CHILD
これでも教育の話?
どんな子供に育ってほしいかを、
ざっくばらんに。

第9回 表現できないものは閉じていく


内田 東京都の校長先生たちの中には
頭で描くビジョン等をビジュアル化できないで
悩んでる人が多いんですよ。
まず、5人のうち3人はパソコンが
できないんじゃないでしょうか。
校長先生の平均年齢は55〜56歳ですから。
自分の考えを操作して出せる人は
方針を先生方にも生徒にも見せられるんです。
糸井 先生方って、絶えず板書をなさっていますよね。
黒板の中で図解する能力は
たけているんじゃないかと思うんですけど、
そんなことはないんですか。
内田 違いますね。
糸井 ぼく、社内のミーティングで
事務所の連中に怒ったことがあるんです。
「おれがいったことを箇条書きするなよ、
 図にしろよ(笑)」
内田 ビジョンはあるが、
表現に乏しい人が多いんです。
そういう人は、ものごとを
うまくイメージできないでいる。

例えば、管理者、教員、職員の関係に
問題があるということで、
企業の組織を見習えと
簡単にいわれています。でも、
そういう文字的な提案ではだめなんです。

企業でも学校でも、
社長なり校長なりを頂点に、
人間の三角形ができます。
校長が「こっちだ!」といったときは、
その三角形がスーッとついていくような、
そういういい結果だけをみんな、
想像しているんですね。
だから、校長の意見に先生方が従わないと、
それだけで困ってしまいますよ。
そういう考えじゃだめなんです。

企業でも学校でも、
人間の三角形の中にはものすごい
泥臭いコミュニケーションが入っているんです。
いろいろ職位がありますけれども、
例えば現場の人間に対して、
「おい、君のとこのおばあちゃん、
 調子悪いそうだな」とか、
「お姉ちゃん、結婚するそうだな」とか、
上のものが声をかける。
そんな中で、きついこともいったり、
怒ったり、褒めたりもする。
ただ単に
「意思統一させて、やれ」
というのではだめなんです。
三角形の中のコミュニケーションを
いろんな方向でとらえなければいけない。
校長自身が先生方とコミュニケーションを
とらないのに、いうことを聞かないからといって
怒ったりする。
糸井 ビジュアル化することで
新しい関係を入れ込むといいですよね。
内田 そうなんですよ。そして、
自分の考えもどんどんぶつけていくようなものを
口頭じゃなくて、やっぱり資料にして出さないと
やはり先生方は理解しないし、
生徒もわからないです。
ましてや、保護者なんてね。

保護者の理解は得にくいといわれたものだから、
わたしは自分の方針を
着任後の5月連休明けに
全保護者に説明したんです。
「13年度は学校は
 こういうことをやっていきます」と。
みなさん、よく理解してくれた。
保護者というのは
理解すると変わるんですね。
次に、保護者のほうから提案してくるんです、
批判じゃなくて。
糸井 それぞれの人たちが、
社会で培ったものを持っていますからね。
内田 そう。そうすると、
「校長、ああいうことをいったけど、
 あそこの学校ではこういうこともやっているから、
 このこともいいですよ」
とか、前向きな意見が出てきて、
うまく回り出す。これはものすごくいい。
糸井 通じた途端に、
何かが見えてきますね。
内田 そういうことが学校の世界では
ものすごく大事なんです。
学校が閉鎖的だといわれるけれど、
学校は情報を開示しないわけではない。
表現できないから、
閉鎖せざるを得なかったんです。
糸井 ・・・そうか。
表現力って大きいですねえ。
内田 わたしは資料を全部提供していますよ。
みんなばらまいています。
糸井 情報開示を、見やすいかたちでね。
学校の中の情報の共有も?
内田 やってますよ。
学校のデータはホームページで見れるように
なっているんです。
これには先生方も、はじめは文句をいいましたよ。
でも、
「先生方の努力が
 格好いい数字で並んでいるからいいだろう」
といって、流しちゃった(笑)。
糸井 いいですねぇ。
内田 目に見えるハードの部分でも、
学校は企業と比べて
ビジュアル化できている部分が少ないんです。

例えば、対外的な会合を学校でしようとすると、
外部から人が学校にやってきて、
玄関に入ったところから迷っちゃうんです。
やれ、校長室はどこだろうなとか、
体育館はどっちだろうなとか。
消火器がどこにあるのかさえ、わかりにくい。
みんなベタベタと壁に張ってあるだけ。
糸井 あればいい、というものじゃ
ないですからね。
学校は、箇条書きの社会なんですよ。
全部一応書いてあるよ、というような。
内田 まだそういうところまで気が回ってないです。
やろうと思えばできることは
いくらでもあるんですけれども。
糸井 校長先生は、本当に
用務員さんも兼ねたような仕事ですね。
でも、聞いていると、
やっぱりやりがいがありますね。

(つづく)

2002-05-17-FRI

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