ほぼ日 |
今回の展覧会を見ると、
応挙がいかに「目には見えないもの」を
絵に遺そうとしていたかを感じました。
僕らが応挙のことをよく知らない時、
円山応挙と言えば「幽霊」って
ぱっと思ってたんです。
でもなぜ応挙は幽霊を描いたのか、
唐突に何で幽霊が出てくるのかなって
最初は思ってたのが、順番に見ていくと、
幽霊に至る道のりみたいなのが
見えてきたような気がするんです。
見えないもの、感じるしかないようなもの、
あるいは具体的には描きにくいもの、
雨とか風とか氷とか雪とかですけど、
そういうものを描いていった先に、
ひょっとして幽霊があったのかなあ、
なんて思いながら見たんです。
展覧会のテーマにも「虚の写生」
といいう言葉がありましたね。 |
江里口 |
そうですね。 |
ほぼ日 |
応挙が写生から入ったっていう話を
前回、していただいたんですけど、
「虚」を描くっていうことに行ったような
経緯やら何やらを教えていただきたいなあと
思っています。
例えば、「見えないもの」をどう表現するか、
これもびっくりしたんですけど、
滝を登る鯉。その水の表現が! |

『龍門鯉魚図』(二幅のうちの一幅)円山応挙 大乗寺蔵
*東京展では展示されていません。
『龍門鯉魚図』(部分)円山応挙 大乗寺蔵 *東京展では展示されていません。
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江里口 |
『龍門鯉魚図』。斬新ですよね。
これ、じつは、
「何も描いてない」んですよね。 |
ほぼ日 |
水の流れに遡って泳いでいく鯉を
描いているんですが、
実はその流れっていうものを
「描いてる」ようで、じつは
「描かないことで表現している」んですね。
印刷用語で言うと「白ヌキ」(*)ですね。 *白ヌキ=インクをのせないことで
紙の色をそのまま白く残すこと。 |
江里口 |
そうですね。「描かない」。
鯉の全身を描いてから
白い顔料をのせたわけではなく、
はじめからこういうふうに描いているんです。
これは本当に斬新ですよね。 |
ほぼ日 |
やっぱり応挙の前にはなかったんですか?
こういうやり方は。 |
江里口 |
こういうやり方はないと思います。
もともと、この時代の狩野派にしても、
どちらかと言うと筆力っていうか、
筆の勢いとか、描法の方を
大事にしてますから、
白ヌキにするってことはなかったでしょうね。 |
ほぼ日 |
じゃあ、応挙にとっての狩野派の技術は
守り続けるためのものではなくて、
その技術を使って、
自分のやりたいことができる自由を
手に入れたみたいな感じなんですね。 |
江里口 |
そうですね。狩野派の技術、
プラス・アルファでしょうね。
応挙にはこういう例が
他にもいろいろあるんです。
たとえば「龍」や「虎」ですが、
当然「龍」とかっていうのは
もちろん中国にもあるし、
狩野派だってみんな描いてますよね。
でも応挙はまた違うんです。 |

円山応挙 東京国立博物館蔵(植松家旧蔵)
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ほぼ日 |
あれ? 龍は架空のものですけれど
虎は、実在のものですよね? |
江里口 |
虎は架空の動物ではないけれど、
当時の日本では誰も生きた虎を
見たことがなかったんですよ。 |
ほぼ日 |
あ! だから、龍と同じような
ものだったんですね。
応挙の龍や虎は、どう違うんですか? |
江里口 |
応挙はとにかく自分の目で見た経験とか、
本物らしく見えることを大事にしますよね。
すると、架空のものであっても、
現実にあるかのように思わせるような
表現を追求していったんです。
龍の場合、本草綱目や、
中国の書物などにも、
龍がどういうものだっていうのが具体的に
説明されているんですね。
龍の目は鬼の目で、耳は牛の耳、
顔はらくだ、角が鹿の角、
首の辺りは蛇のウロコ、爪は鷹の爪。
そういう記述が出てきたらしいです。
応挙の場合は、
それを自分の近いものに合わせて、
実際にいるものは写生をして、
ないものは探求して創造して、
それを合成したんです。
いかに本当の写実に近付けるか、
という努力をしていたんですね。 |
ほぼ日 |
では、応挙以前にあった龍とは
やっぱり違うんですか?
応挙じゃない人が描いた中国の絵の龍とは。 |
江里口 |
もちろんどちらも「龍だ」とわかる
描き方になっていますよ。
けれども、応挙の龍は、
パーツを写実に求めていることで、
リアルさ、生き物への近付き具合、
そういうものが、違うと思います。
そこで「リアルさ」っていうのが
出たのではないかと思いますよ。 |

『雲龍図』(部分)円山応挙(重要文化財)個人蔵
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ほぼ日 |
龍って、題材として、よく見ますね。
これだけたくさん描かれてるってことは
需要もあったんですか? |
江里口 |
そうですよね。もともと仏教では、
龍神は水の神様として、水を司るものですね。
実際にこの応挙の雲龍図も
もともとは京都の「東寺」(とうじ)に
伝わったものだったんです。
実際にお寺の儀式で使われていたそうです。 |
ほぼ日 |
あ、そういうことですか!
ありそうですね。
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