江戸が知りたい。
東京ってなんだ?!

テーマ9 昭和のわが家の電化製品。

その4 リビングは父性、台所は母性?

新田 そうして見ていくと、昭和30年代前半、
1950年代後半辺りから
デザインで物を売ろうという動きが出て来た。
機能美からだんだん
デザインされたものっていうのが。
そういう中にテレビっていうものが、
ラジオよりかなり上等なものとして
あったと思うんですよ。
テレビも一番最初の頃は
本当のお金持ちしか買えなかったんで、
こういう仏壇みたいな、格調の高い。
ほぼ日 昭和28年、戦後すぐのテレビですね。
観音開きのトビラがあって。
新田 これ、テレビの放送が始まったと
同時くらいに
アメリカから輸入されたものですね。
いま40歳くらいまでの人は、
生まれたときにはすでにテレビが
家にあった世代になるんですよね。
ほぼ日 その前は街頭テレビの時代?
力道山の試合を街頭テレビで見る、
みたいな話ですよね。
新田 カタログに、東京都内における
家庭電化製品の普及率の表を
掲載しているんですけれど、
昭和39年の段階で白黒テレビに関しては
97%の普及率でした。
ほぼ日 すごい。
新田 テレビが大ブームっていうか、
すごく普及したきっかけには
一つに昭和34年の‥‥
ほぼ日 オリンピック?
新田 東京オリンピックは39年。
34年は、皇太子と美智子妃殿下の
御成婚ですね。
ミッチーブームの時に売れたらしいんです。
ほぼ日 そうか、これで一気に買うぞって
景気が上がったんだ。
新田 景気も良くなって来た時期だし、
テレビの値段もだんだん安くなってきて、
それで売れ始めた時期なんですよ。
で、もうオリンピックの頃には
ほとんどの家庭に白黒テレビがあった。
東京都の調査ですけどね、あくまでも。
やっぱり、テレビの普及っていうのは、
ちょっと難しめに考えてしまうと、
行動文化の形を変えたような気がするんです。
都市とかいろんな場所でやる
イベントっていうのは、
会場があって舞台があって人がいて
イベントがあったわけじゃないですか。
スポーツにしてもそうですよね。
観客がいて、競技がある。
で、テレビっていうのはその距離を
お茶の間対会場みたいな形で
分離してしまった部分があるんで。
オリンピック話なんですけど、
東京オリンピックって一番売れたのが
ワールドカップと違って開会式なんですよ。
開会式の入場券がめちゃくちゃ売れて、
各競技の入場券は予約受付では
けっこう満杯になってたんだけど、
当日になってみるとキャンセルが
いっぱい出た。
何故かって言うと、
テレビで見てる方が
よっぽどよく見れるから(笑)。
ほぼ日 今は成熟して、会場の雰囲気を楽しみに
会場に行くようになっていますけれどね。
新田 東京オリンピックの開会式は
「お祭り」だったから売れたんですよね、
そういう都市と田舎を
引き寄せちゃうみたいな、
都市が肥大化しちゃうみたいな役割を
テレビが担ったのかもしれません。
で、デザインなんですけど、
テレビが出始めの時って
箱形なんですよ。
ほぼ日 そうですね、脚がない箱のテレビ。
新田 テーブル型テレビ。
卓上型ですね。
ほぼ日 卓の上に置くと。
新田 で、テレビ台とセットで
売られたりとかしてたものなんですけど、
昭和34年の段階で既にそうですけど、
脚が伸びて来る。
ほぼ日 ほんとだ。
新田 1950年代のSFのイメージの
火星人みたいな脚が出て来る。
ほぼ日 細い脚が。
新田 で、脚が出て来るっていうのが
どういうことかっていったら、
テレビを置くための場所っていうのが
用意できるようになったっていうか。
ほぼ日 うんうん。
新田 で、高さも決まってますよね。
高級化の一つなのかなと思います。
在り合わせのものに乗っけるんじゃなくて、
テレビはテレビとして置けるんだよという
空間の使い方だったんじゃないのかな。
さらに昭和39年になると
ほとんどの家にあったわけだから、
買い換え需要を喚起しなくちゃいけない。
ほぼ日 はい。
新田 で、やっぱり機能の方も
カラー化っていうのが進んで来た時期が
昭和30年代の後半なんですけど、
やっぱりまだ白黒が主流だった。
それで白黒をどうやって売ろうかっていう
時に出て来たのが、
「家具調」なんです。
ほぼ日 キャビネットみたいですね!
うちもこの手のはあった。
新田 私も物心付いて初めて見たテレビは
このタイプだと思います。
これはいわゆるコンソール型っていう名前で、
高級なテレビを表す名前ですけど、
この時代、テレビが2台目の
買い換えの時代になると、
このコンソール型に買い替えるようになった。
ほぼ日 ふんふん。
新田 そこで差別化のために、
これは「嵯峨」っていうテレビなんですけど、
和風のデザインと和風のコンセプトが
入ったんですね。
ほぼ日 なにしろネーミングが「嵯峨」ですからね。
新田 ライフスタイルの提案っていう意味で
テレビの見方っていうのも含めて
広告で提案してるテレビなんです。
“暮らしに溶け込んだテレビを
 静かに味わっていただくために
 実現した黄金シリーズ「嵯峨」。
 話題のステレオ「飛鳥」「宴」「潮」
 などとともに日本美シリーズの持つ
 優雅さをお楽しみください。”
で、ここの文章でやっぱり訴えて来るのは、
テレビっていうのは当たり前の
ものだったっていうこと、
それとその見方ですよね。
静かに味わうようにテレビを見てみたら
どうだ、そろそろっていうとこ。
それにもう一つ、優雅さみたいなもの、
静けさ、優雅さっていうものを
イメージする言葉として、
和風の漢字二文字の商品名がある。
ほぼ日 なるほど。
新田 で、「日本美」っていう言葉が入っている。
このテレビが登場したのが
昭和40年なんですよ。オリンピックの翌年。
で、それまでのいわゆる
高級テレビっていうのは
かっこいい名前が付いてたんですよね。
インスタントビジョンとか
ゴールデンコンソールとか。
スタービジョンとか。
ほぼ日 ほんとですね。
新田 その中に和の名前が出て来た。
ほぼ日 嵯峨。
新田 これが大ヒットしたんです。
嵯峨の特徴的な形としては
脚が本体と一体化してる。
天板が出てる。
これは北欧家具か何かの
センスを取り入れたものだっていうふうに
言われてますけどね。
で、家具調っていうテレビがその後何年間か、
しばらく、いわゆる大型の
コンソール型っていうテレビの
基本パターンになっていく。
ほぼ日 これ、広告がここにありますけど、
2台目の需要を喚起してますね。
新田 そうですね。
ほぼ日 “画と音がすぐ出る”ってことは
1台目はつまり、
すぐに画面と音が出なかった。
つけてしばらく待ってると
だんだんジワーって出て来た。
でもこれは早いと。
じゃあボーナスで、
部屋に合わせて2台目をどうぞって。
新田 うん。
ほぼ日 でも高い!
新田 高いですよね。
ほぼ日 だって昭和40年に
6万8500円ですよ。
新田 今の40万円くらいの
感覚だと思いますよ。
ほぼ日 でも‥‥いまは安いテレビも
いっぱいあるけど、
今出てるプラズマ系の液晶の
おっきいやつってすごい高いですよね?
100万円とか平気でする。
そういう意味では、変わってないかも。
新田 当時は、もう景気が良かったから。
今だって、景気が良ければ
借金してでもプラズマテレビ
買っちゃおうかなって思うでしょうね。
この家具調の「嵯峨」ですが、
それより前に「飛鳥」っていう
ステレオがあったんですよ。
ほぼ日 あ、これもきれいですねえ。
新田 きれいな形ですね。これは美しいですよ。
このデザインコンセプトっていうのが、
正倉院に見られるような
校倉造りなんだそうです。
日本美っていうのを表現をしてる。
主張してますよね、このデザイン。
ほぼ日 きれいですね。きっといい木を
使ってるだろうし。
これ、上の天板を開けると
中にターンテーブルが出て来るタイプですね。
いや、ステレオって
大きいもんだったですよね。
しかし‥‥こういうふうに、
娯楽のための電化製品のデザインが
どんどん洗練されていくのに
台所は、こないだの「花柄」ですよ。
台所用品は機能美の世界から
一足飛びに「花柄」に行っちゃった。
どうも解せない(笑)。
同時にあったんですよ、
家具調テレビと花柄家電が。
それが昭和のふつうのお家だった。
家具調だけだったら
とても品のいい暮らしぶりだったんだけど。
新田 例えばリビングに置かれるものが
多分この当時の家庭のお父さん、
父性というか、威厳、格調みたいなものを
示してるとすると、
台所用品は、母性なんでしょうね。
ほぼ日 なるほど。母性ですね。
新田 で、その中間くらいの。
ほぼ日 お兄ちゃん?
新田 お兄ちゃんくらいのが、
ラジオなどの個人が持つ電化製品の
デザインという位置づけかもしれません。
ラジオがどんどん自由になるわけですよね。
もとは、真空管ですから大きいんです。
ほぼ日 形の呪縛があるんだ。
でも、こうして見ていくと、
アメリカのデザインが入ってきて、
真空管からトランジスタになって、
どんどん洗練されていく感じが
明らかにわかりますね。
ラジオのデザインが
機能的で、ポップになって、
かつ、挑戦的になっていく。
思いきった原色を使ったり。
新田 この時期の一つの特徴かなって。
全てにおいて装飾化なんですけど、
高級指向・木目指向っていうのと、
花柄っていうのと、
あとは原色べったりみたいな色っていうのが、
需要の喚起に使われていったんじゃないかと。
ほぼ日 機能面では、高性能化は限界があるから
電卓とそろばんが一緒になった
「ソロカル」なんていう
複合化されたものが出てきたり。
新田 ラジオとカメラで「ラジカメ」とか。
こういう展示品、意外と受けがよくて、
ラジカメとかソロカル置いてあるところでは、
ちっちゃい子が直立不動になって
口開けて見てるんですよ。
よっぽど不思議なものなんでしょうね。
ほぼ日 たしかに、必要ない(笑)。
でも強烈に記憶に残りますね。

さて、次回で今回の「東京流行生活展」についての
連載はおしまいになります。
最後を飾るのは「パンダ」です。
どうぞお楽しみに〜〜!

2003-11-13-THU

BACK
戻る