糸井 |
今、お話を聞いていると、
西岡棟梁と小川さんが一緒に過ごしているような
その生活って、他にたとえようがないですねぇ。
すごくおもしろいです。
たとえば、農家の方も、
鶏が鳴く前に起きるとか、
いろんなことをおっしゃいますよね。
農家にしても、そこでは生活と仕事が
一体になっているわけですが、それでも
娯楽をするだとかいう時間は、ありますよ。
でも、小川さんのお話っていうのは、
「ほとんどすべてが仕事」ですよね。 |
小川 |
それでずうっと生活してきたわけだから、
それしかないですよね。 |
糸井 |
しかも、楽しそうですよ。 |
小川 |
うん、楽しい。 |
糸井 |
楽しくなさそうだったら、
「そりゃ、おかわいそうに」
と言える生活なんだけど、楽しそうですよね。 |
小川 |
そりゃ、そうでしょう。
自分たちの仕事は、例えば大きなお金を預かって、
自分の思うようなものをつくらしてもらって、
で、最後に感謝状までもらうんですよね。 |
糸井 |
まぁ、確かに
そう言うなら、そうでしょう……。 |
小川 |
いや、ほんとに
こんないい仕事ないでしょう。
自分でお金を払って作らしてもらって
できるんだったら、それは普通ですよ。
しかし、向こうからお金を預けてくれて、
そんで、その仕事をさせてもらって、
自分の思うようなものを作らしてもらって、
最後にはみんなが、
「ありがとう、ありがとう」
と言ってくれるんですからね。
それでごはんを食べていられるわけです。
そうでしょ? |
糸井 |
そのとおりですよ。
いや、でも生活のすごさには、
「そのとおり」とここで言う以上の
何かを感じますよね。
だって、小川さんだって、
たぶん徒弟制度の中に入る前には
普通の子供だったわけでしょ?寝相の悪い。 |
小川 |
そりゃそうですよ。 |
糸井 |
そこは変わっていく、
という実感はあったんですか。
ひそかに涙を流した時とかも。 |
小川 |
そりゃ、多少はありますよ。
やっぱり苦しいというか、
そういう時は多少はあります。
しかし、修行するのに苦しいとか、
そういうふうに思う人がいますよね。
それは、その雰囲気の中に
入りこんでないから苦しいんですよ。
入りこんでしまえば、全然何でもないですよ。
だから、入りこめない子はかわいそうですよね。 |
糸井 |
入りこめるかこめないかという、
それはある種才能かもしれないなぁ。 |
小川 |
ですから、いろんな能力のある子は、
なかなか入りこめないです。
「仕事にどっぷり首まで浸れ」
と言うても、これは浸れる子と浸れない子がいる。 |
糸井 |
ええ。 |
小川 |
それはどこに違いがあるかというと、
むだな能力を持ってる子は浸れないですよ。
ここまで入るまでに
いろんなことを考えてしまって、ほかを見ますよ。
苦しくなったら、ほかを見ますよ。
でも、能力のない子は、苦しくても、
ひとつの仕事しか見られないんです。
それが、楽しいことなんですよ。 |
糸井 |
おぉぉ。
じゃあ、小川さんは、弟子を取る時に、
今のお話だと能力のない子を取るんですか? |
小川 |
うん、そうでしょうな。
自分は高校のとき、55人中55番ですからね。 |
糸井 |
見事ですね。 |
小川 |
見事ですよ。
339人中330番、あと9人いると思ったんですよ。
でも、まぁ、2日に分けての実力テストですから、
その時は9人ぐらい休んだんでしょうな。
ハハハハハハ。そんなもんですよ。 |
糸井 |
すばらしいですね。 |
小川 |
それぐらいだといいんですよね、やっぱり。
脇目をする必要がなくなるからな。 |
糸井 |
いいなぁ。(笑)
その学校の勉強の中には、
溶けこめなかったわけですか? |
小川 |
そうでしょうな。溶けこめば、
苦しくなく勉強できたんでしょうけど……
苦しかったんですよ、それには。
教科書は先輩からもらうんですけど、
きょう一日終わったら、これ、破って捨てる。
重いですから。
1枚1枚減っていって、そうすると、
試験のときになるとないんですよ、教科書が。 |
糸井 |
成績は、そこまで悪かったんですか? |
小川 |
悪かったでしょうなあ。 |
糸井 |
でも、運動は得意とか? |
小川 |
いや。
運動もそれほどでもないですねえ。
ま、適当にはやりますけど。 |
糸井 |
それも楽しくはなかったんですか。 |
小川 |
それもそれほど楽しくはなかった、やってても。 |
糸井 |
もう、運命としかいいようがないですね。 |
小川 |
そうでしょうな。
今の仕事が一番おもしろいんですからね。 |
糸井 |
そういう子どもが五重塔を見たら……。 |
小川 |
今思えばですけど、法隆寺を見る時も、
余計な知識がなかったのがよかったんです。
たとえば今も修学旅行生、たくさん来てますよ。
でもみんな、この仏さんは
ちょっと腰が曲がってるのが特徴とか、
指先がきれいだとか、
伽藍に立てば、こちらはエンタシスがあるのが
特徴だとか、学校の先生が教えてくるでしょう。 |
糸井 |
「勉強」ですね。 |
小川 |
そうなると、見方は同じですよ。
50人いれば、50人の見方、みんな一緒。
しかしその中に、やっぱしこの柱が
1,300年、塔を支えているんだなぁ、と。
それを感じとるぐらいの子がいたっていいでしょ?
知識にとらわれていない子は、
やっぱし、そこをわかるんですよ。 |
糸井 |
「さわってみる」という感覚かぁ。 |