糸井 |
解体修理をしている時の小川さんは、
1,000年前にそれを作った人のやったことというのを、
今、現実にいる人に近いくらいリアルに感じますか? |
小川 |
うん。 |
糸井 |
隣にいて、当時の知恵を
ちょうだいしているぐらいの感じでしょうね。
「そうかよ、そうやったかよ」みたいな……。 |
小川 |
うん。
ですから、薬師寺の塔なんかを調べた時に、
塔の中に寸法をとるのにあがったりすると、
外側に見えないとことは、木のカタマリですよ。
昔はのこぎりがないから、
オノで樹木をたたき割ったんですよ、みんなで。
割ったただそのままが、内部に残ってる。
木と格闘した跡が、ありありとわかるんですよ。 |
糸井 |
中はそんなに荒々しいんですか? |
小川 |
うん。
それを見ると、そりゃ、
ジーッとしているだけでも、
何となく声が聞こえてくるように思いますよ。
そら、だれでも感じるでしょうな。
「これを運ぶときは大変だったろうなぁ」
「あ、ここで失敗してるんだな」
一本一本見れば、伝わってくる。 |
糸井 |
その荒々しい切り口というのを、
また真っすぐにするような工夫は、
内部に関してはしなかったんですね。 |
小川 |
してないですね。 |
糸井 |
その意図みたいなものは何ですか? |
小川 |
やっぱりそこまではできないんでしょうな。
する必要もないでしょ。
木は一本一本、みんなばらばらですから。 |
糸井 |
そうかぁ。 |
小川 |
前に出ているところを
そろえるだけで精一杯ですから。 |
糸井 |
そういうつくった時の気持ちが、
聞こえるんでしょうねぇ。
それこそ前の人が考えていたことが、
言葉になって聞こえるぐらいですか。 |
小川 |
そうですね。 |
糸井 |
「俺はこうしたんだ」と。 |
小川 |
うん、そうだよな。
だからな、例えば、
手抜きでもやって、ここまでやって、
あとは木で盛ったようなのもあるんですよ。 |
糸井 |
そんなのもある? |
小川 |
ああ。
「もう根性尽きておったんだな」
とか、こっちは思うわけや。 |
糸井 |
その時は、タイムアウトだったんだ。 |
小川 |
で、こっちはそれを見て、
「そういうことだけは残したくない」
と思うんですよ。ハハハハ。 |
糸井 |
うわあ……おもしろいなぁ、
その古い人たちとの会話は。 |
小川 |
そういうもんなんですね。
ああいう塔の中なんかへ入ると。
木をたたき割ってるんですから、
もう人の痕跡が残っているわけですし。 |
糸井 |
その古代の人と自分との間に
選手同士のライバル意識というか、
そういうものもあるんですか。 |
小川 |
それはありますよね。
「何にも道具がないのに、
ようこんなものをつくったなぁ」とか、
「どういうふうにしてこの心柱を立てたんだ?」
とか、それはもう、誰もわからないですからね。 |
糸井 |
「俺だったら……」
とか、絶えず思っちゃうわけですね。 |
小川 |
そう思いますよ。
自分だったらこうつくる、
自分だったらこうやるというふうな感じに、
絶えず、なりますわな。
それで間違ってたら、もう失敗なんですけども。
何を使ってつくるかというと、
これは難しいんですけども、たとえば今、
自分たち、施主から仕事をやらせてもらいますよね。
もしも、昔の人たちように
のこぎりを使わないでやれといったら、
それ、やってできないことはないですよ。
しかし、莫大な時間とお金がかかります。
ですから、それはできないから、
やっぱり楽な方、のこぎりを使ってやるんですね。
ですから、こういうことが言えるんです。
自分の師匠が亡くなって、
自分で使っていた道具が残っています。
その道具を見ると、道具が身構えているんですね。
今でも現場へ行って使えるというぐらいに
身構えているんです……すごいんですよ。
自分たちの道具は、3日もあけば
使いものになりませんわな。
もうボーッとしているわけです。
そのぐらいになってしまうんですよ。 |
糸井 |
ほおー。 |
小川 |
それは師匠のものだから
身構えているように見えると言われれば
それまでですけど、そうじゃないですよね。
例えばのこぎり1本でも、
師匠の引いたのこぎりは違います。
自分たちは、のこぎりでも引くのが大変だから、
電気ののこぎり、バーッと丸のこで切っちゃいますよ。
そうすると、道具にだって、
その個性というか、使っている時の気持ちが、
ちゃんと移るんですね。
だからこそ、徹底的に使われた道具は
今でも身構えますよ。
自分たちの気分で使われていたような道具だったら、
すぐボーッとしてしまいますよ。
道具というのはそういうもんですね。 |
糸井 |
なるほどなぁ。
秩序だって説明はできないけどわかりますね。
小さいときに本をたくさん買ってもらえない時の
1冊の本というのは、ほんとに本でしたよね。 |
小川 |
はい。 |
糸井 |
今は、ぼくらは、本をいくらでも買えるんですね。
そうすると、1冊ずつが単なるものなんですよ。
昔に、1冊の本だけしかない時に
大事にしていたようなものではなくなる。
やっぱり、関係が変わる。
レコードもそうだし……。 |
小川 |
そりゃそうですわな。
何でも、自分が持っている道具でも、
一番最初の道具は一番大事にするというかな。
思い出があったり何かします。
お金がなくて買えなくて親からもらったとか、
そういう道具は大切にしますよね。
そんで、今、買っているような道具は、
すぐに人にやってしまったり
何かしてしまいますけども……。
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