田中 |
もし「唾液を出させるデザイン論」を
突き詰めようとすると、
人類の英知集めて、
“さて、どうする?”みたいなことに
なってしまいますね。 |
佐藤 |
これが、デザインの中でもいちばん難しいね。
食べもののデザインより、
化粧品のデザインのほうが簡単です。
美しいものを作ればいいんですよ。
化粧品のデザインはね、左脳でできますね。 |
田中 |
あ〜、なるほど〜。 |
佐藤 |
たとえばね、
すごくきれいなね、四角い箱に
ロゴを1個、小さく入れました。
これ、きれいですよ。
これは、理屈で作れます。
でも食い物は、これでは届かない。 |
田中 |
あ〜、手が出ないですね、それでは。 |
佐藤 |
手が出ない。
人間の持ってる感覚を、
総動員して考えなきゃいけないですね。
自分がデザインという
視覚伝達から入ってるので、
そういう関心がどうしても深いのかも
しれませんけど、
視覚っていうのは、
全ての感覚を引き出すわけですね。
場合によっては臭いも引き出しますよね。
やっぱり、
ウンコを見たときに
ウンコの臭いを引き出す。
記憶が蘇るわけですよね。
ただ、視覚っていうのは、
いろんな感覚を引き出す力を持っちゃっている。 |
田中 |
視覚が、すべての感覚の引き出しになるような
強さがありますよね。 |
佐藤 |
だから、
この唾液が出るか出ないかっていうのは、
同じことが二度とないんです。
そのラーメンがどういうラーメンかによって、
それは違うわけじゃないですか。
たとえばお蕎麦だって、
田舎蕎麦もあれば更級もある。
都会的な蕎麦もあれば、
田舎っぽい蕎麦もあって、
それがパッケージが同じでいいわけがない。 |
田中 |
美は取り替えがきくけども、
唾液はそうはいかないわけですね。
あー、そうなると、
それを見る場所や環境にもよっても
唾液の出方は変ってきますね。
南国のラーメン屋と北海道のラーメン屋では、
店舗のデザインや
メニューの書体が変るでしょうしね。 |
佐藤 |
そうそう、だから、
環境とともに情報っていうのは
届くということです。
だから、紙1枚、われわれがこう見て、
この紙1枚の情報だけが語られてるかというと、
そうではないわけです。
その紙に当たってる光はどうなのか。
その紙が置かれたテーブルの質感はどうなのか。
今の気温はどうなのか、湿度はどうなのか。
そういうことも含めて、
紙1枚からラーメンの情報が書いたときに、
唾液が出るか出ないかなんですよね。 |
田中 |
佐藤さんのご関心としては、
そういう繰り返しやコピーが効きにくい
「唾液を出させるデザイン」にある一方で、
マスプロダクトをデザインされてますよね。
大量に生産されて大量に消費される
チューインガムのような商品の場合、
それが消費される環境とか
ユーザーに届く時間とか、
お構いなしに、
最終的には消費されたり使われたり
するわけでしょう? |
佐藤 |
まったくお構いなしだね(笑)。 |
田中 |
ましてやガムだと、
おじいちゃんおばあちゃんから子供まで
食べるわけじゃないですか。
一回一回に特殊な対応を
求められるようなデザインの一方で、
「唾液が出る」っていう普遍的なところを
追究されているのが面白いですねえ。 |
佐藤 |
確かにね、それは、醍醐味なんですよ。
でね、それを醍醐味だと思ってる人はね、
そんなにいないかもしれない。
それを醍醐味だと思えてるのはうれしい。
実はすっごく難しくてね、面白い。
難しいから、やりがいがあるんです。 |
田中 |
はあー、そういうもんなんですか? |
佐藤 |
一般には、デザイナーにとっても、
何をデザインしたいかという
好みがありますから、
「食品のパッケージなんて」っていう
気持ちで携わっている人もいるんですよ。
どうしても車や家具のデザインをやってみたい、
という人がいますから。
たとえば、レトルトカレーのパッケージって、
インドのほうからカレーが渡ってきてから、
日本で進化を遂げてね、
ものすごい技術で、今に至ってるわけですよ。
そして、中身が見えない
箱でしか伝えられない商品です。
もしパッケージが透明で、
カレーのルーや具材が、いろいろ見えたら、
それでシズルって出てくるじゃないですか。
だけど、紙箱になっちゃう。中身が見えない。
じゃ、見えない中身をどう伝えて、
唾液を出させるかって、
すっごい難しいんですよ。 |
田中 |
制約があるほうが燃えるんですね(笑)。
保存とかコストを考えると、
レトルトカレーのパッケージは、
今の形態に落ち着いてしまうんでしょうね。 |
佐藤 |
車なんて見えるんだもん。
車がね、大っきな箱に入っててね、
箱売りしなきゃなんないんだったら
難しいっすよ。
写真を撮ってね、
パッケージにその写真をレイアウトして(笑)。
車の箱売りって、
面白いかもしれない(笑)。 |
田中 |
巨大プラモデルみたいなことですね(笑)。
車の売り方もそうとう変るでしょうね。
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