小川 |
昔、ちょうど、
俺が東大寺にいて仕事をしてた時、
上から見たら、金髪のすごい子が来てた。
「ああ、元気なやつ来たな」ってなわけや。
両脇に、先生が2人、立っているんですよ。
修学旅行でも大変なんですよな。
でも、その子がこう伽藍に来た時に、
他にもたくさん来ていたけど、
その子だけだったよね、柱を抱いたのは。
あとの子は、素通りですから。 |
糸井 |
なるほどな。
他の子は「あ、なるほど、エンタシスだ」とか。 |
小川 |
うん。
でも、抱きついた子は、
もっとよくわかってるはずだ。 |
糸井 |
小川さんには、その子に近いものを感じますね。 |
小川 |
自分もそうだったような気がする。 |
糸井 |
小川さんが、五重塔を見た時に
「これだ!」と思ったのは、
言葉にして言えるような感覚ですか? |
小川 |
それは言えますよ。 |
糸井 |
どんな感覚ですか? |
小川 |
修学旅行で法隆寺へ行ったときは、
酔っ払っててダメだったんです。フラフラしてた。
……要するに、暇だから酒なんか飲んでたんですよ。 |
糸井 |
(笑) |
小川 |
ほんで、酒でボーッとしてたら、その時、
「1,300年前にこの塔ができたんですよ」
と案内してくれる方が言った。
そのときパッと思ったね。
「そんだったら、この大きな材料は、
どうやって運んできたんだ?
どうやって持ってきたんだろう?
1,300年前、どういうものがあったんだろう?」
そんなことを、思いましたよ。 |
糸井 |
酔っ払ってた高校生が一瞬にして……。 |
小川 |
そうですよな。
何にもねえから、頭の中に。
だからそう思った。 |
糸井 |
その時に一番つかまえたのは、
1,300年というイメージですか? |
小川 |
そうですよ。
自分は栃木県ですから、
1,300年というイメージはないですよ。
そういう時代というのは、わかりませんわな。
何ぼ古くたって、500年前くらいしかないですわ。 |
糸井 |
ぼくはいくつか化石を持っているんですよ。
それ、たまに見ますけど……
それだけで、気が遠くなります。
三葉虫だと2億年ですからね。
「2億年」ということを
イメージできないということに感動する。
きのうのこともイメージできる、
10年前のこともこのくらいって思える。
それからまあ、100年といっても、
おばあちゃんが生まれたとか、
目盛りがあるんですよね。
ところが……2億になると目盛りがない。
だから、2億年前も1億5,000万年前も、
ぼくにとっては同じなんだなぁ、
というふうにしかとらえられないので、
その「とらえられない」ということが
とても気持ちが悪いんですね。
だけど、その気持ちの悪さがいいんですよ。
だから、たまに見るんですよ。
何でしょうね、あの時間の恐ろしさって。 |
小川 |
そしたら、1,000年前はどうですか? |
糸井 |
1,000年前もとらえられないですね。
だけど、年表に書いてある目盛りがありますよね。 |
小川 |
はいはい。 |
糸井 |
あれで、はかっちゃうんですよ。
でも、違うってわかるんですよ。
1,000年はイメージできるはずない。
京都1,000年の歴史とかいうけど、
イメージできるはずなんだけど、
いつでもあの年表は、それこそもう、
エジプト文明から書いてあったりする。
紀元前4,000年ぐらいだと、なるほどなあ、でも、
「B.C.、のむこう側の4,000年の方が
今より長いんだなあ」とか漠然と思うだけです。
その「向こう側がある」ということが、
気持ちが悪くて気持ちがいいんですよね。
だから、時間って、酔いみたいなものがあるなぁと
いつも思うんですよね。 |
小川 |
自分、こういう仕事をしてますから、
1,000年というのは……イメージできます。
仕事をする前でも、
1,000年前、この塔をつくった人は
どういう考えでやったとか、
どういうふうにして運んできたかの気持ちなら、
高校生でも、それは何となくわかるんですよね。
だから俺は、
こういうものをつくった人の血と汗を学んだ方が
大学なんかへ行くよりも
ずうっといいと思ったんですよ。
法隆寺の五重塔は、
「つくろうと思う信念」というか、
そういう気持ちで、つくり上げたものだと思うんです。
その「気持ち」を学べばいい。
だから、法隆寺の大工さんを、
ちょっと目指してみようとして行ったわけですよ。 |
糸井 |
酔っ払いの高校生に、
一瞬にして伝わっちゃったんですねえ。 |
小川 |
酔っ払ってたからよかったんでしょうな。
ヘヘヘヘヘヘ。 |
糸井 |
すごい運命だなぁ。
修学旅行で、たまたま酔っ払ってて……。
もともと夢があったとかって
いうんじゃないですよね。
宮大工という職業を知らなかったでしょうし。 |
小川 |
ないですよ。全然わかりませんもん。 |
糸井 |
つかまえられちゃったんですね、向こうに。 |
小川 |
その時は、やっぱし、
「これをやってみよう、つくってみよう」
というだけですよね。 |
糸井 |
それが、スタートだったんですねぇ。
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