糸井 |
小川さんが出演された、NHKの
「課外授業ようこそ先輩」の中で、
弟子入りしたいという子どもが来たじゃないですか。
あの時に、小川さんが、
「とっても楽しい仕事だけれども、
家族との関係は、むずかしいですよ」
と、それだけおっしゃっていたのが、
すごく印象に残っていて。 |
小川 |
あぁ。 |
糸井 |
「そうだろうなぁ」とは思ったんですけど、
小川さんご自身のご家族との関係みたいなのは、
むずかしいなりに何とかなっているわけですよね? |
小川 |
そら、むずかしいでしょうなあ(笑)。
もちろん、自分は楽しいですよ、毎日毎日が。
正月でもいないぐらいですから。
でも、そうすると、
子供は何もかもわかりませんよな。
家内も、ちょっといろんな点で不満はあるでしょうな。
いや……「すごくある」んじゃないですかね。 |
糸井 |
(笑) |
小川 |
それがわかってきたのは最近でしょうなぁ。
30年ぐらい一緒にやってきて、
やっと「こういうもんだなぁ」という……。 |
糸井 |
それまで、気づきもしなかった!(笑) |
小川 |
気づきもしないですよ。 |
糸井 |
それ、おもしろいなぁ。 |
小川 |
はじめの頃は、嫁さんをつかまえて、要するに
「おまえも弟子とおんなしように
教育してやればよかったな」
みたいなことを言っていたもの。
そしたら、「わたしは弟子じゃない!」と怒ったよな。
ハハハハハ。 |
糸井 |
(笑)小川さんにとっては、
それは親切だったんですよね? |
小川 |
そうだよ。
仕事は、おもしろいことであり、
日常生活のことであり……と思ってた。 |
糸井 |
奥さんが
「わたしは弟子じゃない!」
って言ったのも、おかしいですね。 |
小川 |
今から思えば、そら、そうでしょうな。
嫁さんで来てるんですからね。 |
糸井 |
だいたい、小川さん、
なんでお嫁さんをもらったんですか? |
小川 |
それは、やっぱし、
面倒くさかったんですよね、生活するのが。 |
糸井 |
(笑)あはははは! |
小川 |
それで、嫁さんでももらおうかなぁ、
という気になるわけですわな。 |
糸井 |
つまり、宮大工の仕事にかかわらない
生活が、ぜんぶ面倒くさかったわけですね。 |
小川 |
そうでしょうな。日常生活としては、
ずうっと仕事をしていた方がいいのに、
やっぱし飯つくりをしなくちゃならないとか、あるから。 |
糸井 |
(笑)すごい理由だ。 |
小川 |
はじめ、嫁さんが来て、
嫁さんの寝相がちょっと悪いんですよ。
悪いといったって、普通の人でしょうけど。
西岡棟梁や俺は、ものすごく訓練しているから、
いつも、ピクリとも動かんで、寝ているわな。
それに比べたら、よく動くように見えたんだ。
だから、嫁さんに、
「ちょっと悪いけども、緊張して寝てくれ」
と言うて……そしたら、
「わたしは緊張しては寝られん!」と。 |
糸井 |
(笑)小川さんのそのセリフ!
「ちょっと緊張してくれ」って……。
理不尽な。 |
小川 |
悪いこと言ったよなぁ。
自分はそれまで西岡棟梁のところにいて
弟子入りをしているわけですよ。
そんで、棟梁の寝てる2階で、自分が寝てた。
棟梁はものすごい偉い人ですから、
それこそ物音一つ立てずに生活するわけですよ。
布団でもちゃんと下に置いて、
それを音をたてずに、静かにスーッと伸ばして、
そこに潜り込んで朝まで待つという寝方ですよ。
俺もそういう寝方を学んだわけだから、
いまだかつて目覚まし時計で目が覚めるとか、
そういうことはないですね。
何時といったら、すぐ起きる癖がありますので。
徒弟というのは、そういうふうなもんなんですよ。
棟梁とおんなし生活になっちゃうんですね。
だから、それはたしかに、
ふつうは緊張して寝られないわな。
緊張して寝たことがない人は。 |
糸井 |
(笑)普通は緊張したことないですよ。 |
小川 |
ハハハハハ。
ですから、一度でいいから
目覚まし時計で起こされて起きてみたい、
と思うときありますよ。しかし、だめですよ。 |
糸井 |
起きてしまう? |
小川 |
うん。
目覚まし時計が鳴る寸前に起きますから。
目覚まし時計がかわいそうですよ、
役に立たなくて。ヘヘヘヘヘ。 |
糸井 |
こんなに珍しい人だとは、
思いも寄らなかったですよ。 |
小川 |
そんな生活が普通なんです。
自分たちは、そういう毎日の中で、
仕事をしていくんですよ。 |
糸井 |
なるほどなぁ。 |