドってものがあるから、
それが引き出されてくるから、
それによってうまそうだ、って、
唾液が出るんだけども、
一般のスーパーマーケットや
コンビニに置かれるものでは
なかなかそうはいかない。
そういうことを冷静に判断して、
やっぱり人間と人間を結ぶ普遍を
見つけていくっていうことをしないと。
みんなの頭の中を繋ぐことができるのはどこなのか。
で、ある、目盛りを合わせたときにね、
ピッと合わせたときに、
ピピピピピピピピ、っと
人の頭をつなぐところがあるんですよね。
その目盛りを探してるみたいなもんですよ、
デザインというのはね。
ちょっとでも目盛りがずれると、だめなんです。
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