おとなの小論文教室。 感じる・考える・伝わる! |
Lesson11 恋愛、「告白」を科学する ------好きと言ってもいいですか? 今、好きな人、いますか? 好きな人を想い浮かべるだけで、胸が痛い。 そんなあなたのために、 今日は、若き女性科学者をお招きして、 とっておきの智恵をさずけちゃいます。 都内の大学院で生物学を研究する彼女は、 春野蝶々さん。 2000年のはじめ、 仕事で彼女に会った衝撃が忘れられません。 「本当の恋ってなあに?」 「頭がよくなる食べ物を食べてみたい」 そんな、とんでもない高校生の質問に、 ズバリ、ズバリ、と答える彼女!!! 私は、 「ええっ、科学ってこんなステキなものだったの、 私も高校の時、こんな人に恋の相談したかったよ」 って思いました。 恋愛にすべっていく人の多くが、客観性を失っている。 確実に、科学的に考えていけるのって、恋愛においても、 視野が広がるステキなことなんです。 では春野蝶々さん、お願いしまーす! (↓以下、科学者、春野蝶々さんによるレッスンです。) ------------------------------------------- こんにちは。春野蝶々です。 科学って、物理や化学や生物だけじゃありません。 もともとは、「考える道具」だったんです。 どんな身近なことでも、科学の対象になり得ます。 知識は必要ありません。 たとえばこんなことだって・・・ -------------- 「好きって言ってもいいですか?」 私は、今度の花火大会の日、ずっと好きだった先輩に 「告白」しようかどうか迷っています。 「好きです」と言ってもいいですか? どうかアドバイスをお願いします。 --------------- 『私はあなたが好き』と相手に伝えること。 それが「告白」。 この「告白」を科学してみましょう。 ◎なぜ告白したいのか 行動には目的があります。 「告白」の目的はなんでしょう。 なぜ『私はあなたが好き』と相手に伝えたいのでしょう。 相手に伝える、それだけが目的でしょうか? 秘めた想いを、相手に知ってもらえば、 それでいいのでしょうか? どうやら、そうではないようです。 「告白の目的」として、 思いつく仮説を立ててみましょう。 すぐに思いつくのは、『好き』と伝えられた 相手の反応を知りたい、ということ。 「あの人も私を好き?」これですね。 そして、おたがいに、おたがいを 異性として好きであることがわかれば、 天下晴れて「恋人」としての関係に入ることができます。 告白の最終目的は、 『相手と恋人関係になりたい』ということになります。 ◎どうして告白しないのか それだけのことであれば、 どうして最初のような問い、 すなわち 「好きって言っていいの?」がうまれるのでしょう。 ほんとうに問わなければいけないことは、 「どうやったら彼と恋人関係になれるの?」のはずです。 「彼と恋人どうしになる」という目的を達成するのなら、 彼がどれくらい自分を好きか、 情報を集める必要があります。 同時に、自分がどれくらい彼を好きか、 どうして好きか、 自分についての情報も集める必要があります。 ・いつもやさしくしてくれる (↑ほかの人にも同じくらいやさしくない?) ・話が合うから、彼が好き(←それだけ?) ・彼でなきゃだめなくらい、彼を好き (↑恋人でないなら、彼は必要ない?) そうすると 「彼はどうも今、女の子とつきあう気はないらしい」 ということがわかるかもしれない。 そうしたら、告白はしばらく待てばよいだけ。 あるいは 「自分はとにかく"恋人"と呼べる人がほしいのだ」 ということがわかるかもしれない。 そうしたら、彼でない人に目標を変えたっていいのです。 さらに、 「私は彼と、 友人としてでもいいからつきあっていきたい。 彼という存在そのものがだいじなのだ」 とわかるかもしれない。 そうしたら、彼とこだわりなくつきあえる関係を 築く方法を考えればいいのです。 ところが、そういったステップを飛び越えて、 「好きって言っていいの?」 と問いたくなるのはなぜでしょう。 ◎苦しさのわけ 「好きって言っていいの?」という問の影には、 「好きって言えたらなんとかなる」(かもしれない) だから「好きって言いたい」という願望がひそんでいます。 でも、 「好きって言えたらなんとかなる」 には根拠がないから、 「好きって言ってもいい」という 誰かの太鼓判を求めているのです。 これは、みごとに非論理的です。 なにせ、「好き」という言葉が 魔法の呪文になってしまっているのですから。 告白するかどうかを自分で決めるためには、 現状を見つめなくてはいけない。 相手が自分を好きでないという証拠を、 自分の目で確かめなくてはいけないかもしれない。 それがこわい。 「好きって言っていいよ」と誰かに言ってもらえたら、 とりあえずはラクなのです。 でも、それって、つらくないですか? 願望に引きずられて、告白という魔法を信じて、 つかのまの夢を見ている。 夢であることがどこかでわかっている。だから苦しい。 でも、夢がこわれれば、救いようがありません。 現状をしっかりと見つめて、 相手の気持ち、自分の気持ち、 そして自分と相手との関係について、 きちんと考えていくこと。 それはつらいかもしれませんが、 そのつらさと、根拠もなく築いた夢が こわれるつらさ、どっちを選びますか? ◎呪縛の魅力 恋人になりたければ、 恋人になれる方法を考えればよいだけの話だし、 それが無理だとわかったら、 よい友人になる方法を考えればいいんです。 「そんなに簡単にいったら苦労はしないよ」。 いいえ、簡単ではないんです。 考えるって、やっぱり、ちょっぴり、苦労なんです。 でも、目の前にある現象から目をそらし、 根拠なく築いた夢にとらわれて、 その夢に裏切られて、深い傷を受けるよりは、 ちょっぴり苦労して、現実を見つめ、 考えるほうがいいとは思いませんか? 妄想の城はここちよい。 でも、ほんとうに大切なのは、自分の妄想ですか? それとも、目の前にいる大好きな人ですか? それを選択するのは、私たちの理性です。 恐れずに知ること、そして、論理的に考えることで、 人の理不尽な苦しみをどこまで取り除けるか、 これからやっていきたいと考えています。 --------------------------------------------- (ズーニーあとがき) 「花火、告白…と言った時点で 自分の中での物語が始まっていて、 それはすでに相手の現実とズレてしまっている。 情報は相手と自分の間にしかなく、 五感すべてで確かめるしかないのに、 他の人に答えを求めている、 そして占いを見てムーンストーンをつける…」 みたいな心理、恋愛以外でも、 多くおこっているように思います。 さて今後も、ときどき春野蝶々さんに来てもらい、 科学的なものの見方を手に入れるレッスンを してもらおうと思っています。 占いや受験、就職など、科学の目で見るとどうなるか、 今からワクワクしちゃいます。 |
2000-08-09-WED
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