言葉の戦争と平和。
米原万里さんとの時間。
(「これでも教育の話」より)

11 愛と憎悪







こんにちは!
今日は、2通の感想メールを、ご紹介いたしますね!!!

「米原万里さんのコーナーで言われていた
 『自分が夢中になっていないと人を夢中にできない』とは
 本当にそのとおりですね。仕事でなかなか
 うまく波に乗れなかった理由がこの一文で解けました」

「今日は、なかなか手に入らなかったCDが
 手元に届きました。期待以上に良かったので、
 歌詞カードを見ながら聴き続けてこんな時間に‥‥。
 明日の仕事に備えて寝なきゃ、と思っているのに。

 あまりに時間の使い方が下手な自分に
 半ば落ち込んでいるところへ、ほぼ日メールが。
 米原万里さんの対談についての
 メールで、ちょいと和みました。
 『自分が夢中になっていないと人を夢中にできない』
 ‥‥このCDを作った人たちも夢中だったんだろうなぁ。
 私も夢中になって、明日の仕事に取り組んできます。
 CDの続きは、また明日聴くことにして、もう寝ますね」

「やま」さんと「そろん」さんのメールでした。
さて、今日は、「人間の感情について」の会話をお届け。
理性的な動物ではない人間の、愛と憎悪についてです。
どうぞ、今回の対談も、おたのしみくださいませ!!!








糸井 以前に、スポーツ系の方と
お会いして聞いたのですが、
「とっても才能のある選手は
 金メダルを取れない」んですって‥‥。
米原 あ、そうだろうね。
糸井 その人を追い抜こうと思っていた、
「ちょっとマシな人ぐらいの人」が、
自分より先を走っている天才を見定めて
努力していくと、金メダルなんですって。

金メダルの選手って基本的には、
本当に才能のあるやつが先にこぼれてくれて、
その結果、あそこの位置にいるそうで、
その話には、リアリティーありますよね。
米原 ちゃんとできちゃう人は、
それをできるということを、あんまり
ありがたいと思わないという面がありますね。
苦労しないで手に入れるから。

結局、人間って
自分がかわいくて、自分が努力した量が多いほど、
それを貴重に思えるじゃないですか。
糸井 それは、何かを学んでいくときの
大きなヒントですね。
米原 そうですね。
だから、何かたとえば男の人でも、
虫が好かない人の方が、けっこう本当は
よかったりすることある……それはないか(笑)
糸井 男だと、それはないですよ。
米原 ないですか。
でも、嫌いでも好きでも、
気になるんですよね、結局はね。
糸井 そうでしょうね。
たぶん自分にどこかで
一本通じているものがあるんでしょう。
米原 そうですね。
糸井 僕を大嫌いだというメールを送る人って、
僕のことをよく知っていますもん。
ひととおりぜんぶ知っていますもん。
‥‥ほんと、嫌いなんでしょうねぇ。
米原 そうですよ。
「愛」の反対語は「憎悪」じゃなくて
「無関心」だというぐらいだからね。
糸井 そういうことですね。
でも、そいつに愛されたいとも
思わないですけれども‥‥。

やっぱり時間というものがあるんで、
だいたいのケースでは、憎悪したままで、
人間の寿命って来ちゃうんだと思うんですよ。
なおるまでつき合わないもの。
米原 いや、憎悪というふうに
自分は認識しているけど、実は
愛だったりすることはあるんですよ。
だって、そんなに心のエネルギーを
使うわけですから、その人のためにね。
糸井 使っていますよねえ。
命をかけて、エネルギーをね。
米原 通訳するときも、
正反対の人の言葉の方が、訳しやすいんですよ。
すごく微妙に自分の立場と違う人が、
いちばん訳しにくい。

つい間違って自分に引き寄せちゃうでしょう?
だから、本当に微妙な違いの人の言うことを
正確に訳していくことはとっても難しくて
苦労するから、何か憎悪しますね‥‥その人を。

その、「ちょっとした違い」をね。

すごく離れていると、何かとってもラク。
糸井 通訳と通訳の会話を通訳する、
という場面とか‥‥嫌でしょうね。
つまり、スワヒリ語と日本語をしゃべれる人の。
米原 でも、しょっちゅうありますよ、
リレー通訳というの。
糸井 オーッ。
米原 ほとんど国際会議ってリレーが多いですよ。
糸井 そうか。
しょっちゅうあることなんだ。
米原 ええ。
たとえばインドネシア語で発言したら、
インドネシアの人がそれを英語に訳して、
その英語が日本語になって、
その日本語を私がロシア語にするとかね。
それをほとんど同時にワーッとやっていますよ。
糸井 もうイヤ‥‥。
米原 でも、もちろん途中でたくさん、
言いたいことが落ちてゆくんですけどね。
糸井 当然落ちるでしょう。
米原 落ちます。
糸井 スワヒリ語の人とロシアの人の間の違いなんて、
ぼくらには想像できないですものね。
前に話に出た「裸のつきあい」みたいな表現が、
その間に、何度も何度も出てきているかもしれない。
米原 ぜんぜん違う話に
なっていたりする可能性はありますよね。
糸井 何か国際社会って、実は
危ういところでつながっているんですね、思えば。
米原 ええ。
糸井 「私、あなた、好き」
ぐらいのことが、ベースなんですねえ。
米原 おそらくね。
糸井 たくさんのロジックが
やりとりされているんだけど、
やっぱり最終的に、
「よし」「いや、違う」
というところは、大きく感情の
うねりみたいなものが支配しますよね。
米原 そうですね。
人間は理性よりも感情で動きますね。
糸井 そっちの分量の方が大きいですねぇ。
何だこの野郎だとか。
それは現場に行って
絶えず感じていらっしゃるんですね。
米原 いや、国際舞台では、
けっこう、人間は見栄を張りますからね。
だから、かなり理性的な発言をします。
糸井 複雑だなあ。


(※明日につづきます。おたのしみに!!!)

2002-11-12-TUE


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