ほぼ日 |
そうして──最後に、
慶喜の肖像写真が出るじゃないですか、
展示会場で。
洋装でハンティングしてる。
これを見ると、
ああ、江戸時代は終わったんだな、
っていう感じがしました。
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徳川慶喜肖像写真 写真提供:茨城県立歴史館
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市川 |
これ、なにが面白いってね、
セットなんですよ。見てください、
後ろの木とか、描いてある。
スタジオのセットなんですよ(笑)。
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ほぼ日 |
しっかし、
めちゃくちゃおしゃれですよね。
最後でこんなに洋装をして、
犬まで。
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市川 |
めちゃくちゃダンディですよね。
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ほぼ日 |
もう江戸のは終わったんだ。
でも、こういう人だったから、
無血開城みたいなことに
なったんだなって、
ちょっとそういう感じですよね(笑)。
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市川 |
魅力的な人物なんですよ、
徳川慶喜って。
顔がいいでしょ。頭がいいでしょ。
演説がめちゃくちゃ上手かった
らしいんです。
で、彼が演説ぶつと、
みんなンーッて聴いて、
ウワーッて感じなんですよ。
天性のリーダーシップっていうか
政治家的な才能は持ってるわけですよ。
筆を持ったら、
もうめちゃくちゃ上手い絵を描いて。
人によっては、日本で最初の
洋画家っていうのは慶喜だって
いう人がいるぐらい
油絵とかすごいですよ。
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ほぼ日 |
才気ある人だったんだ。
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市川 |
ええ。字を書けばもう最高ですよ。
僕この人の字はもう、
歴代の中で最高に上手いと思います。
能書家ですよ。ほんとに。
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ほぼ日 |
器用な人だったんですね。
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市川 |
器用。で、はまると、
もうなんでもはまっちゃうんです。
写真にはまって、
プロのカメラマンみたいになる。
絵を描いたら画家のようになる。
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ほぼ日 |
残影のセクションで、
ほかにおすすめはありますか?
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市川 |
松本良順の二行書です。
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ほぼ日 |
いちばん最後の最後だ。
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松本良順二行書 近藤登之助氏蔵
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市川 |
これはね、もしも松本良順筆だと
わかんないと、何のこと言ってるのか
さっぱりわかんないんです。
松本良順っていう人は、
当時もっとも西洋の先端文明を吸収した
最高の知識人なんですね。
近藤は松本良順と対極的な位置にあります。
ある意味で、伝統的価値観に忠実というか、
復古的ともいえます。
彼が近藤勇のことをとっても
高く評価するんです。
近藤と、もうほんとに
意気投合するわけですよね。
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ほぼ日 |
年齢的には、近藤とは‥‥。
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市川 |
近藤のほうが、2才若いです。
松本良順は、近藤亡きあとも、
「殉節両雄之碑」を作るために、
いろいろ運動をしましたし。
近藤は明治維新の逆賊ですから、
その碑を立てるっていうのは、
なかなか難しいんですよ。
お金もかかるし許可も必要だし。
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ほぼ日 |
それでも碑を立てたんですね。
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市川 |
そして、この二行書です。
すごく難しいんですけど、
「世事は獺(かわうそ)のごとく
龍を嘲り‥‥」
獺と龍っていうのは、
似て非なるものみたいなものの
たとえですね。龍と似てるけども、
ぜんぜん違うと。ですから、
世間は龍のように素晴らしいものの
価値をわからずに獺だっていうふうに
笑っておる、というわけです。
で、「人情は狐のごとく虎を借る」。
虎って何かっていうと、
この薩長閥によってできた
明治政府のことなんです。
ですから、今もうみんな長いものには
巻かれとかいう感じでいて。
新しい時代がやってきて、
もうそういう権威的なものに
流されてることに対する批判ですね。
近藤たちのような節に殉ずるがあまり
死んでった人のことを、
ほんとにわかってない。
明治維新っていうのは、
勝者の歴史であって、
明治になってから編纂される
明治維新史っていうのは、
明治政府成立過程なんですよ。
そういうふうな縦糸を作っちゃうと、
近藤勇はそれに敵対した悪いヤツだって
いうふうにしか見えないわけですよね。
みんなそういうふうに思い込んでる
というふうなことを批判してるんです。
人間の価値は、誰に反発したとか、
そういうんじゃなくて、
どういう生き方をしたかっていうふうに
見なきゃいけないはずじゃないですか。
誰に刃向かったからダメとか、
そういうんじゃなくて。
ほんとうの価値を見抜く力がないって
いいますか。
おそらく、世間で言われてることを
そのままうのみにしてるだけって
いうことなんでしょうね、きっと。
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ほぼ日 |
いい詩ですね。
なんか、最後にいいですね。
どうもありがとうございました!
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